第170話 スコアスクランブル その5

「「「すみませんでしたっ!!」」」


 勝負を終えた僕たちは、生徒会室でeスポーツ部の3人から謝罪を受けていた。

 深々と頭を下げる部長さん、竹葉さん、1年生ちゃん。僕はもう気にしてないし、千尋ちゃんもどうでもいいといった感じ。月上さんは……表情が無いからわからない。


「罰は与えない。けれど、約束は守ってもらう」


 月上さんはサイコロを出す。


「出た目の数だけ部費を割る」

「うっ……」


 竹葉さんは苦い顔をする。

 きっと、月上さんはサイコロの目を自由に出せる。この人ならそれぐらいできる。怒っていれば6の目を出し、容赦なく部費を6分の1にするだろう。


「つ、月上さん……」


 僕は月上さんを見る。でも、続く言葉が思いつかない。


「やっぱり、なんでもないです……」

「……」


 チートを使ったことはいけないことだ。だけど、この3人はもう反省してる……と思う。慈悲をかけてほしいけど、モロにチートの攻撃を受けたのは月上さんだ。月上さんが許さないなら、僕に止める権利はない。


 月上さんはサイコロを転がす。サイコロを目で追うeスポーツ部の3人。

 全員が注目する中、出た目は――1。


「残念。部費の減額は無し」

「生徒会長……」

「3人共筋は悪くない。雑念を無くして、努力を怠らなければ良い所までいける。頑張って」

「……!!」


 部長さんは顔を赤くして「はい!」と元気よく挨拶した。


「古式さん……」

「た、竹葉さん……」


 竹葉さんはまた頭を下げる。


「その、本当にごめんなさい!」

「え……」

「楽しもうって言ったのに、あんなことして……」


 僕は下手くそながらも笑顔を作り、


「つ、次があります! ゲームに回数制限はありません。また、やりましょう! ……じゃなかった。ま、また、やろうね!」

「うんっ……! ありがとう古式さん――ところでなんだけど」

「? はい?」

「古式さん……ウチの部活入らない? 古式さんの実力ならすぐに大会に――」

「ごめんなさい」

「即答!?」


 実力を買ってくれるのは嬉しいけど、部活なんて絶対無理。eスポーツ部は人も多いし……それに、


「な、なんで? 古式さんならエースになれるよ」

「私も同意見だ。お前が入ってくれれば部費が倍額になる以上に嬉しいんだけど……」


「あ、あのですね……僕、今は他にやることがあってですね……どうしても、あるゲームで倒さないといけない人がいるんです」 


 チラ、と月上さんの方を見る。月上さんは微笑んでいた。僕も、つられて笑ってしまう。


「だからすみません。それまでは、他のことに集中できません」

「……わかった。もし気が変わったらいつでも連絡して。大歓迎するから」

「うん。ありがとう!」


 eスポーツ部の人達が生徒会室を去る。

 生徒会室には僕と千尋ちゃんと月上さんだけになる。


「ねぇねぇ、ところでさ!」


 千尋ちゃんは月上さんの方を向いて、


「星架ちゃんって、白い流星でしょ?」

「うん」


「え? ええ!?」


 まず千尋ちゃんが月上さんが白い流星だと気づいていたことに驚き、次に即答で認めた月上さんに驚いた。いや別に、隠すことでも無いんだろうけど……。


「やっぱりねぇ。剣術が完全に同じだったもんね」

「そういうあなたは怪盗ラビリンスで間違いない?」

「そだよ~」

「やっぱり。あの器用な立ち回りはラビリンスと同じだった」


 お互い、動きの類似性で気づいたみたいだ。凄いな……。


(あ!)


 や、やばい! 千尋ちゃん=ラビリンスだと気づいたということは、僕がインフェニティ・スペースでキスした相手が千尋ちゃんだってことにも気づいたということ!


「いつか、あなたとは決着をつける」

「そうだね。避けられない戦い、ってやつだね」


 ゴゴゴゴゴゴ! と、地響きのような擬音が2人の間に見える!

 仲良くなったように見えたけど、どうしても相容れない部分があるんだろうなぁ……。


「まぁそれはさておき。ハイこれ」


 千尋ちゃんはバッグから紺色の服が入ったビニール袋を出す。


「? これは?」

「スク水」


 そうだ、忘れてた。僕達のチームが勝ったから、千尋ちゃんは月上さんからスク水写真を貰えるんだった!


「自分の物がある」

「でも家でしょ~? 今日撮影したいからさ」

「……ここでやる気?」

「うん! 一度撮る側もやってみたかったんだよねぇ~」


 千尋ちゃんは高そうなカメラを出し、見せびらかす。


「そういうわけで」


 と、僕は千尋ちゃんに背中を押され生徒会室の外に出された。


「レイちゃんはここでばいばーい」

「え!? あ、えっと……僕も一緒に」

「ダメだよ?」

「それじゃ、後で写真のコピーを……」

「あげないよ?」


 同じ笑顔で千尋ちゃんはそう言い、生徒会室の扉を閉めた。

 ポツンと1人、廊下に置き去りにされた僕。


「うぅ……ううううううぅぅぅ~~~~~っ!!!」


 瞳に涙を溜め、僕はトボトボと歩き出す。


(僕も同じお願いをしようか……いや、そんなことしたら、月上さんに幻滅される! アレは千尋ちゃんのキャラだから許されるお願いだ……)


 勝ったのに、敗北者の気分だ。


(ただ……ただ……月上さんのスク水姿が見たい人生だった……!)


 その夜、『代わりにコレあげる』と千尋ちゃんの際どいビキニ写真が送られてきたが――すぐ削除した。

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