第4話:ダンジョン

「青年団と壮年会は、はぐれモンスターを狩ってくれ」


 克徳がゲート前に集まった有志の面々に言う。

 事もあろうに、地区会館と氏神神社の間にゲートが出現してしまった。


 3メートルほどの道路を挟んで危険極まりないゲートが出現してしまった。

 これでは祭や葬式などの地区行事ができなくなってしまう。


「任せろ、こんな短時間に発見できたゲートのモンスターなら斃せる」


 ゲートの発見が早かったので、まだゴブリンしか出現できない。

 ダンジョンで鍛えられた有志の面々なら、ゴブリン程度なら楽に斃せる。


 地区の住宅を襲われたとしても、モンスター禍対策でガラスから強化ガラスや戸板の変えられた窓や扉は、ゴブリン程度では破壊できない。

 

「俺はゲートに入る、後は任せたぞ」


 克徳が3代目の青年団長に言う。

 青年団は結成から29年経っていて、今はもう29代目の青年団長に代替わりしているが、深夜の緊急事態に集まった人の中では3代目青年団長が一番信頼できた。


「はい、任せてください」


 山本克徳は高井彩葉がいるか見渡したが、深夜にゲートが出現したのと、出現場所が彩葉の自宅から少し遠かったのでいなかった。

 克徳は彩葉がいないのを確認して、1人で出現したばかりのゲートの中に入った。


 ゲートをくぐった先には、ゴブリンを中心とした弱小モンスターが集結していた。

 狭く小さいゲートを徐々に広げる為、多数のゴブリンが見渡す限り集結していた。


「日本はお前らに渡さない、死にさらせ!」


 克徳は両手に天叢雲剣を持ち、舞うようにゴブリンを斬り殺していった。

 見せる技は使わず、安全確実に最速の殺し方を選ぶ。

 あっという間に、見渡す限りゴブリンの死体が転がるようになった。


「クゥ、クゥ、クゥ、クゥ、クゥ、クゥ、クゥ、クゥ」

「カァー、カァー、カァー、カァー、カァー、カァー」

「チュン、チュン、チュン、チュン、チュン、チュン」

「ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン、ワン」

「ウォオオオオン、ウォオオオオン、ウォオオオオン」


 神使に成ったばかりの動物たちが、ゲートを潜って異世界に入って行く。

 克徳が斃したゴブリンの遺体を食べて、魔力を取り込み強化成長進化していく。

 ゲートを通れるギリギリまで強化成長進化してから地球に戻る。


 ゲートが狭く小さいので、神使が強化成長進化できる限度が低い。

 だがその分、生まれたばかりの神使を数多く強化成長進化させられる。

 魔力を取り込んで少しでも強くなった神使は、宝石よりも貴重だった。


 小1時間で、ゴブリンを中心にコボルトやオークで編成された、異世界の大軍団が皆殺しにされ、遺骸をさらす事に成った。


 神仏から新たに神使に任じられた動物たちが次々と現れては異世界に入って行く。

 異世界に入って行った数だけ、少し強くなった神使が地球側に戻って来る。

 少し強く大きくなった神使たちは異世界から地球にモンスターの遺骸を運んだ。


『守護神使格が集まっています』


 氏神様の境内でお世話している神使、神馬がゲートの地球側から声をかけた。

 残念だがゲートが狭く小さいので、それなりに強い神馬は通れない。

 神通力しか授かっていない人間は通れるが、魔力も得ている神使は通れない。


「分かった、これ以上は狩らない、遺骸を全部運び入れるまで守備に徹する」


 克徳が神馬の言葉に答え、異世界で神使が殺されないように目配りした。

 数が多過ぎて、全ての遺骸を運び入れるのに3時間もかかった。


「高天原という天上の世界に住んでおられる神仏よ。

 どうか我が願いをお聞き届けください。

 異世界から攻め込んでるモンスターを迎え討つダンジョンをお創りください。

 困窮する信徒たちに食を与える為のダンジョンをお創りください。

 必要な魔力は攻め込んで来た悪辣非道なモンスターから奪います」


 克徳が神々に祈ると、ゲートの地球側にダンジョンが創られた。

 守護神使に近い強い神使たちが、身体内に貯めた魔力を放出して、ダンジョンを創り出す材料とした。


 創られたばかりのダンジョンは、守護神使の階層と防御通路階層しかない。

 まだ小さくて狭いゲートなので、入って来るモンスターも小さくて弱い。

 だから小規模なダンジョンでも十分なのだが、油断できない。


「よく戻ったな、こっちのゲートの警戒は俺たちがやっておく。

 克徳は地区のダンジョンを頼む」


 総区長がダンジョンから戻った克徳に言う。

 克徳が異世界で戦っている間に、多くの有志が集まっていた。

 第3代青年団長から、当代の総区長に指揮権が移っていた。


 戦闘力は比較にならないくらい克徳の方が強いが、偉そうなのは総区長の方だ。

 長年の人間関係が、強さだけではない序列を作っている。


「分かっている、ダンジョンを創るのに必要な魔力を捧げると約束した。

 新しいダンジョンを創った分だけ神仏の神通力は少なくなっている。

 それを補う約束は守らないといけない」


 克徳はそう言うと地区で管理しているダンジョンに入った。

 全速力で駆けて、食料階層と通路階層を越えて守護神使の階層に入った。


「使ってもらった魔力を返す、ついて来てくれ」


『『『『『当然だ、利息を付けて返してもらうぞ』』』』』


 新しいダンジョン創りに多くの魔力を使ってくれた神使たちが言う。

 守護神使たち準じる強さだった神使たちが、今では大幅に弱くなっている。

 以前はワームを一撃で斃せたのが、今はファイターオーク程度になっている。


 そんな神使たちを元以上の強さにするために、克徳は異世界に入る。

 最初に、地球側からの侵攻に備えていた見張り1000匹を皆殺しにする。


 昨日大量に殺した後なので、見張りしかゲートの周辺にいなかった。

 遊撃のワームも駐屯のモンスター大軍団もいなかった。


「奥深くまで行くが、大丈夫か?」


『強くなるためだ、少々の危険は覚悟している』


 克徳に付き従った神使の1体が即座に答えた。

 神仏に仕える神使として、少しでも早く元の強さに戻ろうとしていた。

 見張りのゴブリン1000体程度では、全然魔力が足りない。


 ゲート近くには、新たに現れたダンジョンで少しだけ強くなった神使たちが集まり、見張り1000体の遺骸を食べて強くなろうとしていた。

 そんな神使を守るのが、守護神使に準ずる強さの神使たちだ。


 克徳たちはゲートから遠く離れた場所にまでモンスターを探しに行った。

 5キロほど離れて、ようやくモンスターの集落にたどり着いた。


 神通力を五感に流して集落を探ると、地球人の女性が捕らわれていた。

 事もあろうに、ゴブリンを生ませる道具として捕らえていたのだ。

 激怒した克徳は、200体ほどのゴブリンが住む集落を襲って皆殺しにした。

 

「高天原という天上の世界に住んでおられる神仏よ。

 どうか我が願いをお聞き届けください。

 異世界で地獄の苦しみを味わった女性たちが暮らせる階層をお創りください。

 必要な魔力は私が手に入れます、お願い致します」


 克徳は神仏に女性たちが暮らせる階層をダンジョン内に創って欲しいと願った。


「この人たちを地球側に運んでくれ、頼む」


『『『『『分かった、任せろ』』』』』


 付き従っている神使たちに、女性たちを安全にダンジョンに運んでくれと頼んだ。

 神仏も神使たちも、快く克徳の願いを聞いてくれた。


「俺は神通力の許す限り、囚われている人がいないか多くの集落を確かめて回る。

 捕らえられている人がいたら、この命に賭けて助け出す。

 神使の安全を保障できないから、付いて来るかどうかは任せる」


『『『『『自己責任だろう、分かっている』』』』』


 克徳は神使たちの事を考えずにゲートから遠く離れた集落まで行った。

 子供を産む道具にされていた女性たちを救いだし、ゴブリンを皆殺しにした。

 モンスターの魔力を神使たちに与える事など考えず、女性たちを助けて回った。


 見張りを全滅させられ次々と集落を襲われて、異世界の神も無視できなくなった。

 人くらい大きな蜂型魔蟲やグリフォンのような魔獣を、克徳に向かわせた。

 近くに住むワームも集結させて、克徳たちに向かわせた。

 

 蜂型魔蟲のポイズンビーやグリフォンが群れを成して克徳たちを襲う。

 空中を素早く立体的に飛ぶモンスターを斃すのは、本来なら至難の業だ。

 だが克徳は楽々と斬り殺していく。


『『『『『どんどん殺して食べさせてくれ』』』』』


「任せろ、付き従うなら好きなだけ喰わせてやる」


 克徳に付き従った神使たちが嬉々としてモンスターの遺骸に喰らいつく。

 貪るように喰らってドンドンと魔力を身体に取り込む。


『そろそろ神通力が限界なのではないか、いいかげん戻れ』


 神馬に諭されて克徳は地球側に戻った。

 自分が死んでしまったら捕らわれた女性たちを助けられなくなる。

 そう自分に言い聞かせて、神通力を回復させるために自宅に戻って眠った。

 

★★★★★★


「緊急避難警報、緊急避難警報、ゲートが出現しました。

 至急防魔砦か防魔室にお逃げください、至急防魔砦か防魔室にお逃げください」


 深夜に緊急避難警報が鳴り響き、克徳は飛び起きてゲート出現地点に急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る