第2話 準備完了
箱の前に立つ。
一見ただの白い箱だが2つだけ語るところがある。箱の上部と前部に取り付けられたディスプレイ、それから。
「これはなんだ?カードをかざす所か?」
カードリーダーみたいなのが箱に付けられていた。
カードなら色々持っているが。どれも違うだろうしな。
「免許証とかクレカとか読み取れって訳じゃないよな。ならなにを読ませるんだ?」
悩んでたら【新規ユーザーですか?】と、上部のディスプレイに表示された。
【はい】【いいえ】という表示もご丁寧にある。
もちろん【はい】を選択。
【あなたの情報を読み取ります】
ディスプレイから横幅のある赤い光が飛んできた。プリンターのスキャン線みたいだ。
赤い光が俺の頭からつま先まで通り抜けた。
(体に害はないか?)
【情報識別中、識別完了】
箱の上部が自動で開いた。
中を覗くと免許証のようなカードが1枚だけポツンと置いてあった。
取り出してみる。
【探索者証明書】
名前:佐々木 健吾
年齢:35
筋力:E
耐久:E
器用さ:E
敏捷:E
知力:E
魔力:E
運:E
(俺はまだ年齢も名前も名乗ってない。なのに正確に読み取ってる)
となると、この下の筋力とかいう項目も今現時点での俺のステータスってところか。
これから何が起きるのかは分からないが、おそらく低いと思われるのが気になる。
やはり高ステータスが望ましいが。
ないものを強請ってもしかたない。次に行こう。
スマホを取り出す。
「今のでユーザーアカウントの作成が完了したんだろ?」
【✅ユーザーアカウントの作成】
【☑️ユーザープロフィールの確認】
タスク:1/2
「なるほど。分かりやすくていいよ」
で、次のタスクのやり方だけど
「たぶん、このカードをリーダーに読ませるんだろ?それ以外にやれることもなさそうだしな」
カードをかざすとピッと音が鳴ってもう一度箱が開いた。
中にはボロボロのナイフが1本だけ入ってる。
他にはなにもない。
「こんなんでなにをどうしろってんだよ」
扉の先には唸り声をあげるナニカ。
そして俺はそんなナニカと戦わないといけないんだろ。
(自害用か?)
そう思ってからの行動は早かった。
喉元にナイフを持っていったが……ある程度以上は物理的に進まなかった。まるで、俺と首とナイフの間に見えない壁があるようかのよう。
その理由はすぐに分かった。
【ダンジョンでの自害は禁じられています】
「そうかよ」
【ご武運を】
表示されたのはそれだけ。
そして、スマホを見るとタスク:2/2となっていた。
やることはこれで終わりらしい。
ナイフを逆手に持つと扉の方に向かっていった。
最後に一度だけ部屋の中を見た。
「椅子8個もあるが、結局誰も来なかったな」
救援がくる、とか支援が来るとかはなさそうだ。
俺は扉を押し開けた。
扉の先は四角い部屋だった。
詳細な広さなんて分からないけどとにかくめちゃくちゃ広い。
その部屋にはなにかが一匹いた。
なにかは分からない。
「でけぇ」
犬のような狼のような。
よく分からない生き物が一匹いた。
体長は3メートルくらいある。
「グルルルルルル」
目が合うとそいつは体勢を低くした。
いつでも、俺に飛びかかれるように。
俺は思う。
(勝負は一瞬で決まる)
なぜかって、相手は強えに決まってるからだ。
長期戦を仕掛ければ確実に俺が不利になる。なにより、一発目を避けれたとしよう。だが二発目はどうだ?無理だろう?35のおっさんが犬か狼の攻撃を何度も避けれると思うか?
答えは俺が1番分かってる。
だから、
(最初の一撃に全てを賭ける)
ふぅ、深呼吸して相手の出方を待つ。
明鏡止水。
心を極限まで穏やかにする。
恐怖?不思議とそんなものはない。
俺は自殺の名所で飛び降りた。
だからだろう、既に恐怖心も生存本能もぶっ壊れている。
「来いよケダモノ。俺を殺したいんだろ?なら殺してくれよ。俺を気持ちよくさせてくれよ」
「バウッ!」
タッ!
弾丸のように駆ける。
(早い!!!)
狙いはど真ん中デカイ口で俺を捕食するために迫り来る。
(あんなので噛まれたら即死だろうな、痛いだろうな)
そう考えると脳汁がドバドバだった。
だが、俺はここで死ぬつもりはない。勝たないといけない。
(もう一度あの橋から飛び降りたい。あの時の興奮をもう一度!味わいたい!)
行動は全て決めている。
あいつは俺を捕食する直前、最後の一歩は空中に飛び出すはずだ。確信は無い。だが予感はあった。
こういう生き物は獲物を捕食する前に飛び上がる。
そのタイミングを狙う。
そして、タッ!
(きた!)
奴が最後の一方を踏み出し宙に浮かんだ。
(予想通りっ!)
俺もやつに向かって走る。
「バウッ?!(なっ?!逃げずに突っ込んできた?!なんだこいつ!)」
回避行動など不要。
今回の場合攻めがそのまま回避することに繋がるからだ。
「お前、さっきまで俺が立っているところに丁度攻撃できるように踏み出したろ?」
ということは、前に踏み出した俺にはその攻撃は届かない。
「グル」
「さらには空中じゃ身動き出来ねぇよなァ?!」
俺は奴の懐に潜り込む形となった。
そして、狙う場所は決まっている。
「ココォォォ!!!」
あまりにも無防備な首筋。
脳みそにつながる一番太い血管を切り裂くように俺はナイフを突き刺した。
ブッシャァァァァァァァァァ!!!!
勢いよく血が吹き出す。
「俺からお前に死という素敵なプレゼントを送ってやる!血を垂れ流すのもめっちゃ気持ちいいだろ?だからこの俺に感謝しながら絶命しろぉぉぉぉぉ!!!これ以上ない死に方だろ?お前は世界で一番の幸せ者なんだからさ!」
「ぐ、グルゥ(意味不明)」
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