36:いざ、魔王の城へ/七五日の一日目
「またとんでもないことになってる……」
配信終了後。
俺は『高天原エアライン空域』に繋がる『壁』の前で端末ドローンを見ながら、半ば呆然としていた。
何故って、
迷宮から戻る前にヴィヴィアネさんに鑑定の依頼を出したときもなんか『そんな場合じゃないと思うけどぉ……』とかごにょごにょ言われたので、何かと思って確認したらこれだ。またかよと言いたくなる俺の気持ちも理解してほしい。
しかも、今もってDMが止まらない……。コラボ依頼とかそんな生易しいものじゃない。共同研究がどうの優先取引権がどうの…………探索者として『ガチ』の内容である。
「ナツカさん達がさらに有名になりますよ?」
「それだけで済んだらいいんだがな……」
能天気なナツカに、俺は重い気分になりながら答える。
流石に俺も、こういう感じのバズは経験したことがない。キララとして何回かバズったことはあるが、それは活動者としてのバズりだ。だが、これは違う。この場合、俺達は権利者として注目を集めてしまっている。
…………さっきKaleidoさんから連絡が来た時は『はぁ』って感じだったが、こうなってくると取材依頼を受けたのも良かったかもな。Kaleidoさん経由で心春さんにヘルプを出せば、迷宮省を味方につけることもできるかもしれないし。
「……マジで新鉱石なのかね」
ざわめく旋風を眺めながら、俺は呟く。
流石に俺達程度が見つけた発見なんて他にいくらでもされてるだろうと思っていたのだが、案外そうではなかったのだろうか?
……見た感じ、TAL空域の第二階層──これも俗に2Fと言うらしい──は飛行ギミックは人気ではあるが、底層のホバー移動ギミックは不人気だったようだ。
不人気エリアに加え、初見殺しを搭載しており真っ向から攻略するにしてもやや面倒くさいアクティブエネミーがいること、そもそも二メートルの強風をかきわけて『空の底』に破壊を齎せるような
これだけ大騒ぎになって実は新発見ではありませんでしたという展開をちょっと心配したりもしたが、此処まで盛り上がっていながら反論めいたものが一つも見えてこないとなると、流石に真実だと断定してもよさそうだ。
……そうか、俺達が新発見か……。
「あれ? これ明日から企画どころではない???」
そこで、俺は気付いてしまった。
だってそうだろう。
新種の異界物質。それも、単一迷宮限定のギミックを外部でも使用可能にするような代物だ。きちんと加工すれば遠隔武器の異界武器を生成することすらできるポテンシャルを持つ鉱石。きっと需要はめちゃくちゃ高いと思う。
この発見をちゃんと扱うなら、色々と準備が必要だし……ダイバーとしても、この流れに乗らない訳にはいかない。バズを人気に繋げる的な意味でもそうだが、リスナーの為にも。普通にリスナーも興奮通り越して心配しちゃいそうだし、明日の配信は『緊急で配信とってます』って感じで、これについての対応とかの説明をするしかないと思う。
そして……この流れって、いつまでやればいいんだ?
一日や二日で済む話なのか? あるいはもっと? いずれにせよ……『
今回の
「? 別に明日も変わらず
「ダイバーとして、こんなバズったネタ擦らずに他のネタをやり続ける訳にはいかんだろ!」
きょとんとしているナツカに、俺はツッコミを入れる。
そう、多分に厄介な状況ではあるが、好意的なバズりであることには変わりないのだ。関連のネタを擦れば、それだけでリスナー数が上がるボーナスタイムみたいな期間である。
なんでこの馬鹿は、普段功名心の塊みたいな感じなのにこういうときだけマイペースなのか……。
「リスナーも、きっと今回の新発見がどうなったのかとか知りたいだろうしな。多分、無理に
「うーん、それは困りますよ」
俺が忠告すると、ナツカも腕を組んで考え込んだ。
その様子を尻目に、俺は端末ドローンを操作して情報収集に勤しむ。とりあえずこの後は
あーほんと、こういう探索じゃない面倒事はなるべく避けたいんだけどな……。こんなときばかりは事務所所属のダイバーが羨ましい。
と、そこで俺は、空間投影されたウインドウをスワイプする手を止める。
とある投稿が目に留まったからだ。
弘法も筆の誤り @NohaKqcd1769
今大空洞線の前にいるけどTAL空域行きにめっちゃ人いる笑 #ナツクロ放送中
……え? 来るの? こっから?
しかもこれ、一〇分前の投稿なんだけど……場所によっては、もう着いてる人もいるんじゃないか!?
「おっ! いたぞ!!」
あ、来た。
男性の声に視線を上げると、大空洞線の駅からぞろぞろと、十数名ほどの探索者達が降りてくるところだった。
人間の男性に人間の女性、獣人の女性、竜人の男性……色々だ。皆端末ドローンを漂わせながら、ギラついた目でこちらを見ている。こわっ。
多分、この人たちは今回の新物質の件で色々と話をしたい人達なのだろう。ナツカに応対できるわけもないし、仕方がないから俺が話をするか……と思い、ナツカを庇う形で一歩前に出た、その時。
「ちょ〜っと失礼~☆」
ズウ──と。
俺の真横に人の身長ほどの『亀裂』が現れ、中から漆黒のナイトドレス姿の女性がコミカルに顔を出した。
ヴィヴィアネさんだ。
ヴィヴィアネさんは驚き構える俺を無視して、目の前に迫って来た探索者達に言う。
「はじめましての人ははじめまして。知ってる人はごきげんよう? わたしはヴィヴィアネ。『調査』系の……『御三家』とか呼ばれてるロートルよぉ。悪いわねぇみんな。このコ達は先約があるのぉ。契約の話はわたしがのちほど引き受けるから、今はご遠慮願えるかしらぁ?」
突如現れた謎の探索者に対し、反射的にカメラドローンを構えた探索者を制止するように。
ヴィヴィアネさんは、すらりと自己紹介をしてから、俺に目配せをする。その彼女のいる亀裂の先には……『壁』が見える。
ああ、なるほどね。
おそらくヴィヴィアネさんは、俺達を別の迷宮の中に引き込むことで、野次馬の目から匿ってくれるつもりなのだろう。探索者達から見て垂直方向に『亀裂』を展開しているのも、おそらく『亀裂』の先の情報をカメラに残して、ネットの集合知で逃亡先が特定されないようにするためか。
何にせよ、ちょっとこのままだと人の波に揉まれそうだった俺達としても、非常に助かる話である。
「……未来ある
そっと、『亀裂』から身を乗り出したヴィヴィアネさんは、そう言って俺とナツカを抱え込むように捕まえた。
やってきた探索者達も、異議を唱える様子はないようだ。
……芝居がかった動きだし、多分探索者達が回しているカメラの映像が拡散されることを踏まえてのムーブだろう。なら、俺も一応言っておかないとダメだな。
「えーと、そういうわけなのですみません。一旦失礼します。今回の件は後日配信とかで詳しく説明しますんで、そちらの方もよろしくお願いします!」
「あっ、旋風のフォローお願いしますよ!」
俺が業務連絡っぽいことを言ったからか、思い出したように付け加えたナツカの言葉を最後に。
ヴィヴィアネさんは、俺達を『亀裂』の先へと攫って行った。
◆ ◆ ◆
──溶岩の海に囲まれた、石造りの城。
『壁』を通り抜けると、星一つない夜空の下、溶岩の海の上に建てられた石造りの島が、俺達を出迎えた。大きめの学校一つ分くらいしかなさそうな小さな島の上には、巨大な古城がちょうど収まるように建てられている。
此処は平常
ヴィヴィアネさんが目下調査中というこの迷宮に、俺達はやって来ていた。
立派すぎる城門を前にして、俺は若干気圧されつつも、前を歩くヴィヴィアネさんに言う。
「えっと、ありがとうございました」
面倒な対応になりそうなところを、窓口まで買って出てくれたのだ。大変助かった。
しかしヴィヴィアネさんは曖昧に笑いながら、
「気にしないでねぇ。それに、わたしだってあの人たちがやろうとしていたことをやってるだけなのよぉ? 新物質の権利締結に絡めるんだものぉ。利があってやってることに、あんまり負い目を感じないようにねぇ」
「またまた」
あえて露悪的に振舞うヴィヴィアネさんに、俺は思わず苦笑してしまった。
気遣いの出来る人である。心春さんもそうだが、こういう大人に憧れるよね。
「ヴィヴィアネさんにとってはこの程度の発見なんか惜しくもないでしょう。知り合いってことで助けてもらったことくらい分かりますよ」
「……………………ホントに無自覚なのねぇ」
苦笑しながら言うと、ヴィヴィアネさんは割とマジなトーンで呆れていた。……あれ? 俺なんか判断ミスった?
ヴィヴィアネさんはくるりとその場で半回転すると、俺達に向き直った。真面目な表情のまま、ヴィヴィアネさんは切り出す。
「まず、アナタ達、この『ナツクロイト鉱石』の用途がどんなものになるか分かってるぅ?」
……『ナツクロイト鉱石』の用途……?
「それはもう、くっつけたら風が出て楽しいですよ」
「馬鹿そんな単純な訳ないだろ。加工すれば空気銃みたいなのが作れるとかですかね」
「クロそんな怖いこと考えてたんですか……」
ドン引きするなよ!! あくまで可能性の話だからな、可能性の話! 加工する手間とかもあるから、本当にそうなるかは俺だって正直分かんねぇよ!
わちゃわちゃする俺達にパンパンと手を叩いて注目を集め、ヴィヴィアネさんは言う。
「クロちゃんの方は多少現実味があるかもねぇ。でも、違う。そもそも加工なんかする必要もないわぁ。ただ採掘したモノを活用するだけで、この鉱石は迷宮を変える」
…………迷宮を、変える……?
「要は、敷き詰めればどんな迷宮でもTAL空域の2Fみたいな環境を作れちゃうってことなのよぉ」
……あっ!! そういうことか!
「知ってるぅ? TAL空域の2F、特に飛行ゾーンについては、とっても人気があるのよぉ。2Fに到達する為のギミックが分かりづらいから、まだそこまで大人気の迷宮にはなっていないけどねぇ」
そう言って、ヴィヴィアネさんはマグマの海へと視線を投げる。
「でも、ナツクロイト鉱石を安定採掘するようになれば、話は変わってくるわぁ。たとえばこのWF城塞の溶岩の海にナツクロイト鉱石を浮かべれば、溶岩の海を飛び交うような遊び方ができるようになる。…………ま、『
ヴィヴィアネさんの視線を追いかけて、俺はその可能性について考えてみる。
どんな迷宮でも、飛行を楽しむという探索の仕方ができるようになる。いや、これまでは単に上空というだけで済まされてきた景色が、実際に探索可能な空間となる。
これって…………。
「気付いたかしらぁ? そう、これって、下手をすると新たな『スタイル』の誕生になりうるのよぉ」
……………………と、
「とんでもない話じゃないですかっ!? 本当にそうなったら、迷宮史に残りますよ!?」
「だからそう言ってるのよぉ。少しは自分が置かれた状況を理解できたかしらぁ?」
や、ヤバイ……。そんな大事だったとは微塵も思ってなかった! 精々、デビュー前のバズりがちょっと大きくなったくらいかと……。
これ、ヴィヴィアネさんに最初に連絡しておいてよかったな……。
「情報の出し方も、考えた方がいいわねぇ。こういう場合に必要な申請手続きがあるから、その為の準備をまずすること。それまでは、外部にはあんまり情報を漏らさない方がいいわぁ」
「あ、配信とかもってことですかね」
「そうねぇ……。まぁそう何日もかかるものじゃないけどぉ。ああ、あともし取材とかをお願いされてたら、そっちも一旦止めておいた方がいいわぁ」
思い出したように、ヴィヴィアネさんはそう付け加える。となると、Kaleidoさんの取材も一旦待ってもらった方がいいな。あとで連絡しておこう。
……あ! そうだ、今気付いたけど、Kaleidoさん経由で心春さんが合流してきたら、ヴィヴィアネさん的にはもしかしたら逃亡しちゃうんじゃないか? 現実に戻りたくない
危ねぇ……あやうく最後の命綱を自分で切り落とすところだった。
「そうしときます。じゃあ、色々よろしくお願いします」
そう言って、俺はヴィヴィアネさんに礼をする。
ナツカも倣ってお辞儀をし、それに対してヴィヴィアネさんはにっこりと笑ってこう返した。
「ギヴ・アンド・テイクよぉ。お互い、WINーWINでやりましょ?」
……やっぱりギヴ・アンド・テイクというにはこちらが受け取りすぎている気がするんだけども、いいのかなぁ。これがベテランの余裕というやつか。
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