1章1話-②
◆◆◆
「じゃあ、受付に登録しに行きましょ」
ヒトミは歩き出しながらこちらに言う。
はい。と私、レリアはその言葉に返事をし彼女についていく。
受付は冒険者達で混雑しておりすぐには終わらなそうだ。
私達も列に並び順番を待っていると
「今更、気を変えるつもりはないけど、あなたはなんでこの依頼を受けようと思ったわけ? アタシは知っての通り報酬目当てなんだけど」
ヒトミはこちらを見ずに聞いてくる。
「えっと、昔勇者本人に会ったことがあって、それで会えるのならまた会いたいなぁと……」
「ふーん。でも勇者ってもう死んでるって話じゃない? さっきお偉いさんも聖剣を返した人に報酬を渡すって言ってたし」
それはつまり、国も勇者が生きているとは思っていないということだ。
「そうですね。私も会えるとは思ってないですけど、彼が残したものを見てみたい。ついでに本人でも聖剣でも見つけられれば、とそんな感じです」
勇者である彼は既に死んでいるという噂は聞いたことがあるし、そっちのほうが信憑性が高いのも事実だ。
今回の依頼内容でよりその信憑性は高くなる。
「ま、これ以上は聞かないわ。事情があるのはお互い様だしね」
こちらに視線だけ向けてヒトミは減った列を詰めていく。その後ろ姿の彼女を見ながら考える。
黒髪を首の後ろで二つ結びで、他の女性冒険者よりは低く感じる身長ではあるがどこか大人びている。
落ち着いた雰囲気の彼女がそこまでお金が必要な理由は何なのだろう。
少なくとも身なりからお金に困っている様子はなさそうだ。既に冒険者として依頼をこなしているのだろうしある程度安定した生活を送れていると思うのだが。
そこまで考えて思考を止める。彼女はお互い事情があり、詳しくは聞かないと言ってくれたのだ。これ以上の詮索は野暮だろう。
「失礼ですけどヒトミさんはおいくつですか?」
「18よ。正確かはわからないけど……アンタ私の身長を見て聞いたわね? そういうあなたはいくつなのよ? 言っておくけどあんたがデカいのよ」
「そんなつもりはなかったんですが、すみません。私は17です。一つ下ですね」
「何よ、ほとんど変わんないじゃない。……そういえば、敬語止めてくれる? 落ち着かないわ」
「えっと、わかり……わかった。たまに出ちゃうかもしれないけど許して……ね?」
「それくらいなら気にしないわよ。でも同世代の冒険者なんて、いえ……これも事情ってやつね」
「次の方どうぞ」
受付から呼ばれ、会話が途切れる。
「お二人で問題ありませんか?」
受付の人の問いかけに頷く。
「ではこの紙に名前と階級を記入してください」
差し出された紙を受け取ると受付の人は席を離れる。
「そいえば、階級は……銀2級ね。アタシは銀1級よ。銅級帯だったらどうしようかと思ってたわ」
記入しているこちらの紙をのぞき込んだヒトミは階級を見て安心したようだ。
「ここも1個違いですね。ヒトミさんも流石ですね」
「敬語。ま、お金が必要だったし必然とね」
受付が戻ってきてそれぞれの紙を確認すると
「ありがとうございます。こちらが通行税免除の証となります。関所でこれを提示して下さい」
2つの
「定期報告についてですが、定期とはいえ決まった期間はありません。探索場所によっては送るもの、届くのも時間がかかる場合がありますから。滞在した街を出る前にギルド等に報告をしてただければ結構です」
思っていたより、緩いようで少し安心する。
「また、こちらからの招集要請もギルドから連絡が行くので確認をお願いします。この招集を受けない場合と報告が上がってこない場合に依頼不履行としてこの証の効果はなくなります。関所で提示した際にこちらにも報告が来るのでご注意ください」
受付の人は一度こちらの顔を確認して問いかける。
「以上が今回の依頼についてです。何か質問はありますか?」
「招集に期限以内に到着出来ないような場所にいた場合とか、探索中に招集が来て連絡の受取自体が遅れた場合はどうなりますか?」
「その旨をギルドにお伝え下さい。こちらで判断します」
「勇者か聖剣を見つけたと報告したあとに別の誰かに奪われた場合はどうなるの?」
「あくまで聖剣を提出した者に報酬が払われます」
「この証の効果はいつからいつまで効きますか?」
「今日からこの依頼を誰かが達成されるまでです。更新がある場合はギルドから連絡がいきます」
「招集に応じたら追加で報酬はもらえるの?」
「招集した際の内容によります」
私とヒトミの交互の質問にそれぞれ返答をくれた。
「私はもうないわ。そっちは?」
「はい、私もないです……ない……よ?」
受付の人がそんな私たちを見て少し微笑むと表情を戻し
「では、説明は以上です。こちらをお受け取りください。紛失した際は再発行の為にまたここへ来てください。その際の通行税は免除されません」
そう言って、
それを受け取って、首から下げる。受付から離れるとヒトミが
「じゃあ、これからについて歩きながら話しましょ」
と言って歩き出す。
「はい、お願いします。あ、お願い」
「……まずは、勇者が最初に寄ったとされるファステリアに行くわ」
「え、ファステリアですか? ここ王都で情報収集したほうがよくないですか?」
勇者の最後の目撃はここ王都とされている。であればここでの聞き込みは重要なものになると思う。
「私たちは、聖剣を最初に見つけなきゃいけないのよ? だったら他のやつと同じことしたって意味ないわ。それにファステリアに行くのには理由があるの」
ヒトミは少し得意げな顔をしながら続ける。
「”英雄病”って知ってるわよね? 冒険者達の中じゃ結構有名な話だと思うけど、冒険者を引退しようとした奴が今まで行った場所やダンジョンをもう一回行きがちってやつ」
「はい、知って……る。じゃあ勇者もそうじゃないかって思ってるんだ?」
「勇者様だって人間なんだし、魔王なんて大物倒した後なんだから他のやつらなんかより旅の軌跡とか振り返りそうじゃない?」
「大仕事を終えた後にその跡を目に焼き付けたいって気持ちはわかるかな」
「でしょう? だから私は基本勇者が魔王討伐中に寄った村や街を順番に廻ろうと思うのよ。アンタの勇者の残したものだっけ? を見るのにもちょうどいいじゃない」
こちらのことを気に掛けてくれていることに少し驚くが顔には出さず、ふとした疑問を投げかける。
「そうですね。でも街で聞き込みするだけ?」
「近くの勇者が潜ったとされる迷宮にも入るわ。”英雄病”の噂だけどね、迷宮内で魔物が使っている武器や宝箱に入っている武器っていうのは英雄病で迷宮に入った冒険者が落としたものや奥に隠したものじゃないかって言われているのよ」
「偶に、質のいい武器を持ってたりするよね」
「そうそう、勇者も迷宮に潜って聖剣をどっかに隠したと思うのよ」
「強い武器を持った魔物がいるっていう噂は聞かないから隠したってことだよね」
「案外、頭が回るじゃない。そういうこと。この案に異論はあるかしら?」
ヒトミがこちらを見上げながら聞いてくる。
「いえ、問題ないと思います。確かに他の人と同じことしても意味ないですし」
「じゃあ決まりね。まずはファステリア行きの業者がいないか確認するわよ。その護衛依頼を受けながらファステリアに向かいましょう。旅の資金も稼がなきゃいけないしね」
実に抜け目がないことだ。そう感心しつつ気が付けば荷馬車の発着場に到着していた。
荷馬車に次々と荷物が運ばれる中で積み終わったであろう馬車が出発する。
人を乗せていたり積荷だけであったり大小さまざまな馬車が並んでいた。
私があたりを見回していると、ヒトミは近くの従業員に話しかけていた。
「すみません。ファステリアに行く馬車はありますか?」
「あ? あー……どうだったかな? おい! ファステリア行きのやつってあるか?」
大きな声で他の従業員に声をかける。
「ちょっと待て……えっと今日の分はもうないな。明日の朝にコトー商会のが出るぜ」
「だってよ。忙しいからどいたどいた」
雑にあしらわれ積荷を運びに走り去ってしまった。
「どうします? 今日中に出発するの?」
「いや、明日の朝のに合わせましょう。準備もしたかったしちょうどいいわ」
私たちはその場を後にして近くの酒場に入った。
席についてそれぞれ注文を終えて、これからの予定について話す。
「じゃあ、明日の朝にコトー商会さんの馬車に同行する形でファステリアへ移動ってことでいいのかな?」
「そうね。それまでに出発の準備って感じで行きましょ。準備はお互いにあるだろうし今日はもう解散でいいと思うわ」
「はい。私もそれでいいと思います。あ、ヒトミさんってどこに今泊まってますか?」
「私この町に住んでいるのよ。教会に来てくれれば私に伝わるわ。アンタは?」
「ギルド横の宿に泊まってます。ヒトミさんって修道女なんですか?」
「なわけないでしょ。育ての親がそうなのよ」
「事情ってやつですか?」
「まあ、そんなとこよ。敬語」
「あ、すみま……ごめんなさい」
「ごちゃまぜにされると逆に面倒くさいわね。もういいわ好きに話して頂戴。勝手言って悪かったわね」
「あ、いえ。えーと……普通に話せるように頑張ります」
彼女は手をヒラヒラさせて、うっすら笑っていた。
その後、運ばれてきた料理を食べて解散し、自分の宿で腰を下ろした。
明日の準備も終わり、ロウソクの火を消す。
「おじさん、見ててね。時間はかかるかもだけど見つけてみせるから」
空を見上げ、決心を口にする。
さあ、聖剣探索の始まりだ。
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