第12話
……
あぁ、
一応、一般売りされたのか。
(しゃ、しゃ、写真集よっ!!!
あ、ありがたく受け取りなさいっ!)
……
写真集、驚くくらい本人には何も入らないんだよなぁ。
版権、カメラマンに帰属しちゃうしな。
……
こんなのが、こんな形で出るとはね。
ローカル局の記念ドラマが好評で、
二世ボンボンのスポンサーが自慢しまくった時に、
それを聞いていた雑誌編集者がグラビアで採用。
企画ものだったはずの雇われカメラマンが本気になり、
わずか1か月で企画から撮影まですべて強行した。
……だから、ロットが少ない。
『傍受yey』みたいなマニアックすぎる雑誌の横に
ぽつんっと置かれるくらいは。
……
供養だ。買ってやるか。
貰ったもん、一冊あるにしても。
あれは絶対見ない。封を破ったら得意がるに決まってる。
……。
まぁ、
なんだ、
凄いな、カメラマンって。
なんていうか、あいつの一番可愛い部分を
ザクっと切り取ってる。
なるほど、写真という媒体が無くならないわけだ。
雑誌は無くなるだろうけれど。
……
なんていうか、
上手いな、あいつ。
カメラマンに乗せられてたんだろうけど、
視点の作り方とか、微笑みの角度とか、
なによりも目が綺麗で、魅入らせ方が小悪魔すぎる。
澄んでるのに、悪戯っぽくて、うっすい色気まであるって。
……
あ。
委ねて、来るような。
こんな顔、してたな。
(……
つむぎ。
あたし、ね、
ぁん……。)
……
い、や。
期間、限定だ。
離すべき相手だし、そもそも、望まれてもいない。
(あんたなんかと付き合いたいわけないでしょ!)
……まだたったの98万、かぁ。
先は遠いわ。
まぁ、これで宣伝効果が出てくれると、
ちょっと大きめの案件とかが来る……わけないな。
なにしろ隣が『傍受yey』だも
って?
「………」
……
あれ。
やっぱり、沢渡さん、だよな。
こないだみたいな、いまにも死ぬ感じはしないけど、
なんていうか、めっちゃくちゃ落ち込んでる。
……オーディションに通らなかったくらいじゃ、
こんな風にならないよな。
っていうか、いっつも一緒にいるマネージャーはどこいったんだろ。
徹夜万歳のエンクレーブ時代じゃあるまいし、
ちゃんとついてるはずなんだけど。
「……。
ぁ。」
あ。
こっちに、気づい
げ。
き、北川明日香の写真集、
し、しまっておかないとっ。
「……。」
ん??
「……
どう、すれば、
いいんでしょうか。」
は?
「……つむぎ、さん。
私は、どうすればよかったんでしょうか。」
いや、あの、ですね。
沢渡さん、貴方、素の状態がめっちゃ綺麗なんで、
落ち込んでる立ち姿すら絵になりすぎて、
まわりから、ちらっちら見られてるんですけど。
スター性、隠させないといけないかもしれない…。
*
……
なんて、ことだ。
こんなこと、ほんとにあるのか。
「……ともだち、といってよかったのか、
私には、わかりません。」
天草薫。
将来を嘱望された若手女優、だった。
明るい瞳と可憐な容貌、砕けたボクっ子口調で、
主人公の友達役やライバルをそつなくこなす。
地上波22時台のドラマの準主役にまで抜擢されたり、
主演映画を何本もこなすなどの活躍を見せ、
若手演技派では卯木コモの次に位置していた。
そのはずだった彼女は、一か月ほどほど前、
所属していた大手芸能事務所、パウロニア・バウムを告発。
某団体の広告塔となってしまった。
この瞬間、俗世との縁は、すべて絶たれた。
それだけなら、
まだ、よかったのかもしれない。
「……まさか、こんなことになるなんて。」
自然死、らしい。
社会的には褒貶激しい人物だったようだが、
その団体にとってはカリスマ的な存在だったらしく、
その人物が死んだ後、天草薫の処遇を巡って混乱している。
疫病神のように扱う連中も出ているらしい。
「……わたしも、前の事務所にいるとき、
あたりまえだと思ってたので。
先輩方もそうでしたし、そういうものだって。」
……あぁ。
ブラック企業純粋培養……。
なんせ、ホームページの採用欄にはっきり書いてるもんな。
『芸術のためなんですから、深夜でも苦になりません!
働かされてるって感じじゃありませんから!』
広報用素材でそれなんだから、正気の沙汰じゃないわ。
「……ツツジ、週1でお休み貰えますし、
スポンサーの方にはちょっと顔を出すだけですし、
社員さん、みんな笑顔ですし、ほんと、信じられないです。」
……ツツジの環境も立派にグレーなんだけど、
エンクレーブが悪すぎてそう感じないっていうね。
「……だから。
薫ちゃんのこと、気づいてあげられなくて。
わたしが
あの、なっ。
「無理、ですよ。」
「そ、そんな
「無理、です。
貴方は全知全能でもなんでもないんですから。
そもそも、エンクレーブにいた貴方が、
より大手に属している天草さんに、
声を掛けられるわけはないでしょう。」
「でも
「仕事が一緒になっただけの人は、
ただ、それだけの関係です。
友達とは言いません。」
「っ。」
「貴方は、自殺志願者を助けられなかったのは
周りの人のせいだと、本気で思いますか。」
「……でもっ!」
激しい瞳になりかけた沢渡さんを、右手で制する。
「それに。」
なんでみんなこういう発想にならんのか、
ほんと、不思議だけど。
「天草薫さんは、
まだ、ご存命です。」
「っ!」
芸能人生としては終わってるかもしらんが、
人間的にはまだ、全然、生きてるんだよ。
「いままで手の届かない場所にいた彼女が、
天界から俗世に堕ちて来る。
いまなら、まだ、掴めるかもしれません。
別の誰かの食い物になる前に。」
「!?」
……あ。
う、わ。
すげぇ、な。
眼に炎が燈るとはこのことか。
不屈不壊、決意の炎。
全身で燃えあがってる。
理沙さんも、たぶん、こんな感じだったんだろうな。
それが、別の人を救うために向いているのは、
育ちの良い沢渡さんらしいというか。
……わかっ、た。
筋書を、書く。
……
あぁ。
たぶん、こういうことだ。
「沢渡さん。
このめぐり合わせは、
きっと、天の配剤です。
この仕事は、貴方にしかできません。」
「!
は、はいっ!」
……まぁ、
失敗しても、究極、関係はない。
単に寝覚めが悪い程度なんだけど、絶対に言えないわ。
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