1997年8月18日 大宮市大門町

「しかし、何だったんですかね。アレは」

「まともなヤツじゃない」

「あんなに殴られてるのに平気ってのがもう普通じゃないっすよね」

「4人がかりでも無理だったな」

「ですです。で、すげー速い。アレ超速かったっすね。動きが全然見えなかった」

「そうだな」


「ところで、あの黒ずくめのおっさんはなんだったんですか。タケさん知ってるみたいでしたけど」

「あれは代理人だ。評議会カウンシルの。部長だ」

「部長? 何ですそれ? そりゃそうと、あっという間にアレをぶっ飛ばして連れて行っちゃいましたけど、良かったんですか? 俺ら的に」

「いいんだ。」

「そうっすか……。まぁ、タケさんがいいってなら大丈夫だと思いますけど。報告どうするんすか。どうやって書いたもんか」

「安心しろ。俺がやっておく」


「マサ。ちょうどいい。話しておこう」

「なんです急に。改まって」

「まぁ、聞け」

「はい」

「その前にジョッキが空いてるな。ビールでいいか」

「あざす」

「若いんだから、もっと食えよ。遠慮すんな。ほら」

「ウッス」


「お前、吸血鬼って知ってるか」

「なんです? 急に」

「知ってるか」

「はぁ……まぁ一応……。ドラキュラとかそういうのですよね。後、俺は人間をやめるぞーとか。俺、漫画読んでましたよ。ってか何ですかほんと。突然」

「アレはウチでも対処ができないんだ。というか普通の人間じゃ無理だ。だから、アレらしきものが見つかった時点で報告する」

「……? どこへですか?」

評議会カウンシル

「さっきも言ってましたけど、俺、そんな名前の課とか聞いたことないっすよ」


「…………。もしかして、今日のアレ。実は吸血鬼だーとか言わないですよね。漫画やアニメじゃあるまいし」

「…………」

「え? ちょ、ちょっとマジで?」

「…………」

「タケさん酔ってないですよね?」


「俺がアレの事件に関わるのはこれで二度目だ。まさか二度目があるとは思ってなかったよ」

「はぁ……」

「最初はもう随分と前だ。俺がお前ぐらいの時だよ」

「タケさんにも若い頃があったんすね」

「まあな。今から話すのは、先輩から聞いた話だ。長峰ながみねさんだよ」

「って、え? 長峰さんって、もしかして署長オヤジっすか?」

「そうだ」

「あー……。まぁ、署長オヤジも若い頃があったんですよねぇ…………」

「そうだな」


「あんなのどうやって見抜くんですか。無理っすよ」

「奴らはバラバラなんだ。たちの悪いことにな。いろんなヤツがいる。らしい。だから、積み重ねが要る。丁寧にやれ。何か一つ二つってことじゃない。三つ、五つ、十に二十と積み重ねるんだ。五も十も当てはまってりゃ、そりゃアタリだ。偶然じゃない」

「どこを、何を見ればいいんっすか」

「それを教えてやる」

「見ているうちにやられちまいそうですけどね」

「うまくやるんだ」

「はぁ」


「メモは取るな」

「え?」

「覚えるんだ」


「この件は、全て現場で対応しているんだ」

「……?」

「知っていて偉くなる奴はいる。だが、偉いからといって知っているわけじゃあない」

「そんなんでどうやって対応するんです?」

「ずっとそうやってきたんだ。長峰さんも。その先輩たちも。そしても俺も。仲間はいろいろなところにいる。俺が知っているのは一部だが、それも教える」


「いいか。マサ。この話、お前に託すぞ」

「託すとかって、ちょっと重くないっすか」

「そうか……。そうだな。じゃあ、お前に引き継ぐ。これならどうだ?」

「言い方変えたって……。そもそも俺で良いんすか?」

「駄目なら話さんだろう」

「わかりました。できる限りはやります」

「頼むぜ。若人わこうど

「タケさんだってまだ先が長いじゃないですか」

「そうでもないさ」


 若者は改まって言う。

「よろしくお願いします」

「おう」

 男が答えた。

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