第4話 筋力百倍②
「さぁ、着きましたよぉ…………いや、戻ってきましたよ、の方がいいですねぇ」
出発したのは朝だったのに気が付けば、太陽は真上に差し掛かっていた。俺は依頼を受けた時に貰った紙を広げ。
「とにかくさっさと薬草を採取して、モンスターに見つからない内に帰るぞ! ルビアこの薬草って何処に生えてるんだ?」
「そうですねぇ。たしかぁ、こっちだったと思いますよぉ」
とにかくモンスターとかには出会いたくない。特にあのオーガの亜種には!
森の中を警戒しながら歩いていると。ルビアが声をかけてくる。
「あっ、ありましたよ。これが今回依頼された薬草ですよぉ」
ルビアが小さい身体で薬草を引き抜く。
「…………なんか、その辺に生えてるのと見た目変わらなくないか?」
「えー、そうですかぁ? よく見ると違いますよぉ。ほら、茎の部分が若干赤いですよぉ」
そうなのか? ってか周りを見てみると、俺の世界では見たことないような植物があるんだけど。
「とにかく、これをかご一杯に摘んでくださいねぇ。はいこれ」
「お、おう」
ルビアが薬草を手渡して来たので、それを参考にしながら近くに植物を引き抜く。
「これか?」
「雑草ですねぇ」
「これは?」
「ああ、雑草ですよぉ」
「じゃあ、これは⁉」
「雑草ですねぇ、雑草」
「これはどうだ⁉」
「あっ、それ毒草なんで気を付けてくださいねぇ」
ちくしょう! 全部同じにしか見えないんだよ! この辺に生えてるの全部雑草とかじゃないのか⁉
俺は無造作にその辺の植物を引き抜く。
「あっ、それが薬草ですよぉ」
………………ちっくしょうがぁぁぁぁ‼ 違いが分かりにくいんだよ!
こんな感じで俺は雑草の………………薬草の採取を続けた。
「はぁ、はぁ、終わったぞ!」
俺はかご一杯になった薬草を地面におろす。
「結構時間が掛かりましたねぇ。もう夕暮れですよぉ?」
いや、お前後半はサボってただろ⁉︎ 木の上で昼寝してたの見てたからな?
「ほら、早く帰らないと夜になりますよぉ?」
「分かってるよ。てか、この依頼の報酬っていくらだっけ? 俺、報酬見ないで受けたんだけど」
「えぇとですねぇ」
ルビアが依頼書を取り出して確認する。
「あっ、ありましたよぉ。かご一杯の採取して、3000ルピスですねぇ」
「こんだけ苦労して、3000か。そういやルビア、宿代っていくらだった?」
「朝食込みで2000ルピスでしたよぉ」
2000か。まぁ、朝食込みでそれなら安いか。残りのお金で軽い夕食くらいなら行けるか。
「あっ、でも税金が引かれて、報酬金は2700ルピスですよぉ」
忘れてたわ、税金があったの。ってか、1日頑張って宿代と少しの食費だけって。
「はぁ。とりあえず帰ろう。もう、休みたい」
「そうですねぇ」
俺は薬草の入ったかごを背負い、森を出ようとしたその時ーー。
「きゃああああ‼︎」
遠くから女性の悲鳴が聞こえた。
「な、なんだ⁉︎ 悲鳴が聞こえたぞ!」
「そうですねぇ」
悲鳴が聞こえたのにルビアはいつもと変わらない様子だった。
「たしかこっちだったよな⁉︎」
俺は茂みをかき分け声のした方に向かう。
「あっ、リクさん待って下さいよぉ」
「ん? あれか?」
茂みをかき分けて森を少し歩くと、少し離れた所に柄の悪そうな男たちに囲まれた女性がいた。
「おい、ルビア。あれって」
「あー、盗賊ですねぇ」
やっぱりか。盗賊が出るとは受付のお姉さんも言ってたけど。
「なんとか、助けてあげられないかな? でも、こっち丸腰だしな」
俺は男たちに囲まれて、困っている女性を助ける方法を考えていると。
「リクさんリクさん、もしかして助けようとか考えてますぅ?」
「当たり前だろ? 困ってる人が居たら助けたいだろ?」
俺が真剣にそう答えると。
「リクさん。馬鹿なんです?」
ルビアが呆れた顔でこちらを見ていた。
「いやいやいや、なんでだよ? 困ってる人が居たら助けるのは当たり前だろ?」
俺の言葉を聞いてルビアは、肩をすくめ、大きなため息を吐く。
「あのですねぇ。リクさん……」
ルビアが何かを言おうとした瞬間。
「待て! お前ら! その人をどうする気だ!」
俺は声のした方を見ると。
「おい、誰か出て来たぞ⁉︎ ってあの見た目。俺と同じ転生者か?」
「あー、みたいですねぇ」
転生者の男は、柄の悪い男と女性の間に入り、女性を庇うように前に立つ。
「おい、これ俺も何か加勢した方がいいか?」
俺も何か出来ないかと考えていると。
「あー、リクさん行かなくていいですよぉ」
「何でだよ⁉︎ お前いくら面倒臭いからって目の前で困ってる人がいるのに!」
「リクさん、あれあれ」
「何だよ⁉︎」
ルビアが指差した方を見ると。女性が男の背後に隠れて………………。
「ん? あれ? なんかおかしくないか? 隠れると言うか。背後から押さえつけてないか? あれ」
俺の視線の先で、女性が転生者であろう男を羽交締めにしていた。
「おい、ルビア。あれってどういうこと?」
ルビアが馬鹿見るような目を向け。
「どうって。見たまんまですよぉ。あの女の人も盗賊の仲間なんですよぉ」
「はぁ⁉︎ 何それ?」
「だからぁ、盗賊も女の人もグルなんですよぉ。普通に考えて手ぶらの女性が、モンスターの出る森に居るのは不自然ですよぉ?」
「いや、確かにそうだけども」
俺は盗賊に視線を戻すと、ボコボコにされた男は担がれて盗賊達に連れて行かれていた。
「ちょ⁉︎ あれ助けた方がよくね? いや、その前に町に戻って報告を!」
「あー、リクさんリクさん。いいんですよ。あれはあの人の自業自得です」
「いや! でもよ!」
すると、ルビアが大きなため息を吐く。
「はぁ、いいですか? リクさん。ここは異世界です。リクさんの居た世界とは違うんですよ?」
「いや、それは分かってるけど……」
「分かってませんよぉ。いいですか? この世界では助けるのは当たり前じゃないんですよぉ? それはリクさんの世界だから通用するんですよ?」
「ええぇ⁉︎」
「この世界では、助ける=リスクと考えてください。リクさんの世界と違ってこの世界では、助けるのに責任があるんですよぉ」
「なんだよ? 責任って?」
「仮に助けたとして、さっきの女性が負傷して身動きが取れなかったらどうするんですかぉ?」
「そ、それは近くの町まで……」
「こんな森の中で? モンスターも居るのに庇いながら町まで行くんですかぁ?」
「………………」
たしかに、もし仮に助けられたとして丸腰の俺が誰かを庇いながら町まで行くのは困難だな。
「いいですかぁ? この世界では基本的には自業自得なんですよ? さっき助けに入った転生者の人も、よく考えずに出て行ったのが悪いんですよぉ」
…………そう考えると先に出ていたら俺が盗賊にやられていたのか。
「さぁ、分かったら私達は町に帰りますよぉ?」
ルビアがふわふわと飛んでいく。
俺は先程まで盗賊達のいた場所を見て、この世界の厳しさを肌で感じた。
森を抜けるため、来た道を引き返す俺たち。
「なぁ、ルビア。さっきの転生者無事かな?」
俺の質問にルビアは。
「さぁ、どうですかねぇ? 最悪殺されてるか、良くて奴隷として売り飛ばされてるんじゃないですかねぇ?」
怖っ! 良くても奴隷として売り飛ばされるのかよ⁉︎ てか、奴隷いるんだ⁉︎
「はぁ、それにしても、盗賊もよく考えるな。あんな罠を張るなんて」
「多分、近くにさっきの転生者がいたのが分かってたんでしょうねぇ。そもそも、盗賊があんな罠を張り出したのもリクさん達、転生者のせいなんですよねぇ」
は? さらっとすごい事言わなかった? どういうことそれ? 俺達のせい?
「おいルビア? どういうことだよ?」
ため息を吐きながらルビアが答える。
「この世界の住民なら、アレが罠だって気付きますよぉ? アレに引っかかるのは異世界からの転生者だけなんですよぉ。しかも簡単に騙されるし、お陰で奴隷とし売り飛ばされる人が多いんですよぉ」
………………それはあれか? 異世界転生でよくある困った人を助ける展開を見て、よく考えずに助けに入る転生者を見てから罠を張るようになったと?
「それって、俺達転生者が自分で自分の首を締めてるようなもんだろ」
「ま、実際そうですねぇ。スキルを貰って強くなった気にでもなったんじゃないですかぁ」
…………なんか盗賊って意外と考えて罠張ってるんだな。全然頭悪くなかったわ。
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