剣を心に剣を探せ
古窓
1章
1章1話-①
勇者が失踪した。
魔王を倒し、王都での凱旋をして至る所に勇者の像が出来つつある頃に姿を消したらしい。
彼も一人の人間だ。激しい戦いを終えて静かな生活をしたいのだろうと、しばらくすれば戻ってくると皆がそう考えていた。
しかし、勇者は戻ってこなかった。
失踪して数年は、彼の功績に免じて「自由にさせるべきだ」という声も多かったが5年もすれば「無責任である」という声が大きくなるのは仕方のないことなのかもしれない。
さらに数年たった後に勇者が魔物に対して絶大な力を示した聖剣と一緒に失踪したのだという事実が発表され、彼を味方する者はほとんどいなくなってしまった。
魔物と協力して人間を襲うのだ、と根拠のない噂まで出てしまっている。
力を持ったものが最強の武器を持っていなくなってしまったという状況は、民衆にとっては彼の功績を曇らせるのには十分過ぎた。
そして、勇者が失踪して約10年、各国は勇者の捜索依頼を大々的に発表した。
◆◆◆
白く大きな門の前に人だかりができている。
それは武器や鎧を身に付けた、民衆と呼ぶにはいささか憚れる風貌が大半だ。
勇者が聖剣をもって失踪してから約10年、国から捜索依頼が今日正式に発表される。
事前に冒険者ギルドに発表日時が公布され、達成報酬が10年は遊んで暮らせる金額なのだから、それを目当てに冒険者が集まったのは自然なことだろう。
「静粛に、これより、勇者捜索について大臣からご説明がある!」
甲冑を身に着けた兵士の一人が台の上から冒険者に向けて声を張った。
呼びかけをした兵士が台から降りると、初老の男性が台に上がり軽く手を上げ話始める。
「え~、この度勇者こと……」
長めの前置きがあり、改めて勇者捜索について説明がされた。
「今回の依頼に際して、各所へ出向いてもらう必要があるため国家間での話し合いの結果この依頼を受けているものは街等への通行税を免除するものとする。これは、わが国家だけではなく大陸全土で適用されるものである」
辺りがざわめく。
「大きく出たな……」
「これだけでも受ける意味があるんじゃ……」
「落ち着け、これだけなわけがない……」
ゴホンと咳払いの後壇上の大臣が言葉を続ける。
「ただし、定期報告を義務とし、さらにこちらからの招集に対して必ず応じてもらうものとする」
一拍置いて、あたりを見渡しさらに言葉を続ける。
「これは依頼を受けた全ての者を対象とする。複数人で受けた場合、報告は代表者からでかまわない。招集に関しては、国家単位での依頼等が発生した場合に率先して参加してもらうことになる。報告がない場合、こちらからの招集に来なかった場合は依頼を断ったものとし、通行税の免除の特権を剥奪する。さらにこの依頼を受ける場合の人数を最低2名とし、戦死や相応の理由で脱退等をする場合は、報告してもらうがそれ以降は1名での続行も可とする」
「……つまりどういうことだ?」
「報告できるやつと一緒に受けろってことだよ」
「最悪、国家同士の諍いに駆り出させられるってわけか」
「税の免除はおいしいが……」
冒険者たちからポツポツと言葉が漏れる。
「最後に、この度の勇者捜索の依頼について、勇者本人の生死は問わない。勇者の所持品の聖剣を提出したものに報酬を渡すものとする。以上だ。詳細は近くのものに確認するように」
そう言うと、大臣は台から降りて行った。
◆◆◆
最低二人か……
依頼を受けるつもりだったけど、人数制限があるとは予想外だった。
人数は少ないほうがいいんだけど……
「キミ、一人かい?」
赤い額当てを着けた剣士に見える男性が膝に手を当てながらこちらとの目線を合わせて声を掛けてきた。
「見たところ魔術師みたいだし、一人だろう? 俺たちに入らないか?」
遅れて二人の男性が近づいてくる。
「おいおい、大丈夫かよ。っていうかいくつだ」
「冒険者やってんだから少なくとも15は超えてんだろ」
私の背丈を見て、後ろの冒険者がコソコソと話しているのが聞こえるがそんなのは慣れている。
今更、年の割に小さい身長について言われても気にしない。
「後衛が足りなくてね。今の話一人じゃ受けられないみたいだし、どうかな?」
遅れてきた二人は装備を見るに拳闘士と斥候だろうか。確かに後衛がいなさそうだ。
「別に構わないけど、要望があるわ」
「聞こうか」
赤い額当ての冒険者は手ごたえがあったような顔で応える。
「成功報酬はあんたたちと私で半々よ。チョット入り用なのよ。これは譲れないわ」
「はあ!? バカ言ってんじゃねえよ!」
拳闘師の男が声を荒げる。
「まあまあ、でも流石にそれは難しいかな」
額当ての男が仲間を諫めつつ困ったようにこちらに振り向く。
「じゃあ、この話は無しね。他をあたって頂戴」
そういってその場を離れ、他の冒険者たちに声をかけに行く。
しかし、やはりというべきか一人の魔術師で報酬を半分以上取っていこうとするような奴と組んでくれるような変わり者はいなくて、私は一人腰を下ろしていた。
この依頼は諦めるべきか、いやでもこの報酬をあきらめるのはあまりに惜しい。少しくらいは譲歩すべきかでも金額が……
そうやって考えを巡らせていると
「あの、一人ですか?」
声のほうに顔を向ける。
「何か用?」
「私、チョット事情があって出来れば人の多いところに入りたくなくてですね。あなたは報酬を多く貰いたいようですし、私と二人でこの依頼を受けませんか?」
女性にしては背が高く、焦げ茶より少し赤い長い髪を後ろで一つ結っている彼女は私にそう告げてきた。
「ふーん、アンタ職はなに?」
彼女は腰に下げている剣に手を添えて
「剣士です。少し魔術も使えますけど基本はこれですね。あ、こっちもあるので前衛全般って感じです」
途中でこちらに背を向けて盾を見せながら彼女は言う。
「そう、あたしは魔術師。少人数で依頼を受けてきたから斥候の真似事も出来るわ」
お互い事情があってのことか出来ることが多いのは悪くない。むしろいいことだ。
何より報酬が最低半分は貰えるわけで、こちらの条件を飲んでくれるのだ。これを逃す理由はない。
「いいわ、組みましょう。私はヒトミよろしく」
私は手を差し出す。
「ありがとうございます。私はレリアです。よろしくお願いします」
彼女、レリアはこちらの手をにぎり返した。
-----------
あとがき
読んでいただきありがとうございます!
転生ではない異世界ファンタジー作品になっています。
この二人の旅がどんなものになるのか、彼女たちの”事情”とは何なのか。
今後の展開にご期待ください!
毎週2~3回20時に更新予定です。
5章前後での完結を予定しており、約1年かかる見込みです。
この作品をちょっとでも良いと感じていただけたのなら、応援、レビュー等々励みになりますので、よろしくお願いします!
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