第151話 ソルニャーの武者修行 その2



――暴風ぼうふうの惑星



 全地域で風が強く、空を飛べばまず突風に巻き込まれ体のコントロールを失う惑星だ。


「うにゃ~! この風じゃ、ピョンと飛べないにゃ!」


 暴風吹き荒れる荒野で、ソルニャーはひたすらに虎型の機世獣を狩らされていた。


 ソルニャーのメインウェポンは爪型クローサーベルとバズーカ。サブウェポンとして体中に仕込んだ内蔵兵器がある。しかしこの環境下ではバズーカは流されてしまうため使えない。必然とクローサーベルで接近戦を仕掛けることになる。


 ソルニャーは風の影響を受けるが、この惑星に住み着いている機世獣は風に耐性があり風の影響を受けない。自由に高速で動くメカタイガーにソルニャーは当然の如く翻弄される。


 無論、この惑星を修行場所に選んだことにはシーナなりの意図が存在する。


「ソルニャーさんの弱点はスピード、瞬発力です。脚に力を溜め、解放するすべを学んでください。この風の壁を突破するには、最大限力を溜めないといけませんよ」

「しかしにゃ、スピードの弱点は萌っ子モードになれば消せるにゃ! さっきちょろっと見せたはずにゃ!」

「萌え――人間モードでは速度は増すものの、技の威力が大きく落ち決め手に欠けます。速度と破壊力の両立……それが今のソルニャーさんには必要です」

「にゃるほど。理解したにゃ。つまり、ソルニャーはもっとマスコットらしくあれ、ということにゃ!」

「……違いますけど、まぁいいでしょう」


 ソルニャーは腰を落とし、力を溜め――飛び出す。突風の壁を突き破り、高速で動くメカタイガーをクローサーベルで切り裂くことに成功する。


「できたにゃ」

「やはり、チャチャさんが内蔵AIを作っただけありますね。物覚えがいい」


 やったにゃ。やったにゃ。と小躍りするソルニャー。

 一方シーナは何かの気配を察知し、視線を尖らせる。


――ゴオォン!!!


「!」


 地響きがソルニャーの小躍りを止めた。

 轟音を上げ、シーナ達の前に暴風を纏った巨大な機械の虎が着地する。


 全長20m。虎型機世獣メカタイガーの親玉――『暴風の猛虎“フーコ”』。


 常に纏っている風の鎧で敵の攻撃を弾き、その体躯に似合わぬ超速で敵を捉えるコマンダー級。レベル120。


「ソルニャーさん、下がってください。あれはあなたの手には余ります」


 シーナが双銃を構えて前に出ようとするが、ソルニャーは更に前に出て最前線を譲らない。


「ここはお任せにゃ」

「しかし……」

「シーナ殿、いや、お師匠」

「お師匠はやめてください。恥ずかしいです」

「ソルニャーは自分より強い相手に勝とうとしているにゃ。なのに、自分より強い相手から逃げていたらしょうがないにゃ」


 のほほんとした面持ちではあるものの、シーナはソルニャーから強い覚悟を感じ取った。

 わかりました。とシーナは銃を下げる。


「ソルニャーさん……私は手を出しません。自力で倒してください」

「にゃっさー!」


 暴風の猛虎が突進してくる。

 シーナは躱すも、ソルニャーは直撃。天高く打ち上げられ、風に流され荒野の岩に頭から落ちる。

 ソルニャーは軽傷。ガードナー並みの装甲を持っているため、これぐらいの攻撃は受けきれる。

 それからソルニャーは至近距離でバズーカをぶつけたり、クローサーベルで攻撃したりするも、風のシールドに全て弾かれる。


(やはり、ソルニャーさんの持つ武装じゃあの鎧は突破できない。私の武装でもレールガンや紅龍クラスで無いと貫通不可。勝機が見えない……)


 ソルニャーは弄ばれる。突撃を喰らい、爪で弾かれ、尻尾に掴まれ叩きつけられる。

 ガードナー並みの装甲を持つも、2分もの間攻撃を受け続ければボロボロになる。


 それでもソルニャーは立ち上がる。シーナはそのソルニャーの勇姿を見て口元を緩ませる。


(分析は終わった。少しぐらいのアドバイスなら……)


 シーナは声を張る。


「ソルニャーさん! その虎はスタミナが無いです! 30秒毎に2秒静止しています! そこを狙ってください!」

「んにゃ!!」


 ソルニャーは攻撃を繰り出すのをやめ、回避に専念する。完璧に回避とはいかないまでも、攻撃を受ける回数は減らせた。


「25秒……! もうちょいにゃ……!」


 ソルニャーが油断した刹那に、暴風の猛虎は新しいパターンを見せる。

 尻尾をレーザーサーベルに変え、突き出したのだ。


「ソルニャーさん!!!」 


 直撃した――と思われたが、ソルニャーは先ほど会得した溜めダッシュを使い、正面に飛び出すことでサーベルを躱した。


 訪れる、2秒の硬直。


「ここにゃ!!」


 ソルニャーは再び脚に力を込め、勢いよく跳躍。暴風の猛虎の顔面に向けて飛んでいく。

 しかしここでも暴風の猛虎は予想外のパターンを見せる。猛虎は叫び、口から巨大なレーザー砲を出した。


(これはさすがに……!!)


 跳躍後の勢いの付いた今は無防備。回避は不可能だ。


「んにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーーーーーーーーっっっ!!! 負けてたまるかにゃあああああああっっ!!!」


 ソルニャーに異変が起きる。

 体の中心。無尽蔵のエネルギーを生み出すコアエンジン『フェニックス』から劫火ごうかのエネルギーが溢れ出し、ソルニャーの背中から翼のようにエネルギーを噴出させた。


 ソルニャーの速度が増す。


(フェニックスのエネルギーで疑似的なライトウィングを生成した! あの速度なら……!!!)

「うにゃにゃにゃにゃにゃ!!! これぞ、ソルニャーの必殺技!!!」


 ソルニャーは更に体を回転させ、劫火のエネルギーを全身に纏った。


「ソルニャー……フェニックス、アサルト――ボンバーにゃああああああああああああああ!!!!」


 レーザー砲の発射は間に合わない。

 高密度のエネルギーを纏ったソルニャーは暴風の猛虎の口に突っ込み、背中から飛び出す。

 口と喉を突き破られた暴風の猛虎はデリートされ、空を舞ったソルニャーは風になびかれまた頭から荒野に落ちた。


「あのフェニックスの翼を利用した攻撃……トップレベルのプレイヤーでも対処は難しいでしょうね」


 荒野に突き刺さったソルニャーを、シーナが抱っこして引っ張り上げる。


「お見事です。ソルニャーさん」

「嬉しいにゃ」



 --- 



 スペースステーションに帰ってきた1人と1匹。

 向かい合い、別れの言葉を交わす。


「ありがとにゃシーナ殿。おかげで新必殺技が誕生したにゃ」

「……アレを私の功績と言われると些か疑問ですけどね」


 『ソルニャー・フェニックス・アサルト・ボンバー』……スペースガールでは決して成し得ない滅茶苦茶な必殺技だ。しかしその速度、威力は誰が相手でも通用する。


「これをあげるにゃ」


 ソルニャーはポケットを探り、ある物を取り出す。

 それは――ソルニャーの耳を模した、猫耳バンド。


「えっと……これを私に着けろと?」


 自分が猫耳を装備した姿を想像し、赤面するシーナ。

 シーナはソルニャーに猫耳を返そうとするが、


の証にゃ」

「とも……だち……」

「うにゃ! それを着ければ、ソルニャーとシーナ殿はマブダチってやつにゃ」

「まぶ……だち」


 シーナは友達&マブダチという言葉に惹かれる。

 それでも気恥ずかしさを感じ猫耳を着けることを戸惑うが、ソルニャーの期待の視線に負け猫耳バンドを装着する。


「どうでしょうか……」

「似合ってるにゃ」

「あ、ありがとうございます。これで、私達は友達……なのですか?」

「もちろんにゃ! ソルニャーの家に来たら、とっておきのダンスを見せてあげるにゃ。トモダチ限定公開にゃ~。それじゃまたにゃ~」


 ソルニャーはシーナに背中を向け、短い手足を振って走り去る。

 シーナはスペースステーションのエントランスで猫耳を撫で、


「友達……私に……」


 シーナはつい口元を綻ばせた。その時、



「――アンタなにしてんの?」



 シーナは背後から聞き馴染みのある声を聞き、背筋を凍らせた。

 振り返ると、顔を引きつらせたニコと腹を抱えているチャチャの姿があった。


「に、ニコさんにチャチャさん……なんでここに」

「今日はチャチャにメンテナンスを受ける日だから、事務所のあるここに来るのは当然でしょ。アンタにも共有してたはずよ」

「シーナっちが猫耳……! キャラに合わない……ははっ!!」


 シーナは猫耳を外し、アイテムポーチにしまう。


「ごほん。お二人とも、よく聞いてください」


 シーナは真剣な顔つきで、


「この猫耳は武装の1種で耳の先から銃口を出しターゲットを撃ち抜けるという最新鋭の――」

「無理あるっての」

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