第5話 全ロス

 ショッピングモールにリスポーンした。


「ここは……」


 指で虚空をなぞり、MAPを開く。MAP名『スペース・ステーション chチャンネル2921』、どうやらようやく『最初の街』にたどり着いた模様。

 パッと周囲を見る。巨大な……本当に巨大なショッピングモール。外層は全てガラス張りになっていて、ガラスからは宇宙が見える。


 どうしようか、と悩んでいると、『初心者案内用の自律マシーン』というネームを頭上に浮かべた人型ロボットが前を横切った。


「あ、あの」

『ハイ。なんでショウ?』


 三頭身ぐらいのかわいいロボット。NPCだね。頭の所にウサ耳のような2本のピンクのリボンがついてる。よし、ロボット相手ならどもることなく話せる。セルフレジは得意だ。


「初心者なんですけど、どこへ行ったらいいですか?」

『武装が欲しければ第2フロアにあるウェポンショップへ行ってくだサイ。すぐに冒険に出たければ第8フロアにあるシップ・ドックから好きな人工居住地コロニー惑星プラネットを選んで旅立ってくだサイ。仲間が欲しければ第3フロアにあるガソリンスタンドに行くといいでショウ。情報が欲しいのなら第2フロアにあるデータストリームを使ウカ、私のようなガイド・ガールを利用することをおすすめしマス』


(武装オア冒険か)


 武装の空きは後4つある。そこを埋めてから冒険に出るのがベターかな。


『他にご質問はありまスカ?』

「あ、えっと、インフェニティ・スペースのデスペナルティってどんな感じですか?」


 さっきキルされたので聞いておく。


『『1時間のステータス大幅ダウン』と『アイテムロスト』と『所持チップ半損』デス。1度も拠点に持ち帰ることができなかったアイテムは確定ロストしマス』

「拠点ってここのこと?」

『ハイ。他にもマイハウスやマザーシップ、アーミーベースなども拠点に含まれマス』


 たとえば自滅前提で危険地帯に超レアアイテムを取りに行ったりはできないわけだ。遠方にアイテムを採りに行く→帰るまでの時間を短縮するためにわざと死ぬ、というRPGでよくある手も使えない。どれだけ良いアイテムを手に入れても拠点に戻るまでは安心できないってわけか。拠点に入ると所持品がセーブされると考えればいい。


「ちょっと待って……」


 最悪の展開が頭に浮かんだ。


「え!? それってやばくない……!?」


 まさかとは思うけれど、ウェポンリストを開いてみる。


「うわっ!?」


 武装の欄が全て――空白になっていた。


「ぜ、全ロス……!?」


 思わず膝から崩れ落ちる。

 アイテムポーチにも何も入っていない。


 所持品0だ。しかもステータスダウンも喰らっていて、元のチップ数がわからないから確証はないけどきっと所持チップ(このゲーム内でのお金)も半損している。


(僕はログインしてからゲームオーバーになるまで拠点に入ってなかった。だから武装が全部ロスト対象だったんだ……!)


 恐らくバグで戦場に送られ、その末全ロスって……運悪すぎ!


(昔から本当に運が無い…ガチャは毎回天井までかかるし、こっちはクリティカル出なくて相手ばっかクリティカル出るとか当たり前だし……)


 ……やり直そうか? いや、またキャラクリからやり直すのめんどくさいし、それにリセマラ紛いのことをするのはプライドが許さない。与えられた才能で、与えられた運命でやり抜くのが僕のゲーマー道。


(所持金5000チップ……これが僕の手持ちの全て)


 武器が無きゃ何もできない。とりあえずショップに行くしかないな。


 その後、ステータスの各項目についての説明や世界観の大まかな情報を聞き出した。最後にガイド・ガールは説明書までくれた。説明書はありがたくデータ化してアイテムポーチに収納する。


「情報ありがとね」


 ガイド・ガールの頭を撫でで、僕は中央にあるエレベーターに向かった。



 --- 



 第2フロア、ウェポンショップ。

 培養器のような円柱形のガラスに銃やナイフ、サーベルが浮かべられ陳列されている。僕は1つ1つ確認していく。


「だ、ダメだ……5000チップじゃ何も買えない」


 スナイパーライフルは安くても7000チップ、サーベルやハンドガンは5500チップ。こう見ると最初の武装選択ではスナイパーライフルを選ぶのがお得だなぁ。ちょっとだけだけど。


「……これ、もしかして詰んでる……?」


 涙目になりながらショップの端の端……セールワゴンにたどり着く。ワゴンには大量の武装がジャンル問わず雑に積まれており、値段は一律2000チップ。

 レーザー兵器が主流のこのゲーム内において、実弾銃や実体剣のみがワゴンに存在する。ここで買うしかないな……序盤の雑魚敵ぐらいならこれらの武器でも倒せるかもしれない。


 まず目についたのは『アーミーナイフ』という実体ナイフ。うん、普通のサバイバルナイフだ。刃の逆側に滑り止めのギザギザが付いているタイプ。


 詳細を見ると『威力1 EN貯蔵量0 射程1 拡張性0 重量:軽 説明文:何の変哲もないナイフ。切れ味の消耗が無く、エネルギー消費もないため無限に使える。剥ぎ取りや料理にオススメ!』……つまり戦闘用ではないということだ。


 これ以上私財を消費したくない僕にとって無限に使えるというのはとても惹かれる。これは買おう。アーミーナイフを手に取ると購入確認メッセージが表示された。『購入しますか? YES/NO』、YESを指で押す。すると所持金から2000チップが引かれ、アーミーナイフがウェポンリストに収納された。


 後は銃。僕はとある実弾銃に手を引き寄せられた。


「M1911……コルトガバメント」


 僕のトラウマ銃なんだけど……好きなんだよなぁ!


 シンプルなデザインながら実用性がしっかりある自動拳銃。1911年から1985年まで使用された名銃だ。すでに超型落ち拳銃だけど、調べれば調べるほど機構の合理性がわかる。アメリカを象徴する銃だ。45口径、装弾数は7(マガジン分)+1(薬室に込めた分)。開発した時代が時代のためズッシリとした重さがあり反動もそれなり。


 その歴史の深さと完璧ながらも余地のある構造からカスタムパーツも大量にある(現実にはね)。他のゲームでも良く登場するし、僕も良く触っていた。だから弾道・弾速・反動・射程も正確に把握している。ハンドガンの中では最も肌に馴染んでいると言えるだろう。


 45口径用の弾薬も安いし、これにしよう。


「購入っと」


 次に弾薬の売っているワゴンに行き、45口径の弾薬を98発分買う。これでたったの980チップなのだから実弾銃は相当弱いんだろうな~。


「……え、嘘。うまい棒買ってる子いる」

「……マジじゃん。初めて見たわ……ウケる」


 ひそひそ声が聞こえる。声の主のスペースガールの視線は僕に向いていた。

 うまい棒……? あ、そっか。98発で980チップ。つまり1発10チップ。それでうまい棒か……。


 言わせておけばいいさ。M1911の信頼性を知らない小娘どもめ!

 それにうまい棒は今10円じゃないからねっ!


(とりあえず視線が痛いから早々に立ち去ろ!)


 そそくさと売り場を去った僕であった。





 --------------------------------



 PN:シキ

 LV:1

 ROLE:スナイパー

 TIP:20


 装甲:20

 スラスター出力:40

 スラスター容量:80

 精密性:80

 レーダー:100

 ステルス性:60

 EN容量:60



 武装

 スロット1:アーミーナイフ(ナイフ)

 スロット2:M1911(ハンドガン)

 スロット3:null

 スロット4:null

 スロット5:null

 スロット6:null

 スロット7:null

 スロット8:null



 拡張パーツ

 スロット1:null

 スロット2:null

 スロット3:null



--------------------------------





――――――あとがき――――――



初期アイテムとして修理キットやEN瓶、改造パーツ等がありましたが全ロスしました。

読書中に申し訳ございませんが、ここで『お願い』を載せさせていただきます。


【読者の皆様へ】

『面白い!』

『続きが気になる!』

と少しでも思われましたら、ページ下部にある『★で称える』より★を頂けると嬉しいです!

皆様からの応援がモチベーションになります。

あまりこの文を載せたくないので、ご協力よろしくお願いします!!(後書きには裏設定載せたい!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る