弟との距離

そして現在…俺は、サイラスの部屋の扉の前に立っている。


あんなに嫌がらせをされたり、《化け物》と呼ばれ続けたりしたが、それでもこの状況のサイラスを、俺は放っておけなかった。それにあんな奴でも、俺の弟に変わりはない。


そんな事を考えていると、アティカスくんが、俺に近づき口を開く。


「ルーク様、準備が整いました。」

「……分かった。」


そう言うと、俺は視線を扉の横に横一列で並んでいる新たに、サイラス専属になった執事とメイド達に向ける。


「サイラスに、会いたいのですが…」

「…ルーク様、申し訳ございません。誰一人お通しするなというサイラス様からのご命令なのです。」


執事は、申し訳なさそうな顔をして俺に、頭を下げ告げる。使用人達に、とって仕えるべき主人サイラスの命令は、絶対だ。それは、俺も理解しているつもりだが…ここで、はいそうですか。と、簡単に引き下がる訳には行かない。俺は、扉に近づくとトントンっと扉を優しくノックし、中にいるサイラスに声を掛けた。


「サイラス?」


サイラスからの返事はない。

それでも俺は、気にせず何気ない話や最近あった事などをずっと話続けた。使用人達やアティカスくん達は、そんな俺をただ見守っている。


「サイラスは俺が、諦めて去るのを待ってるんだろう?だがな…俺は、サイラスと会って話せるまで、返事がなくたってずっと、毎日扉の前に来て、勝手に話し続ける覚悟だからな!」

「…………」


今の俺は、確かに周りから見たら十歳の子供だが、中身精神は、三十六歳と立派なおっさんだ。そして、何より元サラリーマン舐めるなよ!この位、前世で無理やり行かされた営業と、比べたら甘っちょろいくらいだ。

そんなこんな、話し始めて十分くらい経過した頃、遂に部屋の中から、サイラスの小さな返事が返ってきた。


「……もう…勝手に入れば。」

「ありがとう!」

(よし!勝った!!)


アティカスくんが、扉を開けてくれ部屋に入ると、サイラスは部屋に入って真っ直ぐ正面に、置かれた豪華な長椅子に、静かに腰掛け俯いていた。後ろの窓から入った光が逆光になりサイラスの姿は、ここからではよく見えない。


俺は、部屋の中をぐるりっと見渡す。部屋の造りは俺の部屋と一緒だが、色合いや置かれている家具や飾られている物が、全く違う。サイラスの好みなのか、リリー夫人の好みなのかは知らないが、白と金を基調とした煌びやかで美しく統一された高級感溢れる部屋だった。


俺は、視線をサイラスに向けゆっくりと、近づく


久しぶりに見たサイラスは、少し痩せていて顔色も悪かった。生意気で、活発で元気な感じだった、サイラスが今は、同じ人間とは思えない程、とても静かで元気はなくとても暗い。


「サイラス…」

「…………」

「サイラスに、お菓子とかを持ってきたんだよ。一緒に食べようと思って…ロイドお願い。」

「はいッス。」


後ろに控えていたロイドに、声を掛けるとロイドが中くらいのワゴンを押しながら近づいてくる。

サイラスの近くにあったテーブルへと、次々とお菓子達が並べられた。

そして、最後にサイラスの目の前に、暖かいパン粥を置くと、ロイドは軽い会釈をして後ろへ下がる。

サイラスは、目の前に置かれたパン粥を見つめゆっくりと口を開いた。


「………これは?」

「これは、パン粥って言うんだよ。サイラス、最近ちゃんとご飯食べてないだろう?これなら、食べられるかなと思って…お菓子も食べやすい物をロイドに、頼んで作ってもらったんだよ。食べてみて?」

「パン…粥……」


本当は、お粥やおじやにしようと思ったのだが、どうやらこの国には、米がないらしい。アティカスくん達にお米の事を聞いたら「おこめ?とは?」と、言われてしまった。なんてこったい!

ただ、ロイドは知っているらしく「あぁ〜なんか見たことあるかもッス。」と言っていたので、今度詳しく聞く予定でいる。


そんな事を考えていると、サイラスは無言でスプーンを握りパン粥をゆっくり掬い口へ運び入れた。


「………甘い」

「良かった。食べられそうだね!食べられるだけ、食べていいからね!明日も作って持ってくるから……」

「…………んで」

「ん?何?どうしたの?」


サイラスが、何かを言ったようだが声が小さくよく聞こえない。俺は、聞き直すため少しサイラスの方に近づくとサイラスはグッと下唇を強く噛み締め、眉を寄せ苦しそうな顔をしながら俺を睨みつけ口を開いた。


「……んで……なんで、こんな事するんだよ。」

「え……」

「僕が、ずっとお前を…どんな扱いしてたのか忘れたのか!僕のお母様が、お前の母親に何をしたのかも…知ってるだろう!!」

「…………」

「ずっとお前を《化け物》と呼び、嫌がらせをしてお前を、見下して馬鹿にしてきた。お前にとって僕は、嫌な奴で憎い相手の筈だろッ!なのに…なんでッ!!なんで……こんな事するんだよッ!!僕なんて、放って置けばいいだろ!」


サイラスは、テーブルをバンっと、叩き立ち上がると俺の胸ぐらを掴む。

一瞬、驚いたが、俺は目を逸らさず真っ直ぐにサイラスを見つめた。


「だって……サイラスは、俺の弟だから」

「…はぁ?…なに……言って…」

「俺さ、サイラスとは仲良くなれないだろうし、嫌われてるって分かってたから、最初から関わるつもりもなかったんだ。なのに…サイラスの方から、絡んできて何もしてないのに、ただ黒髪赤目と言うだけで、色々言われるし、嫌がらせはされるし…正直に言えば、嫌だったしサイラスが、少し嫌いだった。」

「……だったら…!」


俺は、少し目を伏せそして再びサイラスの目を真っ直ぐ見つめる。サイラスの目が、一瞬揺らぐ


「でも…あんな事が、あってリリー夫人やサイラスが、別邸や部屋に閉じ籠ったと聞いた時…どうしてだろうね?ざまぁみろ!とは思えなかったんだ。それよりもただただ、心配だった。…おかしいだろ?嫌いだった筈なのに、サイラスが心配で、仕方なかったんだ。放って置けなかった。」

「ーッ!」


俺の胸ぐらを掴んでいた手がピクッと、微か揺れゆっくりと離れると、サイラスの目からボタボタと、大粒の涙が零れ落ち床を濡らしていく。

サイラスは、幼い頃から周りの大人達やこの国の影響を大きく受けてしまっただけの子供なのだ。


俺より背が高いサイラスを俺は、優しく抱きしめる。

その瞬間、サイラスが一瞬息を飲むのを感じた。


「サイラス、お前にどんなに嫌われようが、忌み嫌われようと…俺に、とってお前はたった一人の大切な弟なんだ。ただそれだけなんだよ。」

「………ッ…ぐずっ……ッあぁぁぁ…」


サイラスは、俺の肩に強く頭を押し付け堰を切ったように声を上げ泣き出す



サイラスの背を優しく撫で、肩を濡らす温もりと頬に触れたサイラスの柔らかい髪を感じながら…いつの間にか、俺の目からも涙が溢れていた。


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