09:王墓、又は金字塔 ①/何だかんだ締まらない二人
ピラミッドというのは、平たく言えば古代エジプトの王墓である。
フィクションなんかじゃ、盗掘者対策の為に迷路になっていたり罠が仕込んであったりといった、即死トラップ山盛りのアトラクションとして描写されることもあるが、あれは後世の創作だ。
実際のピラミッドは、王が葬られているお墓。古代の王墓に参拝の文化があったかどうかは俺には分からないが、当然道は入り組んでいたりしないし、そもそも長さだって三時間尺の映画を満たせるほど長い作りにはなっていない。というかそもそも、中でアクションできるほど広い道があったりもしないのがピラミッドの『現実』である。
──ただし、此処は
そもそもなんで突如現れた現象なのに完全人工物(しかも地球の歴史の産物)であるピラミッドが砂漠地帯のど真ん中にドンと置かれているんだという常識的疑問をぶっ飛ばしたこの場所において、現実のピラミッドがどうとかいう常識は通用しない。
通用口らしきトンネルを通ると、軽く一〇メートル程はあるだろう道幅の通路が目の前に広がっていた。
先を見通せないほど長く続く通路を見ながら、ナツカが言う。
「……なんか見た目よりも内部が広くないです? このピラミッド。全体的に変な感じがしますし……」
実際、ナツカの言う通りである。
外から見たこのピラミッドの大きさは、精々底面が五〇〇メートル四方の四角推程度。この中が薄暗いとはいえ、一応の照明みたいなものはついているのだし、全体的にもっとこじんまりとしていたってよさそうだ。
というか、実在のピラミッドはまず間違いなくこんなに広くないしな。
「空間が歪んでるんじゃないか? 『大空洞』とか他の迷宮とかだって、中身の広さを全部合計すると今頃地球のどっかで大陥没が起きてないとおかしいって計算が出てるし」
「急に怖いことを言うのはやめた方がいいですよ」
「だからそうなってないから物理的に空間が存在してる訳じゃないって話をしてんだよ!」
否定する為のロジックにビビってんじゃねえ!
Kaleidoさんはそんな俺達のやりとりを見て笑いながら、
「一説によると、中に入った探索者達が小さくなるギミックなんじゃないかと言われていますねェ。ほら、此処に登場する
Kaleidoさんの説明を引き継ぐように。
広い通路から何本も枝分かれした道から、何体かの
巨大な…………猫に、鳥に、羊に、蛇に、鰐に……これ、エジプトの壁画とか彫刻とかに出て来る動物じゃないか? 詳しい
「『ラアバ=クヌム』。アラビア語でクヌム神の玩具という意味の名前……をつけようとした日本人ユーザーが機械翻訳でつけたせいで、誤訳のまま定着してしまったという逸話を持つ
「……あれ、全部がですか?」
見た目は全く違うが……想像するに、生物を模した土人形のモンスターは全て『ラアバ=クヌム』で、それぞれ個体ごとに種類があるということだろう。
「えェ。実物はファラオの副葬品らしいサイズだったものの、ピラミッド内にある縮小ギミックによって我々目線は実際の動物よりも巨大になっているのでは、と言われていますねェ」
……なるほど。
とすると、実際のピラミッドとの通路幅の差から言って、縮尺は大体二〇倍ってところか?
今のところ体の動かし方や感じる重量はいつもと同じなので、さらに詳しい理屈はあるのだろうが……
「特徴は、自動再生。脆い
Kaleidoさんはそう言って、どこか審査するような視線を俺達に向けて来た。
……なるほど。
見たところ、スピードに関してはかなり鈍いようだ。早歩きでも十分撒けるレベル。となると最適解は、ひと当てして破壊し、修復されている間に通り抜ける……といったところだろうか。
ただ、そんな分かりやすい正攻法を選んでいたら取材的に撮れ高が足りなくなるだろう。
この辺りは、
……簡単な方法でも良いっちゃ良いんだが、その場合はきちんと『最適解』を選ばないとな。
この場合、通り過ぎると同時に全部バラしてそのまま歩いて通過するくらいまでスタイリッシュだったら、正攻法でも画的に映えるだろうが……ちょっと難しい。
いや、当然俺ならば可能だ。
『照明器具』は生体には生やすことができないが、
ただし……そんなスタイリッシュに『照明器具』を扱えば、絶対に身バレする。
『照明器具』を操るだけならばギリ『キララ』フォロワーということで通せるが、俺がフルの練度で扱えばもう終わりだろう。
Kaleidoさんが見ているのは新人ダイバーらしいが、それでも流石に迷宮記者がランクマ界隈のことを全く知らないというのは非現実的な想定だ。
つまり、この場において俺は『
いや……この先ナツカのデビュー配信をクロとして手伝う間は、と言った方がいいか。
もっとも。
そこまで分かっていて、この俺が対策を練っていない訳がないんだがな。
「ナツカ。
そう言って、俺は横にいるナツカに視線を向ける。
ナツカは首を横に振って、
「難しいです。ナツカさんの『合成』は生物や
ふむ……。
俺は
ともあれ、できないならば仕方ない。プラン変更だ。
「ま、ありがちな制限か。手を使って押し合わせたものを『合成』し『起爆性』を付与する『
「急に誰に向かって説明してるんですか?」
「視聴者を想定してに決まってんだろ!! あとKaleidoさんはお前の
お前……この探索がKaleidoさんのポイントを稼ぎ、良い感じの記事を書いてもらうためのプレゼンの場だという自覚がござらない!?
ダイバーとして優秀なところを見せて、期待の新人!! 的な記事を書いてもらうんだよ!
「えー……。……じゃあまぁそのへんはクロにお任せするとして」
「お任せすんなぁ!! お前もやるんだよぉ!! ……ええいもう!」
ツッコミを入れつつ、俺はややヤケクソ気味に見えるようにラアバ=クヌムの群れに突貫する。
本来ならナツカの方を目立たせておきたいところだが……このままラアバ=クヌムを遠巻きにしていたら俺の
この程度のスピードならかすり傷一つもらわずに破壊は可能だし……、
「いいか、見てろよ!」
ラアバ=クヌムのうちの一体、羊型の個体に肉薄すると、俺はその場で回し蹴りを叩き込んで上半身を粉々に砕く。
バランスを崩した羊型ラアバ=クヌムはそのまま蹴り砕かれた断面を地面にこすりつけるように態勢を崩す。
──今なら俺の体の前面は影になっていてKaleidoさんから見えなくなっているな。
それじゃ──『
手の中に、灯油式のランタンを発現した……。
そして、これを!
パシュ! と。
ランタンを手放した後で、灯油以外のランタンを解除する。
『照明器具』の解除は自在だ。それはもちろん、解除の単位も自在ということ。複数の部品から成り立つ『照明器具』ならば、部品ごとに解除できるのである。
そしてその性質を応用すれば、このように灯油だけを残してランタンそのものを解除するという運用も可能なのだ。
「自動再生……っつっても、万能無敵の能力な訳がない。たとえば断面に不純物があれば、いつまで経っても再生は終わらないだろう。機械的な挙動の能力は融通が利かないのが、人も
離れているからKaleidoさんには聞こえないだろうが、(癖で)誰に言うでもなく呟く。
当然、他のラアバ=クヌムは俺に対して攻撃を仕掛けてくるが──そこにはさっき俺が散らばせておいた灯油がある。
ずりゅ! と俺に向かってきたラアバ=クヌムが転倒したので、そいつらのことも蹴っ飛ばしてバラバラにする。
さらに灯油式ランタンをもう一度発現し、再生を阻害することも忘れない。
「俺の
最後にアリバイ作りの一環としてKaleidoさんにも聞こえるように自分の能力を開示して、終わり。
これで俺は発現可能な物品を可燃物に限定する制限を持った『練成』の
くくく、俺ほどのランクマ強者ならば自分の能力を全く別のものに偽装することくらい、このようにお茶の子さいさいなのだよ……。
「お見事!!」
あらかたの始末をつけると、ナツカとKaleidoさんが近寄ってくる。
ラアバ=クヌム達は相変わらず再生しようと蠢いているものの、灯油に阻害されて再生できないようだ。
「自動再生とはいえ、そのパワーやスピードはラアバ=クヌムの運動能力のそれと等しくかなり低い。なので、破片をどこかに隠したり遠ざけるだけで無力化は可能なのがこの
「はは……どーも」
まぁそのへんの芸術点がちゃんとしてなかったら、ランクマダイバーとしては落第だからな。強いのは当然、さらに芸術点の高い勝ち方をしてこそのランクマダイバーなのだ。
「いや~……本当に素晴らしい。初心者とは思えない戦闘能力ですねェ…………」
……うっ! なんか怪しまれてないよな……?
此処は……さっさと注目を別に移してしまおう。
「たまたまですよ。噛み合いが良かっただけ。っていうか、『練成』ってそういう
言いながら、俺はラアバ=クヌムを避けて奥へと進んでいく。
実際、『練成』というのはそうやって自分が発現可能な物品を上手いこと状況に合わせて利用していくスタイルが強い
「あ、足元気を付けてくださいね。灯油撒いてあるんで」
「なんて危ないものを……後始末ちゃんとしてくださいね」
「それに関しちゃ……」
ナツカとKaleidoさんが通り過ぎたのを確認して、俺はナツカに視線を向ける。
ナツカが俺の視線に気付いたのを確認して、
「ナツカ。悪いけど処理してくれよ、アレ。……威力は極小、火花が散る程度がいい。それくらいあれば、引火してくれるからな」
「…………ははーん、なるほど。まぁ任せるといいですよ」
俺がニヤリと笑うと、ナツカもまた同じように笑って足元の小石を二つ拾った。
通じたか。ナツカはカッコつけしいなので、後は何も指示しなくても勝手にやってくれるだろう。
「『
そして、それをノールックでひょいっと後ろに放り投げ……、
パンッ。
………………。
「ナツカ、外してる外してる。ノールックのせいでちょっとズレちゃってるから」
「ンフッ」
あっ、Kaleidoさんが噴き出した。
「ンフッ……フッ…………し、失礼…………」
ナツカはツボに入ってしまったKaleidoさんに憮然とした様子で視線を向けると、口をへの字にしながら、
「分かってますっ。今のはウケ狙いのボケですよ。今回が本番なので!」
二投目。
今度はきちんと灯油塗れでバラバラになったラアバ=クヌムを目視しながら、小石爆弾を投擲。
ぱちっというしけた火花は今度こそ灯油に引火し、ラアバ=クヌムは無事(無事?)に燃え上がった。
ごうごうと燃えるラアバ=クヌムを背にし直して、俺は今の一連の流れの意図を解説する。
「自動再生を防ぐこと自体は、確かに灯油で断面を塞ぐことでも可能でしょう。でも、それじゃあ本当の意味で倒したことにはならない。そして本当に倒すならば……『土』自体を変性させられるような攻撃をすればいい」
Kaleidoさんは、単純な破壊は難しいと言った。
わざわざ破壊全般ではなく『単純な』という表現を付け加えた意味は考えた方がいいだろう。
さっき俺がラアバ=クヌムを倒した時、Kaleidoさんは嬉々としてラアバ=クヌム対策の『正解』を口にした。つまり彼女は、同行しながら俺達のダイバーとしての技量を試しているのだ。
必然、あのわざわざ付け加えた『単純な』という表現もまた、攻略のヒントだと考えるべきだ。たとえば──単純な破壊ではない、高温による変性でなら攻略可能、とか。
……それに、『
『練成』は射程が存在しないか、あってもかなり長いものが多いからな。所詮『照明』である『
敵を始末しつつ証拠も隠滅する──一つの行動に複数の意図を内包させるのも、ランクマダイバーの腕前ってところかな。
あと、シンプルに燃え盛る炎をバックに歩いていく絵面はカッコイイ。
…………これでナツカの格好がついていれば、満点だったんだろうけどなあ……。
「ンフフフ、やっぱり面白いですねぇ、アナタ達は」
からかうようなKaleidoさんの呟きを耳にしながら、俺達はピラミッドの奥へと進んでいくのだった。
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