第149話 激戦! 邪道vs王道!!

 僕が最初の戦いに選んだゲームは『ニャンコパニック』。

 穴から出てきたニャンコ(どこかソルニャーに似ている……)を手に持ったピコピコハンマーで殴るというシンプルなゲームだ。


 月上さんvs千尋ちゃん。

 その第一回戦が始まる。


「ま! ここは経験者の私からいこうか」


 千尋ちゃんはハンマーを持ち、100円玉を入れる。筐体きょうたいから音楽が流れ始める。


 ニャンコパニックスタート。


 千尋ちゃんは次々と出てくるニャンコを、反射的に殴っていく。

 1匹たりとも打ち漏らしは無く、ゲームは終盤へ。


 終盤になるとBGMが変わり、ニャンコが出る速度も逃げる速度も速くなる。しかし関係ない。千尋ちゃんは唇を舌で舐めると同時に動きを加速。全てのニャンコを叩き尽くす。


 結果、パーフェクト。


 満点の100点を取った。ニャンコを1匹叩く毎に1点なので、100回ニャンコを叩いたということだ。


「凄い……」


 このゲームでパーフェクト出した子、梓羽ちゃん以外で初めて見た。そもそも梓羽ちゃん以外とゲームセンターに来たこと無いんだけどさ……とは言え、さっきまで筐体の液晶に表示されていた今年のハイスコアが92点だったのだから、やはりパーフェクトは凄いことなんだと思う。


 超人的な反射神経・俊敏な動き・正確な手先。


 現実でも千尋ちゃんは強い。未経験のハンデを背負って勝てる相手じゃない……。


「どうかな生徒会長さん。私に挑んだこと、後悔してる?」

「成程。仕組みはわかった」


 月上さんは千尋ちゃんのパーフェクトに対し顔色1つ変えず、ハンマーを受け取る。


「古式レイ」

「はい?」

「100円玉貸して。私、小銭持ってない」


 さすがお金持ち!


「どうぞ!」


 100円玉を入れ、始まるニャンコ叩き。


「ちょいちょい……」

「これは……!」


 僕はまだ、この人を舐めていた。

 空間を裂くような鋭さで、月上さんはピコピコハンマーを操る。


「へぇ……!」


 月上さんは当然の如くパーフェクトを出す。

 驚きなのはニャンコを叩く速度。千尋ちゃんよりも速かった。ニャンコが顔を完全に出す前に全てを叩いた。

 千尋ちゃんの表情が変わった。余裕の笑みから真剣の笑みへ。

 結果は引き分け。しかし、もしも両者のニャンコ叩きにフィギュアスケートのように『芸術点』や『技術点』を付けたならば、勝者は間違いなく月上さんだ。


 千尋ちゃんは腰に手を当て、大きく深呼吸した。


「面白いじゃん♪」

「……あなたこそ」


 両者のボルテージが上がる。天才と奇才は1ゲームで互いを難敵と認識したようだ。

 次に足を運んだのは格ゲーのコーナー。


「次はこれで勝負だよ」

「わかった」


 千尋ちゃんが選んだのはシンプルな2D格闘ゲームの筐体。

 千尋ちゃんはニヤリと笑う。あ、これ経験済みだな。


「いっくよん」


 第二回戦が始まる。


「おりゃ! おりゃおりゃ!」

「っ!」


 千尋ちゃんはコマンド技を難なく出し、コンボまで決めている。

 一方でさすがの月上さんも初筐体格闘ゲームには苦戦(それでも初見で中級者並みの動きはできてる)。1ラウンド目をあっさり取られてしまった。


「ぬっはっは! 圧勝なりぃ♪」

「……」


 月上さんの瞳に凍てつくような闇が落ちる。

 次のラウンド――月上さんは最初こそ押されるも、ジワジワと返していき、そして、


「なあ!?」

「……勝つ」


 お互い、あと弱攻撃1発で倒される体力。


(この差し合い、勝つのはきっと……)


 最後の衝突。月上さんは千尋ちゃんの下段攻撃をしゃがみガードし、続く中段攻撃も立ち上がってガード。千尋ちゃんに僅かな隙が生まれる。


「やっば!」

「これで終わり」


 月上さんはジャンプからのめくり(相手の背後を擦るように攻撃する技)で千尋ちゃんを倒した。


「っ!?」


 絶句。

 さすがの千尋ちゃんも月上さんの才覚に驚いた様子。


(スロースターター……)


 徐々に強くなっていく月上さんの特性。それが遺憾なく発揮されている。

 これはさすがの千尋ちゃんも厳しいか? と思ったのだが、


「よし」


 千尋ちゃんは何かを決意したようだ。

 珍しく目が笑ってない。これは何か余程非道ひどいことを仕掛けるつもりだなぁ……。


「?」


 月上さんも千尋ちゃんの様子に疑問を抱いている感じだ。

 そして訪れる最終ラウンド……千尋ちゃんがやった戦術は、


「おらああああああああっっっ!!!」


 卑怯というか、非情というか。


 なんと千尋ちゃんはループコンボを繰り出した。終わりなきコンボだ。

 恐らく脱出ルートは存在する。けれど、初心者の月上さんが1ラウンドの内に抜け道を見つけるのは不可能だろう。


「くっ……」


 結局、千尋ちゃんは月上さんを完封。ノーダメで勝利を飾った。


「なっはっは! だいしょ~り!!」

(それでいいの……千尋ちゃん)


 月上さんの方を恐る恐る見てみる。


「ひぃ!?」


 月上さんは荒々しくて冷たい……まるで吹雪のようなオーラを纏っていた。


「もう1回、このゲームで勝負しよう」

「いいよ。また完封してアゲル♪」


 やばい。やばいよ千尋ちゃん。侮ったらやばいよ!


「よーい……スタート!!」


 地獄絵図だった。

 月上さんはなんと、ループコンボのきっかけすら与えず、倍返しと言わんばかりに2ラウンド連続でパーフェクトを決めた。

 あの千尋ちゃんが成す術なく、真っ向から押しつぶされた。思わず僕も「ひえぇ……」と声を漏らしてしまった。


「どうしたの? さっきのコンボ……また見たかったのに」


 うわ。月上さんが挑発してる。


「はいはいオッケーオッケー。そういう感じね? オッケー。100%理解した」


 千尋ちゃんの声は震えている。千尋ちゃんも昂ってるなぁ……。


「次はアレやろ」


 千尋ちゃんが指名したのはドラムでリズムを取る音ゲーだ。

 画面に流れてくる音符マークに応じたドラムの部位を叩けば点が入るゲーム。


「音楽はできるかなぁ~?」

「安心して。月上星架にできないことは無い」


 千尋ちゃんは課題曲に最大難度のものを指定した。

 まず千尋ちゃんが挑戦。当然と言うのもなんだけど、ワンミスもなくクリア。


「これなら簡単」


 と言い切り、月上さんは椅子に座る。


「よーい、スタート!!」


 音楽が流れる。

 月上さんは華麗なスティック捌きを披露する。今の所完璧。ゲームは終盤に入る。


――その時。


(あれ?)


 画面から聞こえてくるボーカルの声が二重になった。

 2つの声は次第に、気持ち悪い具合にズレていく。


「……!」


 そのせいか、月上さんは1音、叩くことに失敗する。


「まさか……」


 隣を見ると、千尋ちゃんがしたり顔で歌っていた。


「あ、ごめんごめん。好きな曲だからつい口ずさんじゃって♪」


 微妙にリズムをズラして失敗させたんだ。

 凄いけど姑息!


「次はコレ」


 今度は月上さんがゲームを指定。カートレースのゲームだ。

 同じコースを3周し、最後の1周で上位だった方が勝ち。


「せっかくだから僕もやろっと。このゲーム好きだし」

「生徒会長さんはなんでこれを選んだのかな?」

「『速い』には慣れているから」


 レースが始まる。


 1周目。僕1位、千尋ちゃん2位、CPU挟んで月上さんが7位。

 2周目。僕1位、千尋ちゃん2位、月上さん4位。

 そして始まる3周目。月上さんは3位まで上がってきた。


「この……! マジなんなのこの子!!」

(僕と千尋ちゃんはショートカットを使っているのに、月上さんはコースをしっかり走って食い下がってる!!)


――スロースターター。


 ここでも特性が活きている。さっきの格ゲーもそうだったけど、後半の追い込みが半端じゃない。

 それに月上さんはインフェニティ・スペースで超機動力特化のプレイスタイルだ。このスピード感にも難なくついてこれる。


 3周目終盤。僕ら3人はほとんど団子になる。このゲームでは武器をコース内で拾えるのだが、最後のアイテムエリアで僕はスナイパーライフルを拾い、千尋ちゃんはハンドガンを、月上さんは剣を拾った。


 千尋ちゃんがハンドガンで月上さんを狙い発砲。月上さんは剣で弾丸を弾く。2人の背後を走っていた僕は狙撃で2人のタイヤを撃ち抜いた。


「うわっ!?」

「古式レイ……!」


 スリップする両者の間を走り抜ける。


「寸分狂いなし」


――僕、1着。


 ちなみに2着は月上さんで、3着は千尋ちゃん。レースゲームは月上さんの勝利となった。


「むっきゃー! 悔しい! 次! 次はアレで勝負だよ星架ちゃん!」

「望む所。百桜千尋……」


 早足で次のゲームに向かっていく2人。


(なんか、2人とも楽しそう)


 嬉しいんだろうなぁ、対等に遊べる人ができて。2人共同世代に相手いなかっただろうから。

 それから2人はゲーセンを遊び尽くし。結果――互いに6勝6敗3引き分け。


 結局僕らは3人で帰ったのだった。余談だけど、最後に僕らはプリクラを撮った。現像された写真を、大切そうに持っていた月上さんの横顔が妙に印象に残っている。

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