第7話 クーデター
「それで、俺は昔話をするために呼び出されたのか?」と義仲。
「順を追って話すわ」と未華子。
「その前に紹介しておきます」と言って未華子は山形の隣に座っている男のほうを向いた。「憲兵隊調査部の日高少佐よ」
日高と呼ばれた男は立ち上がった。眼鏡をかけた実直な顔をした青年だった。「日高総一郎少佐であります」と言って義仲に敬礼した。
「座ってちょうだい」と未華子。「私は今回、侍女七人とともに誘拐されたわ。その誘拐中に、私は侍女の一人に殺されかけたのよ」
「ほう」と義仲。「人質に取られるぐらいなら殺せという指示があったのか?」
「おそらくそうでしょう」と未華子。「陸軍特戦隊と情報局特捜部の合同作戦失敗の後だったから」
「なるほど」と義仲。「どんなふうに殺されかけたんだ?」
「後ろから短銃で撃たれたわ」と未華子。
「よく助かったな」と義仲。
「圭子が助けてくれたのよ」と未華子。
「いつ町田軍曹はあんたたちに合流したんだ?」と義仲。
「合同救出作戦失敗のすぐ後よ。監禁場所を移されたときのどさくさにまぎれたの」と未華子。
「よく気づかれなかったな」と義仲。
「せめて護衛を送り込むという、我々の決死の作戦だったのです」と山形。「町田軍曹は五人の決死隊の唯一の生き残りでした。他に侍女二人が犠牲になりました」
「なるほど」と義仲。「暗殺未遂はその後か」
「そうよ」と未華子。
「だからあんなにべったりっだったのか」と義仲。「俺はてっきり深い仲なのかと思っていたよ」
「正直にいって、圭子のことが嫌いじゃないわ」と未華子。「だから呼び出したの。これからも守ってもらうために」
「これからも?」と義仲。「もう安全だろう」
「侍女の中にスパイがいたのよ」と未華子。「安心して生活できないわ」
「それで陸軍諜報部と憲兵隊か」と義仲。
「そうでございます」と山形。
「それでネズミは捕れたのか」と義仲。
「まだわからないわ」と未華子。
「今調査中でございます」と山形。
「なぜ葬儀場にいるんだ」と義仲。
「私が死んだという非公式の情報を流して、葬儀という名目で関係者を集めてるのよ」と未華子。
「なるほどね」と義仲。「諜報部が取り調べて憲兵隊が裁判か。日高少佐は臨時裁判を開く権限があるのだな」
「だが、捜査なんて警察にやらせればいいんじゃないか?」と義仲。
「いま警察は機能してないのよ」と未華子。
「どういうことだ?」と義仲。
「現在クーデターが進行中なのです」と山形。
「クーデター?」と義仲。「王都でか?」
「そうよ」と未華子。「だから王都には入れないの。」
「それでこんな場所でキャンプをしているわけか」と義仲。
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