第6話 掟

「それは申し訳なかったわ」と未華子。「山形、その掟の話は本当なの?」


「はい。事実でございます」と山形。


「では、義仲はもう故郷へは帰れないの?」と未華子。


「とんでもございません」と山形。「道場のもの一同、義仲様のご帰還を心待ちにしております」


「掟を破ったのになぜ?」と未華子。


「掟はみだりに術を使わせぬためのものでございます」と山形。「賊から皇女殿下をお救い申し上げることに、問題などあろうはずはございませぬ」


「だそうよ」と未華子。


「親父が許さんだろう」と義仲。


「病に臥せっておられます」と山形。「頭領の立場もお譲りになられました」


「誰が頭領なんだ?」と義仲。


「美紀さまでございます」と山形。


「美紀が?」と義仲。「達夫はどうした?」


「達夫さまは先年の戦でけがを負われました。今は療養されています」と山形。


「奴が怪我?」と義仲。「鬼でも出たか?」


「武奈国の刺客との戦いで深手を負いました」と山形。


「刺客は逃げたのか?」と義仲。


「はい」と山形。


「上には上がいるもんだな」と義仲。


「達夫という人はそれほどの使い手なの?」と未華子。


「はい。序列は義仲さまのすぐ下でございます」と山形。


「美紀という人は?」と未華子。


「以前は達夫さまよりも下でございました。ですが、今は道統始まって以来の使い手と謳われております」と山形。


「すごいわね」と未華子。


「あいつは特別だ」と義仲。


「あなたでも勝てないの?」と未華子。


「一度も勝てたことがない」と義仲。


「でもあなたが後継者だったのでしょう?」と未華子。


「美紀さまと義仲さまはご兄妹でございます」と山形。


「義仲は妹さんに本気で戦ってなかったということかしら?」と未華子。


「左様に皆申しております」と山形。


「その妹さんは義仲の帰郷を望んでいるということ?」と未華子。


「熱望しておられます」と山形。


「義仲、よかったわね」と未華子。「次の休暇にはちゃんと帰省しなさいよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る