第21話 選挙当日
いよいよ投票日当日。超高層ビルの最上階にあるグループ統括部門の会長室に、長男誠司、次男侑吾、その妻たちと孫たち、その妻、婚約者が集まった。壁に掛かった大型スクリーンには、集計の途中経過が表示されるよう、セッティングされていた。広い会長室のデスクには会長と妻の初美が座り、その前の右側のソファに長男たち、左側のソファに次男たちが座った。司会は会長の秘書で、久志の父親三輪丈志だった。
「まもなく開始時刻となります。投票は各個々人のスマートフォンから、外部システムにより、集計されます」
緊張が室内を走り、しわぶきひとつない沈黙の中、スクリーンに表示が現れた。
「信彦 -------票 健吾 ------票」
そして、時間となり、カウントが始まった。ほぼ同じスピードで票が増えていく。グループ全体の社員数は子会社、関連会社含めて53万人。
信彦と早苗はゆったりとソファに背を預けて、勝利を確信しているような態度でいる。健吾は微動だもせずに腕を組み、スクリーンを見つめている。摂は内心ハラハラしながら、票が増えていく様子を見ていた。
「信彦 130250票 健吾 98503票」
信彦が勝ち誇った顏で健吾を見て、せせら笑った。だが、時間が経つにつれ、信彦の票の伸びが悪くなり、健吾の票が増えて来た。
それを見て、信彦の握った拳が震えて来た。
「信彦 210025票 健吾 250690票」
ついに信彦の票の増加が停まり、健吾の票が増え続けた。
信彦が、ソファから立ち上がり、声を荒げた。
「こんなのでたらめだ!」
スクリーンのリモコンを持っていた秘書の丈志から奪って、画面を消してから、健吾を指さした。
「おまえがなにか工作したんだろう!こんなはずない!」
健吾が腕を組んだまま、首を振った。
「俺は何もしていない、工作したのはそっちだろう」
昇進を餌に票集めをさせ、子会社に圧力を掛けたことを暴露した。
「そんなこと、当たり前のことだ!別に不正じゃない!」
その時、会長が、丈志に手を振って、促した。丈志が会長に頭を下げてから、発言した。
「信彦様、選挙に対して、その行為は違反に当たりますよ」
そして、奪われたリモコンを取り戻して、スイッチを入れた。
「信彦 210160票 健吾 319842票 集計終了」
侑吾と里佳子が小さく悲鳴のような感嘆を漏らした。摂も手を口に添えて、溢れるうれしさを押さえた。
誠司がガクッと肩を落とし、信彦が膝から崩れ落ちた。会長が更に丈志を促した。
「信彦様、あなたの不正はこれだけではありませんよね?香港にペーパーカンパニーを作り、架空発注をして、売上を隠匿して、マレーシアに豪邸を建てて、女性を住まわせていますよね」
健吾がマレーシアに出張に行ったのは、信彦の別宅を調べに行くことも含まれていた。信彦が顎をがくがくとさせて、弁明した。
「違います、不正ではなく、その、会社の資産の保全のため……」
早苗が信彦の腕を掴んだ。
「ちょっと、女を住まわせているってどういうこと!?」
「いや、違うんだ!」
言い争い始めたふたりに、会長が叱咤した。
「夫婦喧嘩なら帰ってからにしろ」
会長が続けた。
「信彦、警察に訴えはしないが、社内監査での処分が出るまで、しばらく自宅謹慎していろ。誠司」
呼ばれて誠司が慄いた表情で会長を見た。
「このような不祥事、外に漏れないようにしたい。そのため、おまえは処分しないが、息子の躾をしなおすんだな」
ふたりとも愕然として項垂れた。居住まいを正した健吾に会長が厳しい口調で訓じた。
「健吾、選挙の結果を受けて、おまえを後継者とするが、実際にわたしの後を継ぐのはかなり先のことになる。その間のおまえの行動や実績次第では、継ぐことがなくなることもありうる。しっかりと心して掛かれ」
健吾が立ちあがり、深々と頭を下げた。摂も一緒に立ち上がり、お辞儀した。
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