第2話 代わりに

「け、結婚……!? 結婚って、いきなりそんなこと、言われても……」


 ティアナは困惑した様子を見せるが――先ほどまで婚約者を相手にしていた時とは違い、満更でもない表情を見せていた。

 はっきり拒絶されなかった分、レイリは少し安堵する。

 もしもここで拒絶されるようなら――どうして強くなったのか、分からなくなってしまうからだ。


「いきなりだなんて、そんなことないよ。言ったよね? 君を守れるくらい強くなったら、結婚してくれるって」

「それは……確かに、覚えてはいるわ。けれど、子供の頃の話で……まさか、その言葉を頼りに……?」

「もちろん」


 レイリは迷わず即答する。

 だが、ティアナの返答を待てずして声を荒げたのは背後にいた男だ。


「いきなり割って入って、どういうつもりだ……? レイリ・アルフェントと言ったか――この俺が誰か、分かっているのか?」

「誰だか知らないけど、彼女は嫌がっていたじゃないか。決闘なんて理由をつけて、彼女を自分のものにしようだなんて――男のすることじゃないと思うけどね」

「……弁えていないのはお前の方だ! よく聞け、俺はクロイス・デルトール! この国の貴族だ!」

「……それで?」

「なに?」

「君が貴族だとして、僕に何か関係があるのかな?」

「……っ、あるに決まっている! ティアナは俺の婚約者だ! この俺を差し置いて求婚だと!? ふざけるのも大概にしろよ!」


 男――クロイスは随分と怒っている様子だ。

 それもそのはず――自身の言葉には一切耳を貸さなかったはずのティアナが、レイリに対しては困惑した様子を見せている。

 昔に何か約束があった、どうやら気がある様子――それだけで、クロイスの神経を逆撫でするには十分なのだ。

 だが、レイリは臆することなく言葉を返す。


「確か、君は彼女に言ったね。決闘で勝てば、支持をすると」

「……それがどうした? お前には関係ない――」

「代わりに僕が決闘を受けよう。僕が勝ったら、彼女には二度と近づくな」

「な……ちょっと、勝手に何を言っているのよ!?」


 さすがにこの提案にはティアナも驚いた様子だった。


「大丈夫、僕は負けないからさ」

「これは私が申し込まれた勝負よ……! 悪いけれど、外野のあなたには関係のない話で――」

「待ってくれよ。これは俺も売られた喧嘩のようなものだ――ティアナ、君との決闘は一旦預けて、先にこいつと勝負することにした」


 ティアナの説得をしようかと考えていたが、どうやらその必要はないらしい。

 クロイスは貴族――そんな彼が、目の前で婚約者を奪われようなどと、たとえ可能かどうかは別にして、黙っていられるはずもないようだ。

 いきなり目の前に現れたレイリなど、彼にとってはその辺に転がる石のようなものかもしれない。

 実際、クロイスもティアナも――レイリの実力など知るよしもないだろう。


「受けてくれるんだね、助かるよ」

「相手が一人や二人、増える程度は何も変わらない。俺が勝てば、ティアナは俺のモノになるんだ」

「なるほど、確かに間違ってはいないと思うよ――僕に勝てればの話、だけれど」

「言うじゃないか。余所者が……後悔するなよ?」

「……っ、わ、私を無視して話を進めるんじゃないわよっ!」


 ティアナが声を上げるが、すでにレイリとクロイスの間で決闘が行われるのは確実だ――まずは、彼女と落ち着いて話をするために、目の前の邪魔者には退場してもらう必要がある。

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