第7話
懐妊を心から喜ぶ両親に、幸せなのか?と尋ねられ、鈴は迷う事なくうなずいた。
質素ながら、彦佐のおかげで以前よりちゃんとした生活を送れているのだろう。父の顔色もよく、母も弟妹たちも元気そうだった。
娘の幸せそうな様子を聞き、涙ぐむ両親に、ずっと心配してくれていたのだとわかり、鈴も胸をつかれた。
家族のためと言いながら、自分だけが不幸なのだと思っていたのが恥ずかしい。
夕方。家族に見送られ、鈴は彦佐の元へと帰る道を感慨深い思いで歩いた。
暮れなずむ空の美しさに胸が切なくなる。
彦佐は心配しているだろうか。
一刻でも早く心配性の彦佐のところに戻り、元気な姿を見せて安心させてあげたい。
鈴の気持ちは急いた。
足早に、けれど身重の身体に負担にならないようにと気を遣いながら歩いていく鈴の前方に、大木に寄り掛かって立つ、若い男の姿が目に入った。
思わず、身構える。
子供の頃。彦佐が構わなくなってからも、他の男の子たちは鈴を構った。
その中でも、地主である彦佐の次に裕福な家の息子である
時には、髪を掴まれてひっぱられたり、石を投げられたこともあるし、着物を破かれたりもした。
年頃になってくると栄治のいじめ方には狡猾さと欲望が混じり、二人きりの時には信じられないようなことをされるようになった。
膨らんで来た胸を触られたり、いきなり帯を解かれたり、着物の中に手をいれられたり。さらには、嫌がる鈴を強引に空き家に連れ込もうとしたこともあった。
村で一番の権利と力を備えた彦佐の庇護下にあっても、栄治への恐怖は鈴の中から消えていない。
鈴は気付かないふりをして、よそ見をしながら彼のそばを通り過ぎようとした。
<font color="#669966">「おやおや、誰かと思えば……鈴じゃねぇか」</font>
声をかけられ、鈴はビクッとし、思わず足を止めてしまった。
すかさず、栄治が鈴に近づいて来て、彼女をしげしげと物珍しそうに眺めた。
<font color="#cd5c5c">「な、なにか用?悪いけど、急いでるの。彦佐が待ってるから」</font>
彦佐の名前を出せば、栄治も少しはたじろぐだろうと思った鈴の期待を裏切り、栄治はニヤニヤ笑いながら彼女の腕を掴んできた。
<font color="#669966">「勘違いすんなよ、鈴?彦佐にとって、おまえなんて捨て犬も同然さ。同情して囲ってやってるだけさ」</font>
鈴は栄治を睨んで、腕を振りほどいた。
<font color="#cd5c5c">「そうだったとしても、あなたには関係ないでしょう」</font>
微かに声が震える。
栄治に触れられた腕を無意識にさすりながら、鈴は逃げるように彼から離れて歩き出す。
<font color="#669966">「まぁ、待てよ。そんなに急がなくても大丈夫だって。彦佐だって、おまえがいない方が楽しめることもあるんだしよ。バッタリ出くわしたりしたらまずいだろ?」</font>
<font color="#cd5c5c">「何、を…言ってるの?」</font>
いかがわしい目付きで見る鈴を、ニヤニヤ笑いながら、栄治は抱き寄せた。
<font color="#cd5c5c">「やだ、離してっ!」</font>
<font color="#669966">「今頃、彦佐は女とお楽しみ中ってことさ」</font>
信じがたい言葉が栄治から飛び出して、鈴はショックに身を硬くした。
<font color="#cd5c5c">「そ、そんなわけ…」</font>
<font color="#669966">「ない?彦佐ほどの男が、おまえ一人で満足すると思うか?」</font>
青ざめる鈴の顔を眺めながら、栄治は楽しそうに笑い、彼女をさらに抱きすくめた。
<font color="#669966">「彦佐が楽しんでるんだ。俺達も楽しもうや」</font>
耳元に囁くように告げると、栄治は彼女を肩に担ぎ上げた。
<font color="#cd5c5c">「いや!おろして!離してっ!やめて!」</font>
暴れる鈴を気にもとめず、栄治はすぐそばにあった小さな納屋に彼女を連れ込み、乱暴に積み上げられた藁の上に放り投げた。
そして、直ぐさま、鈴の身体の上に馬乗りになり、着物を引き裂くように開けて、彼女に悲鳴を上げさせた。
<font color="#669966">「ははは、いいな。おまえは本当にいじめがいがある。泣かせたくなるよ」</font>
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