第6話 復活の日

気づくと僕は、白い着物を着た宝珠のビンタされていた。

「な、なんだよ!」

着物は薄っすらと濡れていて、身体の線が浮き出て、見えちゃいけないとこまで透けてて、大変な眺めになっているのだが、そこを指摘してはいけないことは本能が告げている。

「麻琴が泣いてんでしょ!いい加減にしなさい!」

「へ?」

「へ?じゃないの!起きろってば!」

僕は逆に永眠しそうな勢いで殴られた。



僕が目を開けると、眼の前に麻琴の顔があった。

「いったいなぁ!もう!・・・あれ?」

「謙一?」

「はい」

「良かったぁぁぁぁぁ」

と麻琴が僕の胸にすがって号泣し始めた。

状況がよくわからないけど・・・僕、入院してたっぽい。

「焼きそばと麻琴のホットドッグは?」

「ふぇ?ほっちょどっぎゅ?」

涙と鼻水だらけの麻琴が顔を上げた。

「さっき買って・・・あれ?」

麻琴は僕の枕元にあったティッシュで涙拭いたり、鼻かんだりしたあと、

「謙一、あのね。あの日から1週間経ってるの。謙一がずーーーっと目を覚まさなかったの」

「・・・あぁ、殴られて転んで頭打って、から?」

「そうだよ。あ、看護師さん呼ばなきゃ」

麻琴がベッド脇のボタンを押して、看護師さんに僕が目を覚ましたと告げている。

「お母様はお仕事に行っていて、夕方には来るから・・・あ、そっちも連絡しなきゃ・・・あ、みんなにもか」

すると、ばたばたと看護師さんや医者の人が入ってきて、質問やら検査やら色々された。

「うん、大丈夫。ただし傷もあるし経過観察とリハビリを兼ねて、もう少し、入院していてもらおうかな」

僕にとってはプールから病院に転移したようなものなので、よくわからんけど、医者の言うことは聞く。

「お母様は仕事早退して、すぐ来るって。みんなも一斉に来たそうだったけど、未来さんと和尚がとりあえず来るって」

「え?崇とムリョウさんが?」

「うん。あのね、未来さん、謙一に罰ゲームで一人で行かせたのが原因だって、すっごく気に病んでて」

「え?あぁ、そういう事か。気に病むこと無いのになぁ」

「わたしもみんなもそう言ったんだけど」

「思い出してきた。元をただせば僕がリリーナさんの水着を」

「うん、そうだね。罰ゲームになったのは自業自得だね」

麻琴が辛辣だ。

「もう!このまま目を覚まさなかったら、わたし、どうなってたか」

「おいで」

点滴以外は外されたので、僕は自由な左腕を真琴に差し出した。

「んー」

と麻琴がしがみついてきた。

「ごめんね、心配かけて」

「うん、心配した。すっごく心配した」

「ありがと。看病してくれて」

「うん。ちゃんと色々看病したよ」

「色々?」

「うん」

「何したの?」

「ないしょ」

「そ、そうですか」

「そうなの」

と麻琴が僕にキスしてきた。

と、そこにムリョウさんと崇が飛び込んできた。

今更ではあるけど、そんなお約束展開、僕も麻琴も望んでないぞ、崇。



崇たちの異常に早い到着は、ちょうど見舞いに来る途中だったらしい。

「おまえらよぉ、オレはいいけどよぉ、別に、何にも言わねえけどよぉ」

「うるさいよ、言ってんだよ、もう」

「まぁいいや。おかえり謙一」

「お、おぅ、ただいま帰還した・・・で、さっきからそこで土下座しているお姉さんは・・・」

ムリョウさんが崇の横で、きれいに土下座していた。

キスシーンを見られた気まずさもあり、麻琴もムリョウさんを止めようとしていない。

「ケンチ!いや、謙一さん!本当にごめんなさい!あたしが罰ゲームなんかさせたせいで」

始めて本名呼ばれた気がする。

「そもそもの原因は自分だし、殴ってきたのは宮島たちだし・・・ムリョウさんが気に病むことは皆無」

「でもでもでも」

こりゃ、キリがなさそうだな・・・そうだ。

「ムリョウさん、もう謝らなくていいから。僕からの罰ゲーム、受けてくれたら全部水に流すから」

「え、なに?罰を受ければいいの」

うん、すがるような目で僕を見ながら、妙なこと言わないでほしい。麻琴が僕とムリョウさんを交互に見ている。冷めた目で。

「僕と麻琴がしてたみたいに、ここで崇とキスして。そしたらチャラにする」

「謙一、おま、オレを巻き込」

「わかった」

とムリョウさんは崇の顔を固定してキスをした。

あ、舌まで入れ始めた。

どうしよう。

麻琴が止めさせろという強烈な視線を僕に送ってくる。

「はいはい、終わり終わり!わかったから、もう許すから、崇がなんか死にそうだし・・・まあ、それはいいか」

ムリョウさんは渋々と言った感じで崇から離れた。崇はそのまま膝をつき、こっちを見ない。

「もう、いいの?」

ムリョウさん、潤んだ瞳で僕を見ながら変なニュアンスっぽいセリフはやめてください。

このお姉さん、ドM なんでは?いや、崇にとってはドSか。

「うん、もう十分です。謝罪は受け取りました。うん、元通りになりましょう。そう、元に」

「う、うん」

すると麻琴が無言でムリョウさんの腕を掴んで、病室から連れ出した。

「崇、見舞いは十分だから、帰って・・・ください」

「退院したら覚えとけよ」



わたしは未来さんを連れ出した。

「ど、どうしたの、麻琴」

何か頬を上気させたまま言ってくる未来さんが色っぽい。

違う違う、そうじゃなくて、

「なんで、あそこまで、その、すっごいのしちゃうの!恥ずかしくないの!」

「え、だって、ケンチが、さ。したら許すって」

「あんな激しいの、謙一も流石に望んでないから」

「すごいね麻琴。ケンチと以心伝心で」

だめだ、この先輩、何かネジが抜けたままだ。

そこに和尚が出てきたので

「何か未来さん、イジケモードからボケモードに入っちゃってるから、なんとかして」

「君たちのせいだと思うんだが」

「わたしは何も頼んでないもん」

「ツップリーズは一蓮托生」

というと、そのまま未来さんの手を引いて行ってしまった。



「あ、麻琴」

「二人は帰ったよ」

「そ、そう」

「あの・・・」

「あ、続き?」

「違う!どうやって目が覚めたのかな?って」

「なんかあるの?」

「望さんが目覚まし用の御札くれたから」

あの神秘の謎の答えがここに。

「宝珠に殴られた」

「え?」

「ビンタされまくって、最後にぶっ飛ばされた」

「やっぱり普通じゃないやつ・・・謙一、枕の下に御札が入れてあるから、それ、出しといて」

「う、うん」

「ちょっと望さんに電話して聞いてくる」

と、再び出て行ってしまった。

目が覚めたら忙しない。うん、まぁ、僕達らしいか。



幾美の自室で幾美の頭に胸を載せてくつろいでいたら、麻琴から直電。

「麻琴から電話だからじっとしてて」

「あ、あぁ」

私の胸に隠れて表情は見えないけど、多分大丈夫。

「あ、麻琴?お見舞いは明日行く予定だけど・・・ん?目が覚めたのは御札が効いたんでしょ?・・・私がケンチを殴ったの?・・・いや、私は目を覚ますように念を込めただけで、実際なんかしたり操作したわけじゃ・・・うん。してないよ。・・・うん、ホントに。・・・わかった、明日ケンチに謝るから・・・うん。麻琴、ごめんね・・・うん、じゃ、明日」

ものすごく叱られた。

「何やらかしたんだ?」

「何もしてない」

「いや、今のやり取り」

「何もしてない」

「謙一に謝るんだろ?」

「何もしてない!」

と、幾美の頭を胸で殴ったら黙った。

一週間だもんね。込めた念もしびれを切らしたのかな。今度あの術のこと、詳しくお祖母様に聞かなきゃ。



あ、麻琴が戻ってきた。

「明日、謝らせるね」

「そ、そう」

強くなったな麻琴。よくわからないけど。

「じゃ、じゃあ」

「ん?」

「続き」

「はい」

と左腕を差し出して麻琴を抱きとめようとしたら

「謙一!」

「あ、母さん」

麻琴は僕の胸に飛び込む途中で固まり、そしてゆっくり元の位置に戻った。

「あ、お母様」

「ふたりとも元気みたいね。うん。お姫様のキスが効いたのかしら?」

「あにょ、えっと、そうだったら良いなって」

僕が眠ってる間に、どんな話を・・・

「まぁいいわ。ちょっと先生に話聴いてくるから、続きしてていいわよ」

「はい!」

はい!じゃないよ麻琴。親にいちゃつけって言われて、実行すんのも、ある意味罰ゲーム。

「麻琴、あの」

「ぎゅーして」

と、上目遣いで訴えてきた。

「・・・はい」

可愛らしい誘惑に勝てるはずもなく、僕は母さんの言いつけどおりに、続きをした。



おれが真理愛さんからのLIMEを見たのは、バイトのヒーローショーの午前の部が終わって、昼休憩になったときだった。

本日の現場は、因縁の地、後島園ランド。

成美は今日は休みのはず。と思ったら、成美から電話。

「どうする?」

主語を飛ばしすぎの会話の入り方だが、言いたいことはわかるからいい。

「今日は無理だし、明日?でもみんな行きたがるか」

「ボクは暇だから、これから顔だしてくる」

「そっか、様子見、頼むわ。・・・謙一の傷を悪化させたり増やしたりすんなよ」

「余計なことを言わなければ、ボクはそんなことしないよ」

「言われてもすんな」

「えー、考えとく」

と電話が切れた。

なんだか暗殺者を送り込んだ気分になっちゃったので、真理愛さんに気をつけるようにメールしておこう。

「おらぁ!てめえら午後の本番前に殺陣合わせっぞ!」

と、いつもの如くリーダーである金山さんの激が飛ぶ。はいはい、お仕事お仕事。



あ、コージさんからメールだ。

バーサーカー出動?気をつけろ!・・・あ、成美さんが来るのか。

「謙一、成美さんがこれから来るから、余計なことは言わないんだよ」

「・・・言わないよ。言ったこともないよ」

「嘘はいいから」

「恋人に嘘つき呼ばわりされる、の巻」

「うん、そういうとこ。なんで、目覚めた途端に絶好調なの?」

「絶不調だと昏睡する体質?」

「そんな両極端な体質、許しません」

「はい」

目覚めたら、恋人に叱られまくる人生です。



病院から駅までの帰り道。毎度タクシーってのも懐に響くので、のんびり歩くことにした。

未来も復調したし。っていうか、しすぎてる感じだけど。

今もオレの腕にしがみついてきている。

「ねぇ崇」

「ん?」

「問題解決したし、あそこで休憩でもする?」

と、道路沿いの建物を指差す未来。

「な、なんでそうなる?」

「だって、安心したらさ・・・今日はうちは両親も兄貴たちもいるし。で、さっきの罰ゲームも」

謙一のせいでオレの彼女がおかしく・・・ま、許されて一気に解放されたんだろう。され過ぎな気がするけど。

だからと言って断る道理はないから、お望み通りにしないとな。男として。



「キョウ、ケンイチのお見舞い、明日行く?」

「うん、まぁ、そうしよっか。お、始まった」

キョウがマイクを持って歌い始めた。

アタクシたちは、今日はカラオケデート。

キョウはストレス溜まってるっぽかったし、アタクシは日本語の勉強にもなるし、でカラオケ。

ケンイチが目を覚ましたって連絡を受けてから、明らかにキョウは機嫌が良くなってる。

良かったね、キョウ。もちろん、アタクシも嬉しいよ。マコトも大喜びだろうなぁ。



僕と母さんと麻琴でまったりしていると、成美さんがやってきた。

「失礼しまーす、と、み、皆さんおそろいで。あの、謙一くんのお母様ですか?本庄成美です。謙一くんの友人の幸次くんの彼女やらせてもらってます」

何か挨拶するまもなく、早口でまくし立てる成美さん。

緊張するんだな、バーサーカーも。

なんて思ったら睨まれた。バーサーカーにテレパスのアビリティは不要だろ?まったく。

「あらあら、幸次くんも可愛らしい彼女さん見つけたのね」

「あはは、可愛らしいと言われるほど若くもないんですが・・・」

「え?」

「21なんです。お恥ずかしい」

「実年齢よりも、見た目。大事よ、そこ」

「そ、そうですか、見た目だけでも褒めていただけて嬉しいです・・・で、麻琴ちゃん、ちょっといい?」

と手招きされ

「う、うん」

と成美さんは麻琴を連れて出て行ってしまった。

「あら、なんか失礼しちゃったかしら」

「いやぁ、いつも僕達とばかりだったから、年上の人がいて緊張してるんだと思うよ」

「でも、幸次くん、どうやって見つけたの、あんな可愛い子」

大人から見ると可愛い子扱いなんだ。美人のお姉さん扱いを強制されてる感あるからな、僕達。

「バイト先で略奪愛だったみたい」

「へえええ、やるわね幸次くん」

何気に母さんとこんな話をするのは、初めてだ。



「どうしよう、いつものノリで謙一くんに接することが出来ないんだけど」

知らんがなと思いつつも、人の親の前で緊張する気持ちはわたしも判る。

「いつも通りで大丈夫だよ、暴力以外は」

「え?暴力はふるって無いよ、麻琴ちゃん」

謙一といい、成美さんといい、自覚症状がないんだろうか?

「悪質な冗談は良くないよ。とにかく普通にして大丈夫だから」

「あくしつなじょうだん・・・ふふ、ツップリめ、腕を上げたな」

「とにかく、謙一は暴力をふるわれて入院したんだから、駄目だよ」

「ねえ、真面目に言ってる?ボク、真面目に言われてる?」



なんだかシュンとして戻ってきた成美さんに

「ねえねえ、幸次くんとは略奪愛だったってほんとなの?」

と、母さんが妙な食いつきで話しかけたことをきっかけに、成美さんの緊張も解けていったようだ。

「そしたら、幸次が、ボクの事をギュッと抱きしめて・・・」

「成美さん、もうお腹いっぱいだから帰って。母さんも調子に乗って聞きまくらないで」

「謙一、お見舞いに来てくださったのに、帰って、は失礼よ」

「いや、自分の惚気話だけで、ちっとも見舞われてないし」

「普段は謙一と麻琴ちゃんで惚気てるんでしょ、お互い様よ、お互い様」

うん、お互い様かもしれないけど、まずは僕を見舞え、バーサーカー。



結局惚気るだけだった成美さんに麻琴の保護者を頼んで、一緒に帰らせた。

病室には、母子のみ。こうなると、ちょっと苦手。

「謙一。母さん、明日は来れそうにないから、麻琴ちゃんの言うこと聞いて大人しくしてるのよ」

「仕事?」

「学校に行って、保護者同士で今回の件を話し合うの」

そりゃ未成年同士の事件だもんな。親同士の話になるよね。

「ごめんね、手間かけて」

「どう転んでも、謙一は一方的な被害者なんだし、気にしないの。こっちこそ、気づいてあげられなくて」

「いや、その、僕が言わなかっただけだし。うん」

「そっか、うん。とにかく!もう弁護士さんにも相談してるし、徹底的にやるから」

「徹底的?」

「強制にしろ、自主的にしろ、加害者の退学は最低条件。慰謝料なんて、この病院代程度で構わないから、ね」

凄いなぁ。父さんと喧嘩してた時もこんな感じだったな。

「謙一には色々苦労かけちゃってるから、こういう時はね、親として頑張るから、ね」

と、母さんは僕の頭を優しく撫でてくれた。

何年ぶりだろ。親に撫でられるの。最近は麻琴ばっかりだったし。



翌朝、看護師さんに検温で起こされた。

「熱は出てないようだけど、一週間昏睡してたんだから、あんまり張り切らないでくださいね」

「はい」

なんか昨日はバタバタと人の出入りもあったし、張り切っちゃったかな。身体はだるいし。

ちなみに今日から食事を食べていいことになった。1週間絶食状態で点滴で生きてた感じなので、重湯と野菜のペーストみたいなのだけ、だったけど。うん、離乳食。



朝食後の担当医の回診も終わり、なんとなくウトウトしていたら、麻琴が来た。

「よかったぁ」

「ん?」

「わたしが来たとき、いつも寝たままだったから」

「そっか。うん。なるべく寝ないようにする」

「眠いときは寝なさい」

「はい。昨日は母さんが帰ってすぐに寝て、今朝看護師さんに起こされるまで寝てたよ。夢も見なかった気がする」

「・・・望さん、出てこなかったよね」

「う、うん」

「よかった」

もう、夢魔とかモンスター扱いか、宝珠。

ある意味モンスターで間違いないけど。

「麻琴、ちょっとトイレ行くの手伝ってくんない?」

「もちろん手伝うけど、大丈夫?」

「若いんだから、歩ける限り歩くのがリハビリだって先生が」

今朝までカテーテルとおむつ野郎だったし。

「スパルタ?・・・ほら、ベッドから降りれる?」

「おぅ!」

多少ふらつくのは食べてないからだと思われ。廊下の手すりと麻琴のお陰で無事、トイレへの旅は成功した。

そういや、意識無い時って、おむつとかだったと思うんだが、麻琴、その世話までしてないよね?色々看病した中に入ってないよね?確認するのも怖いし恥ずかしいからしないけど。



病室出たついでに売店も寄って、麻琴にお菓子を買い与えてから戻った。

「おかえり」

幸次がいた。

「色んな意味でただいま」

「もう、動いて大丈夫なのか?」

「イッツ リハビリテーション!」

「ならいいけど」

よっこらせっと、ベッドに戻る。

「真理愛さんも、謙一のこと、色々ありがとな」

「う、うん、それは当然というか」

「なので、褒美に先ほど菓子を買い与えたのだ」

「そっか、よかったな、真理愛さん」

「素直に返事したくなくなる展開を止めなさい」

「「はい」」

「それで、さ・・・」

軌道修正に入る幸次。

「昨日は何か、成美がアレな感じですまん」

「結局見舞いの言葉はいただけなかった」

「帰り道、ずっと惚気られた。しかも赤裸々に」

「あははは、うん、あらためて叱っとく。で、真理愛さん、何を聞いたの?」

「そんなエッチなこと言えない」

麻琴は頬を赤らめてそっぽを向いた。下ネタまでバーサーカー状態なのか、あの人。

「誠に申し訳ない」

幸次が勢いよく土下座。

この病室に来ると土下座したくなるんだろうか?

「そ、そこまでしなくても」

「うん、どうせ幸次が叱っても痛い目に遭わされるだけなんだし。麻琴、諦めよう」

「うん」

「何そのツップリーズの理解力」

「「ツップリーズ言うな」」



「で、学校の方はどうなの?」

「あぁ、その辺は幾美から説明だか報告だかがあると思うよ」

何か面倒くさい事でもあったんだろうか?

「邪魔するぞ」

「お邪魔します」

タイミング良く、幾美と宝珠登場。

「私の御札、効いたみたいね」

「どんな術だよ、あれ」

「身を清めつつし念を込める、みたいな」

「清め・・・あ、水垢離・・・それでか」

「何?」

「いや」

「ふぅん、後ほど尋問」

「見舞い客の口から出るセリフじゃない!」

「そうかな?」

「はいはい、望さんは私と一旦外に出ようか」

「あ、麻琴、うん、お話あるんだっけ、うん、行こうか」

僕も宝珠に対して麻琴くらい強くなりたいな。

「お前たちはひと悶着なしに話が進められないのか?」

「他人事のように言うな、幾美」

幸次が呆れたようにツッコむ。

「やかましい。とにかく、謙一は復調したようだし、報告をしようか」

「な、なにかな?」

何かマジな顔で幾美が迫ってくるのが怖かった。

そして、幾美たちが生徒会長と結託して行った、一種のゲリラ活動を聞いた。

「だから、安心して学校に来い。もう、大丈夫だ」

「・・・そっか・・・ありがと」

僕は流れ出る涙を止めることが出来なかった。



私は麻琴に連れ出され、滾々と説教をされている。一応先輩なんだけど。

「だから、殴って起こす必要はないよね?」

「その、そこまでするつもりで使った術じゃないんだけど、ケンチが思ったより起きないから、段々と術が暴走気味になったみたいで」

「だからって殴るの?」

「あの、その、実際に肉体的には暴力振るってないよ。精神っていうか魂魄っていうか、そういうのに、ね」

「とにかく、謙一を尋問だの何だの言ってないで、ごめんなさいして」

「え、う」

「ごめんなさいして」

こんなプレッシャー、この私でも耐えられない。

「はい」

「じゃ、戻ろ」

「はい」



で、私が病室に戻ると、ケンチが泣いていた。

「泣くケンチ。写真撮っていい」

私は幾美とコージに睨まれた上に、麻琴には頬をつねられたまま引っ張られた。

「も一回、外に行きましょう、望さん」

「いひゃいいひゃいいひゃい」



「望が、すまん」

「いや、宝珠らしさ全開だと思うだけで、幾美が謝るほどでは」

「あれをそういう認識されちゃうのも複雑なんだが」

「この半年の付き合いで、これ以上無いってくらい、宝珠さんに対する正しい認識だと思うが」

「うるさい。お前はバーサーカーを何とかしろ」

「できりゃ苦労しないんだよ」

困った、こんなくだらないことで喧嘩されても・・・

「みんな、諦めようよ」

「「ひとの彼女を問題児扱いするな」」

「自分たちだよね、揉めてたの」

こんな理不尽な物言い。しかも見舞いで。酷い。

実際問題児だし。

さっきの涙を返せ。



再び病室の外に連れ出された私。

「望さんと謙一が似た者同士なのは、よぉくわかりました」

「え?それはちょっと」

「望さんの後輩で謙一の彼女で二人のコスプレ仲間でもある、わたしが言ってるの!確信したの!」

怖いよ、もう、麻琴がこの世で一番怖いかもしれない。

「はい。すみません」

「じゃあ、戻ろう」

「はい」



麻琴と宝珠も戻ってきて、病室の人口が一気に上がった。面会コーナーに移動したほうが良いかとも思ったけど、どうせいつもの展開になるなら、個室であるここにいたほうが良い気もする。

「んじゃ、おれは帰って、成美を叱ってくる」

と、幸次が気を利かせて退室。

「部長さん、学校でしたこと、教えてもらっていい?」

「ん?あぁ、それなりの大冒険だ。面会コーナーで話そう」

「うん。望さんは謙一の様子、見といて」

見ておかれるほどの様子じゃないけど。

麻琴と幾美が何かしらの気を利かせて、僕と宝珠だけにしてくれた。

なにか葛藤してるかのような顔で、宝珠は黙っている。

うん、ものすごく居心地が悪い。

「け、ケンチ。私の術が変な方向に暴走して・・・ごめん」

と、苦々しげに言ってきた。謝罪するのが屈辱ならしなくていいのに。気にしてるの麻琴だけだし。

「で、何で水垢離なんてパワーワードが出てきたの?」

パワーワードなのか?

「や、その、ね」

宝珠の無言の圧がホントの重力に変換されたがごとく感じる。

「夢の中に出てきたとき、白い着物姿で、ね、そんで、びしょ濡れだったから」

宝珠は一瞬考えこみ、すぐに両目をカッと開いた。

「幾美以外は見ちゃいけないとこまで透けて見えた、と」

「そ、そうなのかな、良く覚えてないけど」

「殴ったらバレるから、記憶を飛ばす呪いでもかける、か」

「かける、か・・・じゃない!」

「良く覚えてる、よね?」

幾美、麻琴、二人にしたのは失敗だよ。

「お邪魔するぜ!お、珍しい組み合わせ」

と、そこに恭ちゃんとリリーナさん登場。

こんな救世主じみた恭ちゃんは見たことがない。

なんか、宝珠から舌打ちが聞こえた気もするが、とりあえず助かった。

「謙ちゃん、良かったぁぁぁ」

と、恭ちゃんが僕に抱きついてきた。

ドン引きする宝珠。怖い目で僕を睨むリリーナさん。

「ちょ、恭ちゃん、お、落ち着け」

「おれちゃん、何も出来なかったからさ、ほんと、ごめん」

うん、恭ちゃんの友情には心を打たれるけど、その行動がね。

宝珠は邪悪な笑みを浮かべて写真を撮り始めた。

「これで許してあげる」

許して貰わなきゃいけないことはなかったはずだが・・・

「キョウ!いい加減離れなさい!ケンイチは・・・怪我人!」

心の葛藤を取り繕うという状況をこの目で見た。

「送信っと」

あ、宝珠がいらん事し始めた。

すると、すぐに病室に麻琴が飛び込んできた。

「なにしてんの!」

「・・・歓喜と謝罪のハグさ」

「「やめなさい!」」

麻琴とリリーナさんが同時に恭ちゃんを叩いた。



「と、とてもアメリカンな感情表現だろ?」

「男同士でやらない。ここは日本!」

とリリーナさんに連れ出される恭ちゃん。

「なんで止めないの!」

「わ、私は止める立場じゃな・・・」

と麻琴に連れ出される宝珠。

僕が強制退院させられるのも時間の問題レベル。

4人が出ていったら、のんびりと入ってくる幾美。

「騒がしいね」

「そのうち一人は君の彼女なわけだが」

「なんだかんだで望もああいう扱いが嬉しいんだよ」

「そうかぁ?」

「嫌なら来ないし付き合わないよ、あいつは」

「あぁ、なるほど」

「そう指摘すると呪殺されるけどな」

そこが嫌なんだけど。

「嫌そうな顔すんなよ、似た者同士のくせに」

「友人と彼女が似た者同士でいいのか?」

「俺は恭みたいな男女平等主義は無いから安心しろ」

とにかく、生物部をBL の園にしないでほしい。



それから、5日後、僕は退院した。

退院までの日々は、平日だったこともあり、平和な日々だった。

肉体面では、多少ふらつくことがあるので、杖がいるけど、学校には行けそうだ。

クラスの状況よりも、授業に付いていけるのかが大問題なわけで。

仕方ないから崇に頼ろう。

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