外伝・世界の異変に気付く者~大魔王編~


 空間が軋む。世界が軋む。

 全てが揺れ、歪んでいく。

 世界から音が消え、時の流れすら歪み一部の強者しか認知の出来ない世界。

 そんな世界を認知できる強者がここに一人。


 彼女は魔物を統べる魔王の中でも最強の存在。

 大魔王と敬われ、太古の時代が生きる歴史の生き証人、否、生き魔人である。

 本来であれば彼女が恐れる存在など一人もいない絶対強者の一人である筈の彼女は今恐怖に震えて、とっておきのお酒をどうせ死ぬならばとラッパ飲みしていた。


「今の異変はまさか神の降臨。それもただの神ではない。上位、いや最上位の神の降臨じゃ。

 終わりじゃ。この世界は終わりじゃ。最上位神が降臨なされたのじゃこの世界は最上位神の存在圧に耐えきれず自壊してしまうのじゃ。

 本当に阿保らしい。阿保らしいのじゃ。こうなったらやけじゃやけ。秘蔵の酒全部吞むのじゃ」


 アイテムボックスから滅んだ国のみが製法を知る最高のお酒の一つである天上天下唯我独尊を取り出して勢いよく飲む。

 希少性の美味しさから現在一本で城が立つと呼ばれる最高のお酒は一瞬で殻になり2本目に手を出す。


「ハア。だいたい何でじゃ。何で最上位神の降臨なんてものが起きるのじゃ。何処の馬鹿じゃ最上位神を呼んだのは。というか呼ばれた程度で来れる存在じゃないのじゃ。おかしいのじゃ。一体どれだけの供物を捧げれば来るのじゃ。最上位神じゃろ・・・そうじゃな。触媒となる聖遺物は最低でもその神が触れたことあるものじゃないと無理じゃし、必要な魔力も世界最高峰と謳われる儂の魔力の1000倍はあるじゃろうしって、そんなの絶対無理じゃ。無理じゃ。嗚呼、もう訳が分からないのじゃ」


 今度は異世界からの来訪者が持ち込んだこの世界には一本しかない値段すら付けられない一目惚れ純米原酒を呑む。


「おお。良い酒を耐性をわざと下げて呑んでおるから程よく酔いが回って気持ちよくなってきた。世界の破滅じゃこのくらいせんと正気じゃいられないぞよ。フへへへ」


 そうして一気飲みをした直後だった。

 世界が戻る。軋んでいた空間も世界も全てが元に戻り。歪みは正され、揺れもなくなり、世界から音が戻った。






「へ?もしかしてもしかしなくても最上位神帰った?それもちゃんと世界補強の後処理もしてこの世界が滅ばない様に配慮をして・・・。てことは世界は滅ばないということなのじゃって・・・あ」

 大魔王は気が付く。

 自分が世界が滅ぶという異常事態に貴重希少という言葉を100重ねても足りないようなお酒をろくに味合わずに一気飲みしたことを。


「ああああああああああああああああああああ。ぐわわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁ」


 ガシャン

 大魔王の悲鳴に部下がドアを慌てて開き駆け寄る


「ど、どうしたのですか大魔王様」


「儂、儂、儂、とんでもなくとんでもなく勿体ない事を。ああ、儂の儂の儂の大切なお酒ちゃんがぁぁぁぁ。クソ許さぬぞ。許さぬぞ。最上位神を呼び出した馬鹿がお酒の恨みが一生の恨みじゃ。許さぬのじゃぁぁぁぁぁ」


 この日大魔王は300年ぶりに世界に慟哭をあげた。

 理由はお酒を自分で吞んだからという何とも情けない理由である。

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