1月29日PM 池袋
私は田村と坂上を呼び止める。
「聞いてくれ」
二人を伴いEOCの端に移動しながら小声で話しかける。
「
「
「責任は私が取る。拘束指示は無視していい」
田村も坂上もこちらの真意を探るかのような表情。
「
坂上は戸惑っているようだ。
「
田村は力強く頷いた。
「その上での話だ。もし建物内から逃げた
「よろしいのですか」
「巽の
「わかりました。十分に周知しておきます」
「諸々、杞憂で済めば良いと思うが」
「私もそう思います」
田村の答えに私は頷き、二人を送り出した。
私は榊に声をかけ、共に地下2階に向かう。
エレベーターを降りると、6階と同じような
扉の先には、棚やロッカーが立ち並んでいる。数々の衣服、銃器、弾薬、剣、その他数々の装備品。
部屋の突き当り。壁の上部に扁額がある。そこに書かれているのは日本語ではない。『Si vis pacem, para bellum』。汝平和を欲さば、戦への備えをせよ。
扁額の下には、一枚板の重厚なテーブルがある。
私は棚からグロック17とグロック26を各々二挺取り、テーブルに置いた。榊は
「榊。今回の作戦では御形と共に陽動を頼みたい。できだけ派手に暴れて
「わかりました。山中での作戦ですが、銃器はあまり使わない方が良いのですよね」
榊は太刀を抜き、刃を見ている。
「深夜の冬の高原だ。流石に人目はほぼ無いと思うが、音がな。それに阿蔵ほどではないと思うが、
私は自分の拳を榊に向ける。
「結局はこれだろうな」
榊は凄みのある笑みを浮かべると、私に拳を見せてきた。
私はベネリM4をテーブルに置き、弾薬の棚に向かう。
不滅の
闇の父、闇の母が、意思を持って人間を噛み、その血を飲む。そして、噛まれた人間がその意思を持って闇の父、闇の母の血を飲むことで転化が始まる。
転化が進むと、身体の代謝が緩やかになり、いずれ止まる。肉体の心臓が停止すると同時に、
私は、吸血鬼の血、その
多くの
榊は博物館にでも収められていそうな形状の剣を持ち出していた。
榊の身体はおおよそ半分程度が転化しており、人間とは比べられないほどの膂力、瞬発力、回復力を持っている。眼帯で隠している左目には御堂の血統に見られる
榊は転化しきっていないため、血を飲んで魂を補うことができない。人間と同様に食事でしか身体を、その精神を、魂を動かすことができない。左目の制御が完全ではない今、
私は漆黒の「
今回の現場は山中であることから、榊には性能重視で戦闘服を用意させた。「
育ての親としての贔屓目かもしれないが、榊には黒よりも白のほうが似合う。夜の側ではなく昼の側を歩いてほしいと、ずっと思っていた。
だが、娘はこちらの世界に踏み込んできた。自らの意思で。ならば、闇の父として夜の生き方を伝えることしかできない。
榊の幸せは私が決めることではない。だが、縁ができた以上、幸せを願わずにはいられない。私の手から零れ落ちて行った人々、吸血鬼達の幸せ。私が応えられなかった吸血鬼達、人々の生。
榊を助けた日からこれまでのことを思い出す。初めて握った榊の手は小さかった。その感触を忘れたことはない。
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