第22話 星空の下で……
季節が変わり、涼しい風が吹く秋の日差しの中で、健吾と摂は、久しぶりに休暇を取って、高原にある祖父の別荘にやってきていた。広々とした敷地内にテントを張って、外でバーベキューをして、アウトドアチェアに座り、ワインを飲んでいた。少し頬を赤くした健吾が懐かしそうに周囲を眺めた。
「子どもの頃、夏休みとかに、久志とよく遊びに来ていたんだ。木に登って降りられなくなって、諸角に助けてもらったりしたな」
摂が思い出して、くすっと笑った。その話は義母里佳子から聞いていた。降りられなくて泣いてしまったと言っていた。健吾が拗ねたように唇を尖らせた。
「子どもの頃のことだからな」
摂が微笑んだ。
さあっと風が吹き、紅葉の木々の間を通って、芝生まで届いていた。健吾がワインを飲み干した。
「ちょっと涼しくなってきたか」
摂もグラスを傾けた。
「そうですね、でも気持ちいいです」
選挙の後、結果を受けて、社内はある種お祭り騒ぎになっていた。健吾に投票しなかった社員もいたが、離反するようなことはなく、誰彼とはなく公平な対応の健吾に信頼を寄せるようになっていった。健吾は、とにかく、選挙後各社に挨拶に回り、顏を出して、要望を聞いたり、実情を調べたりと多忙で、マンションに帰れない日も多々あった。
摂は、その間、日雇いの仕事に行っていた。自分で稼いだお金で買いたいものがあったのだ。先日なんとか溜まったので、購入したのだが、気に入ってもらえるか心配だった。
「あの、健吾さん、今日お誕生日でしたよね」
健吾がワインのお替りを注ぎながら、頷いた。
「ああ、31歳になったな」
ここ数年、誕生日と言っても特別祝い事をすることもなかった。すると、摂が後ろから、リボンの掛かった箱を取り出してきて、差し出した。
「おめでとうございます。これ、わたしが買える範囲のものなので、あまり高いものじゃないんですけど」
健吾が戸惑った様子で受け取り、しげしげと見つめた。けっこう大きな箱だ。
「開けてもいいか」
頷く摂に、リボンを解き、包装紙を取った。よく知られたメーカーのシューズ箱だった。スニーカーが入っていた。
摂がにっこり笑って、自分の足元を指した。
「ああ、そうか」
摂が、今日から履くと言っていたスニーカーとお揃いのものだった。
「ありがとう、早速履こう」
お揃いのスニーカーでしばし庭を散歩した。次第に暮れていく中、テントの中に入った。入口にお揃いのスニーカーを揃える。大きな健吾のスニーカー、小さな摂のスニーカー、その並んでいるところをちらっとふたりで振り返って、微笑み合った。
テントの中央に大きな寝袋がひとつ敷かれている。
「随分大きな寝袋ですね」
一緒に寝るのかしらと顏を赤らめた摂が尋ねると、健吾が縁のファスナーを見せた。
「ふたつの寝袋を連結してるんだ。……その、いやか?」
早まったかと健吾が慌ててしまった。しかし、摂が素早く首を横に振り、さっと寝袋の中に滑り込んだ。
「いやじゃないです!」
寝袋の端から顏を半分出して、上目遣いで見上げてきた。そのかわいらしさに、健吾がもう限界だと思った。摂がしみじみと言った。
「すごく落ち着きます」
テント生活していた時のことを思い出して、健吾も同意した。
「ああ、俺もだ」
寝袋にそっと入ると、摂の頬に手を添えて、ゆっくりとキスした。深く熱くなっていく口づけ。健吾の力強い腕に抱かれて、摂は幸せを噛み締めていた。
「摂……好きだ……」
健吾が摂のスエットの上着の裾から手を入れてきた。優しい手のひらで包み込んでくれる。
下も取り払われて、肌と肌が直接触れ合い、次第にふわふわとしていく感覚の中で、ふと、摂が天井を見上げた。天井に一部がビニールで透けて見えるようになっていて、そこからキレイな星空が見えた。
「キレイ……」
愛撫に夢中になっていた健吾だったが、その囁きに振り向き、見上げた。そこには、初めてキスしたときに一緒に見た星空が一層輝いて見えていた。
「ああ、キレイだな」
降るような星たちに見守られながら、ふたりは結ばれた。
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