お茶会

 うふふ。おほほ。

 そんな笑い声が響く校庭。

 美しい花が咲き乱れ、ドレスを着た少女たちが目にも美しいお菓子と共にお茶を頂く。

 そんな中、ヴィオラは微笑みを浮かべながら、冷や汗をかいている。

 マナーの授業、実践編。男子と女子が分かれての授業。特急クラスの女子は少ない、というか、ハーモニー学園の女子自体が少ないので、他のクラスの女子との合同授業だ。

 先生に割り当てられた席に座り、軽くおしゃべりをしながら、お茶をする。ただ、それだけのことがヴィオラには難しい。

 まず、他のクラスの女子の名前がわからない。

 それから、今、流行している服のスタイルって、覚えなきゃダメ? デザイナーの名前とか、ちんぷんかんぷんなんですけど。

 ヴィオラはドレスは母様やミヤにお任せだ。女子の話題がどれもわからないから、ただ、微笑んでいる。


「ヴィオラさんは私たちの話に興味がないのかしら」


 ヴィオラのいるテーブルのリーダーのような子が急に尋ねてきた。


「いえ、そんなことは。ただ、田舎者なので、よく知らなくて」

「あら、街中でご活躍だったと聞きましたわよ」

「イアン様にエスコートされていたとか」


 すごい。情報が早い。誰が情報を集めているんだろう。


「イアンさんに水晶玉を売るお店を教えて頂いただけです」

「そんなこともご存じなかったの?」

「イアン様を便利に使ってらっしゃるのね。ちょっと決闘で勝ったからといって、そのような態度をとるのはどうかしら」


 テーブルのメンバー全員がうなずきあう。

 いや、知っていたら、イアンさんには頼まなかったって。女子には誰も聞けるような相手がいないんだから。


「イアンさんが優しいだけです」


 あなたたちと違ってね、と、含みを込めたつもりだが伝わったようだ。ピリピリとした空気になる。


「それなら、イアン様とライル様を天秤にかけるような真似はよしてくださらない」


 ああ、あの日の全てが知られているのか。


「天秤って、何のことでしょう」


 ああなったのは私のせいじゃないっと、ヴィオラは強く主張したい。


「婚約者でもないのに、男性の方とばかりお付き合いされて」


 だって、あなたたち、女子が仲間に入れてくれないから。攻略対象者たちに嫌われて、断罪されるのが怖いから。

 笑顔を保とうとしても、口の端がピクピクしそうだ。


「昨日は王太子様にすり寄ったんでしょ」


 すり寄ってない。入りたくもない生徒会に入ることになったんだよ。ヴィオラは叫ぶ代わりに立ち上がった。


「すみません、ちょっと」


 別にトイレに行きたいわけじゃないけどね。授業中だから、先生に話があるふりをしようかな。

 ヴィオラが歩き出そうとした時、隣の女子が足を突き出して、引っ掛けようとした。

 本来のヴィオラの能力なら軽くよけるところ、ドレスに気を取られて、引っ掛かってしまった。それでも、常に軽い身体強化をかけているヴィオラは転ばない。引っ掛けた方が転び、叫んだ。


「痛い!」


 慌てて、ヴィオラは女子に手を伸ばして、治癒魔法をかけてしまった。


「どうしたんです」


 先生が急いでやってきた。


「ヴィオラさんに蹴られたんです」


 うわぁ、そんなこと言う? あ、でも、私がびくともしない上に自分が痛かったから、本気で蹴られたと思っているのかもしれない。


「あの、つまずいただけ」

「ヴィオラさん!」


 ヴィオラに最後まで言わせない。先生は怒る気満々だ。

 あれ、乙女ゲームでこんなエピソードもあった気がする。もちろん、アリアナは転けてしまうんだけど、落ち込んでいるところを攻略対象者が慰めてくれる。

 なぜ、ヒロインのイベントが悪役令嬢に発生しそうになったのか。


「先生、まずはきちんとお話を聞くべきではないかしら。先生が声を荒らげるなんて」


 間に入ってくれたのはジョセフィンさんだった。いつもの制服より、今日着ているドレスの方が豪華な金髪に似合っている。

 先生は咳払いをした。


「そうですわね。私としたことが。ヴィオラさん、あなたはつまずいただけということですね」

「はい。すみません、うっかりしてしまって」


 転んだ状態のままの女子に頭を下げた。


「サラさん、あなたは蹴られたということですが、どこでしょう」

「ここです。骨が折れたかと思いました」


 サラさんがドレスの裾をめくって足を出す。

 ごめん、本当にごめん。もしかすると、折れてたかも。でも、治しちゃったから、許して。


「赤くもなっていませんね」


 ジョセフィンさんの言葉にサラさんは慌てて自分の足を見た。


「嘘っ」


 手で触る、足首を動かすなど試して、サラさんは呆然と呟いた。


「どこも痛くない」

「サラさん、今後は気をつけなさい。少しぶつかっただけで、大声を上げるようでは淑女になれませんよ」


 先生の言葉も呆然としているサラさんの耳には入らないようだった。

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