【トリの降臨賞受賞作】夢みる妖精とゴーレムのみる夢【オムニバス】

そうじ職人

夢みるプリシラ編

妖精族のプリシラ【KAC20253】

第1話 ユグドラシルの娘(こ)たち

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 を撥ね退けて起き上がると、プリシラは思った。

(夢……良かった。これじゃあ悪夢と何にも変わらないじゃない!)


 そう、夢の中ではキレッキレな・パフォーマンスを妖精族全員に見せ付けていたのだ。

 今や妖精族なんて、周りに一人だっていやしないのに。


 たまに「あの日」に起こった出来事を夢に見るの。

 妖精族は滅多に眠らない。

 故に、滅多に夢を見ることも無いのだ。



◆    ◇    ◆    ◇    ◆



 『ユグドラシルの大樹』は、この世界の中心そのものだ。

 ユグドラシルは、世界中のエネルギーを吸収して、魔力的エネルギーのみなもとであるエーテル元素として吐き出す。


 そうしたエーテル元素は、様々な環境によって変化して【水】【土】【風】【火】の四元素として定着する。

 そして最も純粋なエーテル元素そのものは、ユグドラシルの大樹の中で育まれて『微精霊』として世界に放出される。

 そんな純粋な微精霊ですら、世界の環境によって変化を続けて、やがて四元微精霊となり世界中に散らばってゆく。


 世界中に散らばった四元微精霊ですら、明確な意識は持つことは無い。

 ある者は、より霊格れいかくの高い聖獣……例えば『ドラゴン』の体内に蓄積され、太古の龍種(アンシエント・ドラゴン)の一部となり、ある者は成長をとどめた後に結晶化して『魔晶石』となる。


 それが、この世界のことわりである。


 ただし、一つだけ例外がある。

 ユグドラシルの大樹には、一つだけ小さなウロがある。

 そこにも、純粋なエーテル元素が蓄積される。

 そして微精霊が生み出されるよりも遥かに長い年月を掛けて、自我を有した『妖精』を生み出すのである。


 しかし、その周期も時を経るにつれて、ドンドンと長くなっていくのであった。

 ユグドラシルの大樹は、前回妖精族を生み出してから数千年の間、新たな妖精を生み出すことは無かった。


 妖精族に、男性はいない。

 一説には、ユグドラシル自体を擬人化した姿だからと、まことしやかに語られている。

 真実は、誰にも知る由もない。 

 何故ならそれは、誰も立寄ることのできない聖域『ユグドラシル』の大樹の周辺だけでしか起こらない、奇跡の光景なのだから。

 いつしかここは、ユグドラシルの大樹を囲う木々に覆われ、深き森となり『聖なる森』と呼ばれるようになる。


 そんな『聖なる森』の最奥さいおう、ユグドラシルの大樹の周辺は、女性だけの妖精族がまう、秘密の花園となっていた。

 妖精族は悠久の時を掛けて、その濃度の高いエーテル元素を使って幻惑魔法(イリュージョン・ミスト)の結界を敷いた。

 彼女たちの結界の中では、常に妖精たちによる「キャッキャ、ウフフ」の生活が営まれているのだ。


 そんな、ある日のこと。

 ユグドラシルの大樹に空いた小さなウロが、ほのかに明るい七色の光に包まれるようになった。

 それは妖精族なら誰でも知る前兆、新たな妖精がこの世に生み出されるサインである。


 妖精族は、誰ともなく口にしていた。

「これが妖精族にとっての、『トリの降臨』になるのかも知れないわね」

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