『コールドスリープ装置で眠ってる間に人類滅びてた少女が、ポストアポカリプス世界の街を探検するやつ――のプロローグ』

龍宝

「かくして、眠れる棺の少女は天使と出会った」




 ラド・シュトリの降臨。


 古代の神話から名をったこの出来事によって、人類はその大半を一夜にして失った。


〝神による終末の訪れ〟だとか、〝傲慢な人類に対する地球の答え〟だとか、はたまた〝宇宙からの侵略行為〟だなんて説もあったけど、何が起きたのかは分からない。


 確かなのは、かつて半島に落ちた隕石によって恐竜が滅びたように、今度は人類が滅びてしまったらしいということだけ。


 肝心なところがあいまいで申し訳ないけど、わたしもつい先日に目覚めたばかりで混乱している最中なのだ。



 浮蔵うきくら乃得ノエル。15歳の中学三年生。――だった・・・


 名前から察せられる程度には親馬鹿だった、資産家の両親のひとり娘。


 われながら恵まれた環境に生まれたものだが、その代わりに神様が与えたのは、当時の医学では治療の不可能な難病を抱えたもろい・・・身体だった。


 そして、忘れもしないあの日。


 このままでは成人までもたない・・・・と判断した医者の勧めにより、大金を費やしてのコールドスリープ装置を使った延命措置が取られた。


 病気自体は途中で治療に成功したようだけど、何故か目を覚まさないわたしを再凍結させたらしく、こうして無人の文明都市跡ポストアポカリプスをひとりで徘徊する羽目になったのだ。


 記憶を頼りに廃墟と化した街を歩く。


 どれだけ時が経ったのか、移り変わりは激しかった。


 昔と同じ位置にショッピングモールを見つけ、思わず入ってみる。


 室内だからか、比較的原型を保っていた。


 吹き抜けのあるエリアで足を止め、半円状のステージによじ登る。


 送り迎え完備のお嬢様生活+重病人だったわたしにとって、普通の学生みたいに放課後みんなでショッピングモールに寄り道するというのはあこがれ・・・・のひとつだった。


 不完全とはいえ、夢を叶えたわけである。


 妙な気分になって、わたしは思わず無人のステージで歌を口ずさんでいた。


 凍結前にテレビで特集されていた流行りの曲。



 歌い終えたわたしに送られる拍手は、もちろんなかった。



 ――パリン。



 不意に聞こえてきた音にびっくりして見上げれば、吹き抜けの天井部分の割れた隙間から、何かが下りてくるところだった。


 音もなく、客席に着地したその正体は。




 真っ白い翼を背にした――――とびきり可愛い女の子だった。





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『コールドスリープ装置で眠ってる間に人類滅びてた少女が、ポストアポカリプス世界の街を探検するやつ――のプロローグ』 龍宝 @longbao

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