第2話 初めまして

一度帰宅してカジュアルな服に着替える。

髪の毛も乱れを直し簡単にお団子に結び直した。眼鏡は度が入っていない伊達だてを実は仕事中使用している。現状必要ないので外す事にした。

あと化粧をとりあえず軽く直し色付きリップをしたが…素っぴんとあまり差はない。

白のTシャツに茶色のキャミワンピを着た上に黒のダウンジャケットを羽織る。この時間はまだ寒いのだけど、完全にちょっとソコまでな感じのラフスタイルだ。

正直、幼馴染みの家に行くのに何を着たら良いのか悩んでしまった。一応相手の方とは初対面なのであまりにも部屋着感が強いのもダメだし、だからと言って、かしこまり過ぎても何か…違うような気がしたから。


準備が終わると急いで家を出る。

亜依の家に行くのに自宅からなら歩いた方が早い距離感。私は仕事帰りに買ったケーキを持って足早に向かう。


結果到着したのは19時より少し前ぐらいになっていた。


「ごめんね!遅くなっちゃった!」

「お疲れ~!仕事だったんだもん、仕方ない!迷わなかった?」

「ここら辺なら平気だよ」


玄関前のインターホンを鳴らすと亜依が出迎えてくれた。亜依達の新居は賃貸マンションだけどもエントランスは無いので直に家の前まで入れる。

玄関を開けると奥から話し声が聞こえてきた。


「あれ?他にも誰かいるの?」

「あー、あらしの幼馴染みも来てるんだよね!せっかくだから」

「そうなんだ?」


玄関で靴を脱ぎ廊下を進むと、男性2人の声がハッキリ聞こえてきた。正直…男性は苦手なんだけど…仕方ない。

一応地味に仕上げてるし…コビを売ってるようには見えないだろう。


「桜、来たよ~」

「こんばんは、遅くなって…スミマセン」

「お疲れ様です桜さん。初めまして、箕山みのやまあらしです。宜しくお願いしますね」


椅子から立ち上がった青年男性、スポーツマン的な爽やかな風貌の嵐さんは亜依の情報だと市役所勤めの公務員らしい。亜依はその市役所の中にある売店でパート勤務をしていた。


高坂こうさかさくらです、こちらこそ宜しくお願いします」


亜依の旦那さんになる嵐さんに挨拶をしてからチラリともう1人の方を見た。するとバッチリと目が合う。

一瞬気のせいだろうか…なんか戸惑われているような雰囲気に感じた。


「コイツ、俺の幼馴染みで伊野いの聡介そうすけ

「こんばんは、初めまして」

「初めまして」


紹介されたタイミングで普通に伊野さんに挨拶をされた。先ほどの雰囲気はやはり気のせいだったのかもしれない。


「桜もホラ座って!軽く飲むでしょ?」

「あ、明日も仕事だからお茶でいいよ!」

「1杯だけ乾杯しようよー!」


私が伊野さんの正面に座ると亜依は缶酎ハイを手渡してきた。お祝いでもあるし仕方ないので1杯だけ付き合うことにした。


乾杯をするとトークが始まる。


「桜とはねぇ小学校からの付き合いなんだよね。3年生の時にクラスが一緒になってから大学までずっと一緒だったの」

「俺らは幼稚園からだよな」


亜依と嵐さんはお互いの幼馴染み…つまり私や伊野さんについて話し始めた。


「桜ってこんな感じに地味にしてるけど、昔から凄く可愛くて…大変だったよね」

「大変?」

「有りもしない事で誤解されたりして修羅場に巻き込まれたり」

「へぇ」

「亜依、私の事は別によくない?」


マジマジと私を見てきた伊野さん。何だろう…時々感じる不思議な眼差しに少し落ち着かない。緊張してソワソワ、ドキドキしてしまう。


伊野さんは少しだけ日焼けしていて、髪の毛もちょっと茶色っぽい感じで水泳部的な印象の容姿をしている。腕の筋肉もついていて、体育会系…嵐さんと似た部類かもしれない。

きっと2人は昔から女の子にモテたに違いない。


「そんな事より、亜依達は結婚式とかしたりするの?」

「あ、そうそう!それで2人にお願いがあったの!忘れてた!」


ハッと何かを思い出して苦笑いをする亜依。どうやらテンション上がって忘れていたらしい。


「10月に結婚式をする事になったんだけど、2人に余興をお願いしたくて」

「え?余興…?スピーチじゃなくて?」


まさかの余興…人前で何かをしてほしいという。伊野さんが困惑しているが、亜依は昔からそういう無茶振りをするタイプだ。


「スピーチは職場の上司がするからいっかなーと思ってさ。別に興味なくない?人の印象とか思い出話とか長々と聞かされるの。

そもそも俺達は記念写真だけにしようと思ってたのに、お互いの親が式を挙げろって言うからさ」


嵐さんが亜依と苦笑いしながら説明してきた。確かに亜依のご両親は言ってきそうな気がする。ご両親というか祖父母が昔から口を出す傾向にあるかもしれない。


「だからね、桜に歌って欲しいなぁ…って思って」

「歌?え?歌ですか?」

「で、聡介がキーボードで伴奏」

「は?」


勝手に話を進めるカップルに私は困惑してしまっていたのだが、伊野さんはため息をついて諦めの表情になっていた。


「似た者夫婦だな…コイツら」


ボソリと呟いた言葉にその似た者夫婦は気付いていない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る