「あこがれ、を殺した、日」

アルパカ狂信者

「憧れ、を殺した、日」 上

アレは確か、僕が5歳位の時の事で、家族で近くの公園にピクニックに行った時の事だった。

「リリィお姉ちゃん!見て、蝶々にお花畑!!とっーても綺麗だよ!!」

そして、僕は蝶々に誘われる様に、蝶々を追いかけて走っていく。

「ちょっ、ルーカス!待ちなさい!一人で行ったら、危ないって!」

そんな、姉の静止も聞かず、僕は一人で前も見ずに、駆けていく。

「わっ!」

何かにぶつかって、僕はいつしか吹き飛ばされる。

「おい、どこ見てやがる……!」

「ご、ごめんなさ……!わざとじゃ……!」

気が付けば、少し背の高い、不良少年に囲まれていた。

「ちょっと、こっち来いや」

そう言って、腕を掴まれかける。

「ちょっと、待ったぁぁぁっっ!」

そう言って、現れたのは僕のお姉ちゃんだった。

「なんなん、お前」

「私の弟に手出さないで!!」

そう言って、お姉ちゃんは不良少年をすごい剣幕で一括して、僕の手をギュッ、って掴んだ。

「行くぞ!走れ!」

「う、うんっ!!」

そう言って、家族の居る所に戻る。

「お姉ちゃん、ハァ、ハァ……。さっきは、ありがと……!」

「ううん。弟を守るのは、お姉ちゃんの勤めだから、ね。いつでも、頼ってね?」

「うん、ありがと!!」

やっぱり、僕のお姉ちゃんは自慢のできるかっこいい憧れだった。


「全く、ダメだぞ、リリィ。弟を甘やかしたら……」

「ふふっ。そんな事無いわ。ルーカスは優しい子って事でしょう?逆にリリィは女の子ぽっくなるべきよ」

母親のラミアが諭す様に言う。

「むー。だって……」

お姉ちゃんのリリィが口を尖らせて、家族の笑い声がのどかな午後の公園に響く。嗚呼、なんて、幸せな時間なんだろう、と思う。そして、僕は、この幸せの時間がずっと続くのだ、と本気で僕はそう思っていた。


けれど、幸せはそう長くは続かなかった。


ーーーー


僕が7歳の時、お母さんが死んだ。


そこから、父さんが段々おかしくなり始めた。次第に、お酒を飲む様になって、呑んだくれて、荒くれて、挙げ句の果てには、僕に暴力を振るう様になっていった。

「おい、ルーカス。ヒック、そこに並べー」

「父、さん……」

グワリ、という衝撃と共に下腹部へ痛みが走って、目の前が逆さになって、視界がぐわぐわ、と揺れた。殴られたのだ、という事を理解するまで数秒を要する。

「……カハッ!ケホッ、ケホッ!」

更に、何発か顔を殴られ、下腹部を蹴りをいれられ、身体が軽く、吹っ飛ぶ。

「大丈夫?!」

音に気付いたのか台所から、姉のリリィがこちらに駆け寄る。

「というか、父さん何して?!」

「あぁー、ヒック。何って、殴ってただけ、だけど?たっく、愉しんでた所だったのによぉ……」

「ハァ?!こんな事して、許されるとでも……?!」

「んー。そうだなぁ……。お前には二つ、道がある。一つ、弟が殴られるのを黙って、見てる事。そして、もう一つは……なぁ、リリィ。お前は母さんの、ラミアの若い時にソックリだよ……。だからさぁ、殴るの止めてやるよ……」

そう言いつつ、父さんの顔が歪む。

「父さん……!?」

「さぁ、どっちを選ぶ?」

そう言いながら、父さんがこちらによってきて、僕の襟首を掴み、再び僕を殴ろうと腕を振り上げる。

「ツッ、止め……!」

僕が何とか、抵抗するも、父さんの手はまるで巨木か何かの様に、動かなかった。

「ツッ……止めて!弟から、手をはなして」

「ほーう。お前はそっちを選ぶんだ」

「その代わり、もう金輪際、弟に殴ったりしないと、手は出さないと約束して」

「……分かった」

そう言って、父さんは掴んでいた僕の襟首を放した。

「こっちへ来い」

「……は、い」

そういう、姉の声は震えていた。

「俺が色々と教えてやる。ハァ……。にしても、ソックリだなぁ、ラミアと」

「……ほら、早く」

「アハッ。まぁ、そうかすな」

そう言いつつ、ツツと姉の柔肌の上を父さんの太い指がなぞっていく。

「……クッ。どこ、触って!」

「アハッ、こんなに濡れてるのに?口では何とでも言えるけど、いつだって、身体の方は正直なんだよなぁ……」


そしてお姉ちゃんの身体はユックリと、確実に隅から隅まで、蹂躙されていった。


「あっ、んんっ!ルーカス、見ないで!!見ないでっ!お願いだから!見ちゃ駄目だから!」

「えー。ホントは見られた方が嬉しいんだろ?」

「うるさいっ!!」

「なるほどー。図星って、ワケね」

初めは二人がしている『ソレ』が何なのか、よく分からなかった。火照る頬と赤くなる肌、はだける服、混ざる2人分の吐息、そして、姉の身体は、ーーーーーー蹂躙されいく。


次第にボクはを理解していった。だけど、理解は出来たけれど、何もする事が出来なかった。僕は、ただただ立ち尽くして、『ソレ』を側で見ている事しか、いや、その行為から眼を背けている事しか出来なかったんだ。


ーーーー


ある日、僕は父さんが家に居ない時に、姉に聞いてみる。

「何で、嫌じゃ無いの……。それ」

「嫌だよ。でも、私が我慢すれば、お前はその間は殴られなくて済むでしょう。それに、お母さんの代わりになってやれば、父さんが喜ぶし、機嫌が良くなるし食糧とか、お金とか貰えるし……。何せ、ルーカスは食べ盛りだし。父さんだって、母さんが亡くなって寂しいんだよ。大丈夫。ルーカスはお姉ちゃんが守ってあげるから、ね?」

そう言って、お姉ちゃんは僕の頭を撫でてニッ、と笑った。

「お姉ちゃん、ありがとう。お姉ちゃんは、いつだって、僕の憧れで自慢出来るお姉ちゃんだよ」

「ふふっ、ありがと」


嗚呼、やっぱり、僕のお姉ちゃんは自慢のお姉ちゃん僕の憧れだ。


ーーーー


セミが鳴き始めていた、そんなうだるような7月の初めの事だった。不意に、お姉ちゃんが言った。

「ねぇ、ルーカス……。もう、耐えられない、の。私、聞いちゃったんだ。私を奴隷として、売るって」

「え?」

「もう、嫌なの。私、父親を殺そうと、思う。今まで耐えてきたけど、もう、耐えられないや。あぁ、勿論、これに加担するも止めるのも、ルーカスの自由だよ」

「……。……えっ、それって」

「私は、明日、父親を殺す」

お姉ちゃんは、眼と声色は、本気で言っているという事は分かったけれど、現実味がまるで無くて、脳の動きが鈍くなったかの様に内容がまるで、頭の中に入ってこなかった。


                                 (続く)

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