第150話 ソルニャーの武者修行 その1

 ある日の昼下がり。


「さぁってと、今日も楽しく配達ライフ決め込むかぁ~……ん?」


 イヴが自分の工房にログインすると、そこに居るはずの存在……まん丸の毛玉、迷彩服を着た二足歩行のにゃんこ、ソルニャーの姿が無かった。


「ソルニャ~! ……アイツどこ行ったんだ? あたしが居ない時は外出するなって言ってんのに、いつも勝手に散歩とか釣りとか狩りとかペットサロンに行きやがって……」


 イヴは作業机の上に手紙を発見する。


「なんだこれ」


 手に取って読んでみると、汚い字でこう書いてあった。


『ハイケイ あるじどの

 ソルニャーは“むしゃしゅぎょう”のタビにでるにゃ。

 あるじどのをマモれず、かませネコになったソルニャーにカチはないにゃ。

 ソルニャーはつよくにゃって、コンドこそあるじどのをマモってみせるにゃ。

 ゆうはんまでにはもどってくるにゃ。ずっといえにゃかったけど、ソルニャーはさかなハではなくにくハにゃ。にゃのでゆうはんはぎゅうドンをのぞむにゃ。タマねぎはぬいてくれにゃ』


 手紙の裏にはソルニャーのものと思われる土色の肉球スタンプが押してあった。拇印のつもりだろうか……。


「いや、配達の護衛どうすんだよ!!」


 今日13件の配達を抱えているイヴは1人叫んだ。



 --- 



――スペース・ステーション ch2621


「んにゃ~?」


 ソルニャーは広間にある電光地図を眺め、首を捻っていた。


「……なにアレかわいい……」

「……写真撮ろ」

「……このゲームの新しいマスコットとかかな?」


 スペースガール達の好奇の目には一切気づかない。

 ソルニャーは地図を色々な角度から見る。


「地図は難しいにゃ~。ましゅまろスマイルはどこにゃ」

「……ソルニャーさん?」


 背後から声を掛けられる。

 ソルニャーはその声を聞き、耳をピンと立てて振り返る。


「見つけたにゃ!」


 ソルニャーは声の主――水色髪のスペースガール・シーナを指さす。


「なにしてるんです? こんなとこで」

「シーナ殿を探していたにゃ」

「私を……? イヴさんのお使いですか?」

「違うにゃ。シーナ殿、ソルニャーの師匠になって欲しいにゃ!」

「師匠……」


 要領を得ず、首を傾げるシーナ。


「ソルニャーは前の戦いで惨敗したにゃ」

「それはカムイさんにですか?」

「そうにゃ! 宿敵にゃ……!」


 シーナは目を伏せ、「なるほど」と呟いた後にソルニャーに視線を戻す。


「秘密兵器まで出したのに歯が立たなかったにゃ。まったく、とんだかませ猫にゃ」

「かませ猫……」

「弱いソルニャーはただのにゃんこにゃ。シーナ殿には『見る目がある』って聞いたにゃ。ソルニャーに指導して欲しいにゃ!」

「……」


 シーナは悩む。


 目の前の可愛いにゃんこのお願いは聞いてあげたい。しかしシーナはシーナで、シキの∞バーストを目の当たりにし、自身の実力不足を嘆いていた所。自分の修行に集中したいのが本音だ。


「……ダメかにゃ?」


 項垂れるソルニャーを見て、シーナは観念したようにため息をつく。


「いいでしょう。ついて来てください」

「マジかにゃ! やったにゃ!」


 こうしてシーナ主導の元、ソルニャーの武者修行が始まった。

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