幼い頃に「私を守れるくらいに強くなったら結婚してあげる」と約束した令嬢のために『最強の剣士』になった
笹塔五郎
第1話 君を守れるくらいに強くなった
子供の頃の約束なんて――覚えている方が少ないのかもしれない。
けれど、確かに彼女に救われた事実はあって、だからこそ強くなったのだ。
あらゆる敵から、彼女を守れるように。
***
『オーデルタ帝国』の帝都――『バルドア』。
大通りから少し外れ、人通りがやや少なくなった道の途中に、レイリ・アルフェントの姿はあった。
長い黒髪を後ろに束ね、白いシャツに黒を基調とした上着を羽織っている――整った顔立ちもあってか、時折すれ違う人々はレイリのことを見て振り返る。
腰に下げているのは鞘に納まった一本の剣――周囲を確認するように歩きながら、レイリは小さな声で呟く。
「確かこの辺りだと聞いていたけれど」
レイリはある少女を捜してここにやってきた――だが、さすがに帝都は広く、ある程度の居場所を把握していれば簡単に見つけられるかもと思っていたが、そう一筋縄にはいかなかった。
「どうしたものか――ん?」
レイリが悩んでいると、少し離れたところで何やら人が集まっているのを目にする。
どうやら男女が言い争っているようだが、少女の方を見て――レイリは目を見開いて、小さく笑みを浮かべた。
幼い頃と変わっていない――少し赤色がかった長髪で、随分と可愛らしく成長している。
「――私は魔術師として活動をするために、ここにいるのよ。何で、あなたにそれを邪魔されないといけないの!?」
「何度も言わせないでくれ。君は俺の婚約者で、魔術師になる必要なんてないんだ」
「それはお父様が勝手に決めたことよ! 婚約者だなんて、私は認めた覚えはないから!」
「貴族の世界とはそういうものだよ、ティアナ・スフィーリエ――大貴族の令嬢であるのなら、同じ貴族である俺には敬意を払うべきだ」
「そうやって権威ばかりかざして……。魔術師にとって、それこそ立場なんて関係のない話よ。優秀であるかどうか――それ以外のことなんて無意味なんだから」
「やれやれ、聞き分けのない子だ。だが、確かに君が魔術師としての刺客を有している以上――俺が貴族であるという肩書きもそこまで大きな意味を成さないのは事実だ」
「分かったのなら、この話は終わり――」
「一つ、俺から提案がある」
「提案……?」
男が少女――ティアナに向かって言い放つ。
「あえて貴族らしく――正々堂々、決闘をしよう。もしも君が俺に勝てば、全面的に君が魔術師として活動することを支援しよう。悪い話ではないんじゃないか?」
「……もし、私が負けたら?」
「これは決闘だ――分かるだろう? 君が負ければ、潔く魔術師を辞めて、僕の婚約者として努めることだ」
男の申し出に、ティアナは少し考え込むような表情を見せた。
目の前の男はスフィーリエ家と肩を並べるほどの大貴族――その全面的な支援というと今後、ティアナが魔術師として活動することも妨害されず、かつ協力もするという意味だろう。
婚約も解消されるに違いない――だが、負ければ魔術師を辞めることになる。
それはただの決闘ではなく、ティアナの今後の命運をかけたものだ。
当然、簡単には決めることなどできるはずもない。
「別に、ここで決闘を受けない選択肢だってあるさ。その場合は、今後も君には婚約者としての立ち居振る舞いについてこうして話す機会をもらうことになるけれどね」
「……っ、本当に、私が決闘に勝てば魔術師になることを認めるのね? 婚約についても正式に解消させてもらうわよ」
「もちろんだ。もっとも、君が魔術師として成功するかどうかは君次第だし、、俺に勝てればという条件もあるが」
「……」
ティアナはしばしの沈黙の後、口を開く。
「分かったわ。受けて立――」
「ティアナ、久しぶりだね」
そんな二人のやり取りに割って入ったのは、レイリであった。
突然の乱入者に、二人は困惑を隠せない。
「……何者だ? 今、俺達は大事な話をしているんだが……ティアナ、君の知り合いか?」
「違うわよ。ちょっと、何をいきなり割り込んできて……!」
「ティアナ、僕だよ。レイリ・アルフェントだ。覚えてない?」
「あなたなんて知らな――って、レイリ……?」
名前を聞いて、ティアナは何やら思い立ったようだ。
彼女といた時間はそんなに長いわけではないし、ひょっとしたら覚えてもいないかもしれない――そう思っていただけに、名前を聞いただけでも反応してくれて、少し嬉しくなる。
「アルフェント……?」
一方、男の方もレイリの姓に反応していたが、そちらには目もくれずにアンリに向かって言う。
「君は魔術師になったんだね。子供の頃と変わってない――僕も、君との約束を果たしにきたんだ」
「約束……? 約束って――まさか」
この反応、どうやらティアナは完全に思い出してくれたらしい。
ちょうど、彼女の前には望まない婚約者もいる――宣告するにはうってつけの状況か。
「僕は君を守れるくらいに強くなったんだ。だから、僕と結婚してくれないか?」
――周囲で見守っていた人々も、一気にざわつく。
婚約者を名乗る男を前にして、レイリは略奪愛を決行したのだから。
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