憧れの先輩とデートできることになったが、僕が見ていたのは本物の彼女じゃなかった【KAC20252】

風波野ナオ

僕が見ていたのは本物の彼女じゃなかった

「どうして彼氏と別れちゃったんですか」


昼に終わったバイトの帰り、思い切って聞いてみた。


「あー、元彼だけどさ……」


トウコ先輩は前髪を軽くかきあげた。

その仕草で心拍数が上がる。先輩は僕の憧れだ。


「本当は、今日デートで遊園地に行く予定してたのよ」


少し胸が痛む。世の中には先輩のように綺麗な女性と付き合える男がいる。

僕はそちら側ではない。


「あたしは世界一怖いスカイサイクルに絶対乗るって言ったらあいつそれだけは嫌って。そこからお互い溜まった不満が大噴火で喧嘩別れ。もう2人分券買ったのに。フフッ」


軽く笑ったが、声に怒りが滲んでいる。


それくらいのことを何故嫌がるのか。

そして何故その程度で別れるのか。理解出来なかった。

僕はその理屈を考えようとしたが、次の言葉で全部吹っ飛んだ。



「君、あいつの代わりに今からデートする?」



無理に決まってる。僕は到底元彼の代わりなんてできっこない。

だがちょっとまって。うまくいけば憧れのトウコ先輩にお近づきになれるかもしれない。


ありもしないデートの予定を妄想したり、存在しない思い出を生やす毎日を変えられるかもしれない。これは大チャンスだ。不安だが、挑戦するしかない。


「お、お願いします」





僕は今まで考えていた多数のデートプランを、必死に実行した。




だがそのデートの最後、展望台で


「君、あたしを見ていないよ」


先輩にそう言われた。


「君は君の中にいるあたしのような物とデートしてた」


ハッとした。

僕は頭の中で考えたプランを実行していた。それは妄想のトウコ先輩相手に立てたものだった。



「でも良いこともあったよ。元彼の良さがわかった。あいつ一応私をエスコートしてた」


何も言い返せなかった。


僕は僕の中を見ていた。元彼は先輩に向かっていた。それが、僕と元カレの決定的な違いだったのかもしれない。

相手をよく見ましょう。という当たり前の教訓を得て挑戦は終わった。次に活かすしかない。

……次なんてあるのか?




散々だったが、次はあった。トウコ先輩との付き合いは今も続いている。

なるべく本当の彼女を見るようにしているが、知ろうとすればするほど僕の中のトウコ先輩は消えていった。


そして、憧れは憧れでなくなっていく。

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