最終章2話『そして■■の心を知るゲームへ』

「どういうことですか?」

陽菜が希万里の方を向く。

「わたしが外に出てしまったことで日陽、紅炎、結菜がそれに気づいてわたしを探そうとしたことが原因だったんだ。だからわたしがもっとみんなと仲良くしようとしてみんなの傍にいれば……」

「希万里さん……」

陽菜は悲しそうな顔をしている。


時間まであと3日。

「黄泉様のゲームとやらに無策で挑むべきでは無い。」

芭那がそう言った。

陰陽省にて。芭那、舞、岡野裕子、斎藤萌、陰陽師たちと、陽菜、歌恋、希万里が広い部屋に集まっていた。

「が、黄泉様は陽菜ちゃん以外に干渉されたくないらしい。謎解きゲームにスペシャルゲスト……いったい何を企んでいる?」

「わたしに謎を解かせてから……スペシャルゲスト?謎を解いたら何かがわかる……まさか、東雲家だから杏恋ちゃんの死の真相が?わたしが知りたかった杏恋ちゃんの死の真相………………謎解きゲームってマジで謎解きゲームやらされるのかな?」

陽菜は額に手を当てて考える。

「……歌恋?どうかしたの?」

「陽菜ちゃん。その謎解きゲーム……即死ギミックや敵が出てきたりしない?」

「あーそうなったらキツイな。例えば血を踏んで壁に潰されるとかね。」

「……陽菜ちゃんはさ。この人たちが憎くないの?」

「歌恋……」

「この人たちのせいで陽菜ちゃんが殺されるところだった!そんな人たちの作戦なんか聞いたらきっと騙される!それに国が滅ぶなんて、そんな要求聞く必要無いよ!」

歌恋は泣きそうな顔で叫んだ。

「歌恋、とりあえず黄泉様を信じるなら国が滅ぶ心配はしなくていい。わたしがゲームに参加すれば何も問題は無い。問題はどうクリアするかの方。それに黄泉様を放っておいたらいつか何かが起こるかもしれないのも事実。記述を焼却するよりもそっちの方が確実だから。それに、黄泉様が怨霊で人の負の感情を食べてるなら、黄泉様が人を全部殺すことなんてするかな?わたしが遭遇した怨霊は人を襲ってたけど。」

陽菜は国が滅ぶ心配は無いと考えているが、

「ねえ。黄泉様は怨霊でもあるよね。黄泉様が言ってた『陽菜ちゃんは真実を知らない』ってことも合わせると、黄泉様は陽菜ちゃんになにか恐ろしい真実を突きつける気なんじゃないの?」

「確かに舞の言う通りな可能性がある……」

舞の表情に怯えが見える。芭那はそれに賛同寄りの意見を示した。

「陽菜ちゃんは霊媒体質だからな。怨霊を寄せつけない対策として御札を何枚か持たせることはできないだろうか?謎解きゲームに敵が出てくるなら怨霊が出てきてもおかしくない。」

「藤吉さん……もしかしてわたしは……そのために生まれてきたんですか?黄泉様を殺すために?」

「……そのことをわたしが問い詰めたら、あのクズは黙ったよ。星乃家に聞いたら、どうやら予言はフェイクでこの時のためだったらしい。わたしはいま大阪にいるはずだったから作戦を知らされていなかった。まさか黄泉様を消すためだったなんて知りもしなかったよ。恐らく、黄泉様の魔術を利用して、産まれてくる陽菜ちゃんをそういう特徴にしたんだ。」

そう言った芭那の顔は静かだが、怒りに満ちていた。


陽菜は星乃宅を訪れ、外の景色を見ながら希万里と話をしていた。歌恋はあまり割って入るのはまずいだろうと思い、少し離れたところから様子を眺めていた。

「希万里さん。時を渡った方法って一体なんなんですか?」

「わたしがわかっていることは……ある場所に行き、『その時に存在するもの』を手に持ち、その場所に触れて行きたい時を念じる。この時詳しく指定するほど行き先のばらつきは小さくなる。わたしは、星乃家にあるものの中からこれは昔から存在するものだろうと見当をつけてひとつ持ち出し、時を渡った。」

「その手に持った物が未来まで存在するかどうかってわからなくないですか?」

「そのための未来予知能力だ。それと、もしその場所がと、二度と時を渡ることができなくなる。だから、未来予知能力でその場所が存在するかを見ることができなければ未来に行くのは危険なんだ。もっとも、黄泉様の魔術が使えればこの限りでは無いと思うが。わたしは2024年の12月だったか、そのくらいに時渡りを実行した。」

「希万里さん。もしかして2024年までってことは、わたしがゲームに挑んだ結果がわかったりしませんでしたか?もしくはいま未来予知でわかったり……」

「無理だな。どうやら漫画のようにポンポン発動できるものでは無いらしい。未来予知能力は予知夢に近い感じだ。何度か試したみたいなことを言ったとは思うが、タイミングは選べないんだ。それにわたしは時渡りの方法を調べることに時間を割いていたからそこまで気にできていない。」

「そうですか……未来予知能力に頼ることはあまりできなさそうですかね。」


時間まであと2日。

陽菜は歌恋と散歩していた。現在、畑の近くを歩いている。

「もし行っちゃうならさ。対策とか……もっと何か無いの?」

「ちょっと考えたり相談したりしたけど、特になにもないかな。まず黄泉様の魔術は頼れないと思う。わたしが読んでたファンタジー小説の設定では、魔族の力を借りた魔法はその魔族に通用しないってあったからさ。黄泉様の力を借りる方法ではちょっと無理な気がする。黄泉様を消してくれ〜とか。それと、陰陽師の協力を仰ぐ方法も望み薄。黄泉様の発言からするに、ゲームになったらわたし1人で館に突入しなければならない。御札の持ち込みが認められるかどうかもわからないし……」

「そもそもなんで黄泉様は陽菜ちゃんにこだわってるの?」

「わからない……けど、黄泉様はわたしをどうするつもりなんだろう?」

そう言いながら、畑を眺めていた。日差しに照らされた稲が、どこか綺麗に見えた。

陽菜たちはしばらく歩き、駄菓子屋の前に来た。前を見ていると、陽菜たちと同年代くらいの男がいた。

「……あれ、もしかして月城か?」

男は陽菜の名を呼んだ。

「まさか……祥太郎?」

「そうだよ。久しぶり。」

「あ、わたしは陽菜ちゃんの友達の桜歌恋です……」

3人は駄菓子屋に入った。

「いらっしゃい。」

店主が挨拶をした。陽菜たちはそれに返事をして店内を見て回る。

「懐かし〜!祥太郎とまた会えるなんて!」

「お、おお……」

「どうしたの?」

祥太郎はばつが悪そうな顔だ。

「いや……月城に合わせる顔がないと思って……」

(……あの時のことを悔いているのかな。これは、言わない方がいいかな。生きてる可能性は無い寄りなするけど……)

陽菜はお菓子を見て回りながら考え事をしている。

「大丈夫、心配しないでっ。」

陽菜はマシュマロとチョコを手に取り、店主に渡して会計を済ませた。

「なっつかしいな〜!祥太郎はさ、わたしが泣きじゃくってた時にここでお菓子買ったの覚えてる?」

「ああ。覚えてる。」

「祥太郎はいま何してんの?」

「おれ?おれは今もこの村に住んでる。何してるかについては……ちょっと気になったことがあって。この村の奇妙な噂のことを調べてるんだ。完全におれの好奇心だけど。」

「村の噂か……犯罪者が流れ着くこと?それとも、おばけが出る噂の方?」

「いや、おれが気になってるのは……この村かあるいはその近くにタイムスリップが存在するんじゃないかってことだよ。」

「えっ!!!?」

祥太郎の言葉に陽菜は驚いた。

(なんで祥太郎が時渡りについて知ってるの?)

突然の言葉に、汗が流れる。

「おれはずっと、いじめに加担した自分の罪について考えてたんだ……そしたら、何故かんだ。」

「それってどういう意味……?」

「……いや、ただの気のせいかもしれない段階で言うのは混乱を招くから言わないでおく。それじゃ、また。あと……ごめん。」

「だから謝らなくていいって。」

祥太郎は申し訳なさそうにその場を去った。


(あの時の言葉……)

祥太郎はについて考えていた。

(あのときの言葉……おれは頭文字の部分しか覚えてないけど、あいつが言ってた特徴がもしおれの予想通りなら……あいつが言ってた頭文字と特徴がまるでアレみたいだったから、その可能性に思い至ったんだ。あの時たしかおれたちは13歳ちょいだったから、あいつは……本当におれの予想通りならんだ。あいつは……)

風が吹き、短い髪が靡く。

(あいつは?)


「祥太郎、何だったんだろう……」

陽菜は考えごとをしながら、お菓子を口に放り込んだ。

「あ、歌恋。」

「ちゅ。」

歌恋が陽菜にマシュマロを口移しした。

「ひゃうっ!?」

「陽菜ちゃん。もしかしたらもう会えなくなっちゃうかもしれないからさ。黄泉様ってのを殺したら魔術も使えなくなるんでしょ?そしたら陽菜ちゃんは生き返らない。だから今のうちに……と思って。」

「や、やめてよ……」

「なんで?」

「わたしは死なないから。」

「自信……あるのね。」

「まあ、歌恋のためにも必ず生きて帰らなきゃって思ってるよ。ま、謎解きゲームが死ぬ要素あると決まったわけじゃ無いけど。とはいえ怨霊の黄泉様が考えることだから楽観視はできないだろうね。ていうか、やっぱり謎解きゲームってマジで謎解きすんのかな?」

「さあ……」


「舞、どうした?」

芭那は、縁側に座っている舞の様子が少し気になった。そして、舞の隣に座った。

「そりゃ気になりもするわよ。あんな優しい陽菜ちゃんに何されるかを考えると……」

「あーね……」

陰陽省から見える綺麗な空。

(そう、怖いのよ……)

舞は顔を少し歪めた。それは、悲しそうな顔だった。

「本当に神が相手ならかないっこないわよ……いくら芭那でも。」

「それはマジでそうなんだよな。陰陽師は黄泉様を消そうとしていたみたいだが──実際あんな神を倒す方法があるのか!?それに舞、陽菜ちゃんに使命を背負わせない『ちまちま焼却』の方法は本当に無理だったのか?そもそもそんな黄泉様のことなんて知ってる人殆どいないだろ!」

「そのわずかにいる知ってる人が、黄泉様を広めるなり悪事に使うなりして世の中が混乱することを防ぐために、根源から断とうと考えてたんでしょ。」

「そんなことはわかっている!せめて陽菜ちゃんごと殺す作戦と並行で、ちまちま焼却の作戦もやってたんだろうな?それに、それに──例えば『未来永劫、黄泉様の魔術を知る人を無くしてください』とかの願いは無理だったのか?」

「気になって聞いてみたんだけど、試したことがあったそうよ。そして無理だった。黄泉様は自分が消されるとかといった願いは拒否してるんだと思う。黄泉様の魔術にはルールがある。」

舞は唾を飲み込み息を吸った。

「例えば願いの回数、他者への干渉にはその体の一部が必要、黄泉様を消したりすることはできない、願いを叶えてからもう一度呼び出すと死ぬとかね。死ぬってとこに関しては、肉体に刻まれた指輪と脊髄絞りが願いを叶えたという証拠で、そこだけを綺麗に摘出することによってことは物理的に不可能。」

「さすが、叶えたことがあるだけはあるな。」

「ところで、怨霊って負の感情をってどうやるんだっけ?」

「ん?それは……負の感情が集まったらそこに怨霊ができるけど、そもそも怨霊が負の感情をと言われると微妙だと思うぞ。」

「あ、黄泉様が負の感情を吸おうとしている時って意味よ。」

「黄泉様のことなら余計にわからん。けど、もし黄泉様が行うゲームの目的が陽菜ちゃんの負の感情を吸うことにあるとしたら……精神体というかその、黄泉様の魂が、本人の記憶の中に潜って吸い尽くす可能性が高いと思う。わたしは心理学をかじってるから何となくそう思うんだが、黄泉様にも性格の概念は存在しそうに思えるのと、黄泉様の言葉を聞く限りでは記憶に潜って負の感情を吸い付くしそうな気がするんだよね。」

「ねえ芭那。黄泉様はさ、全ての願いを把握してるのかな?テレパシーで人の心を読んだりするのかな?」

「あえて言うなら、ない気がする。黄泉様は希万里さんに『神崎希万里。あなたは月城陽菜が最も大切な存在なのかしら?』と言っていた。わざわざそんな質問をするということは、テレパシーのような能力は無いはずだ。わたしには嘘には見えなかったが、流石に学んだ心理学で神の考えていることまでわかるかと聞かれるとちょっとうーん……ってなっちゃうけどな。」

「すごいことまで見てるのね……でも良かった。これならこっちが黄泉様を倒そうと悟られそうにないね。」

舞はその場で立ち、そのまま部屋の中に入った。




舞が思い浮かべた光景。

「今なら黄泉様を召喚していないので会話しても悟られることは無いでしょう。──────」

「それが作戦?」

「あなたに、作戦を託します。これは他の誰にもいっさい他言無用の秘密です。」

「わかったわ。」

そう言って舞に語りかける、1人の女の子。




(よかった……その作戦、可能性はあるわよ………………。)

舞は大きく息を吸って吐き、深呼吸をした。


そして、約束の時間。陽菜、歌恋、芭那、舞、希万里、岡野裕子、斎藤萌、桜庭虎太郎、そしてその他の陰陽師たちは、東雲家の前に集まっていた。

その状況からか、緊張や息切れなどをしている者がいた。特に年寄りの虎太郎にとっては山道はしんどいもので、山道を登る過程で陰陽師が虎太郎を手伝っていた。

そうでなくとも、全員に緊張が走っていた。──

(改めて考えてみると、あの時月城陽菜が殺されようとしてたのは、予言だったのかな?それとも……自分が今日やろうとしてる方法は予言とはちょっと違うような気もするけど、別に細かいことはいいか。今まで何年も準備してきた方法で、混乱を起こして破滅に導いてやる──)

そいつは、集団の中でにやりと笑った。

「待っていたわ。それではゲームを始めましょう。」

そして、陽菜たちの前に、黄泉様が姿を現した

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