第2話 トリの降臨

 トリの降臨……まさに、最後の妖精族の響きに聖なる森の最奥さいおうは、泡沫うたかたの喜びに包まれていた。


 妖精族は、毎日のようにお祭りのような日々を送っていた。

 まさに羽根を伸ばした、雛たちの祭り『』である。


「それにしても、今回の降臨の輝きはずいぶん長いわねぇ……」

 長老組の妖精族は、そんなことをつぶやき出した。

 まもなく輝きが始まり始めてから、一年になろうかとしている。

 今までは、精々二・三ヶ月のことだ。

 妖精族の時間間隔では些細な差では有るのだが、こと新しい妖精族の降臨である。

 期待感の高まりに、時間経過にも徐々に敏感となりつつあった。


 とある満月の夜、月が天頂に差し掛かると『ユグドラシルの大樹』全体が月光を反射して、生みの鳴動を始めた。

 小さなウロからは、一際まばゆきらめきに包まれたかと思うと、新たな妖精が飛び出してきた。


 生まれた妖精の名付けは、『ユグドラシルの大樹』自らが行なう。

 天空からヒラヒラと大きく立派な一葉が、揺らめき落ちてゆく。

 妖精族の長の一人がそれを取りに向かうと、舞い落ちる一葉は新たな命の上にそっと覆いをかける。

 長老がその葉をめくると、古代精霊文字で書かれている。


―― 命名『プリシラ』。我がユグドラシルの大樹のにして、後継の者 ――


 妖精族は一様に驚いた。

 最後の一文は未だかつてどの妖精にも与えられなかった、尊嵩そんすうの呼称であったからだ。

 文字通り読むならば、『ユグドラシルの大樹』の意志に於いて妖精族の女王が生まれたことを意味する。


 これが事古ことふるの世であれば、素直に受け入れられたかもしれない。

 しかし最後に妖精族が生まれてから、既に数千年の時が流れている。

 コミュニティのルールは自然と硬直化して、年功序列の長老たちによる合議制で全てが決めらられていた。

 まだ幼い妖精たちは、長老たちの導きのもとで何の躊躇ためらいもなく従ってきた。


 別段、長老たちによる導きに問題があるワケでも無かった。

 むしろ経験豊富な知恵を、寄せ集めた上での決定である。

 等しく、妖精族全体の利益を考えた上で決定される。


 そこには、既得権益などという概念はない。

 そもそも妖精族は好奇心旺盛な面はあっても、財物に固執することは無い。

 彼女たちは悠久の時を生きるために、形ばかりの価値が時代とともに色褪せ、やがて新たな価値が台頭することをよく知っているのだ。


 また妖精族に老害と言う言葉もない。

 エーテル元素によってのみ生きる彼女らには、老化と言う概念は無縁である。

 より大きなエーテルに呑み込まれて、消失することは在っても、基本的に彼女らに寿命と言う概念もない。


 ただし妖精族の社会に於いて、これまで「支配者」といった概念も無かったのである。

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