『真実』
最終章1話『大切な姿を見つめながら、求め続けたもの』
「あ、そうそう。言い忘れてたことがあるわ。」
陽菜が倒れた直後、その体から黄泉様が姿を現した。
少女の見た目だったが禍々しい雰囲気で、椅子に座っているかのように膝を立てて浮いていた。
「神崎希万里。あなたは月城陽菜が最も大切な存在なのかしら?」
「そのうちの1人だろうな。だがそれがどうした?黄泉様。」
「それだけよ。それと、ゲームに参加するのは月城陽菜ただ1人。その他はゲームへの干渉を認めない。詳細はその時になったら発表するけど……謎解きゲームとだけ言っておくわ。そして、ゲームの最後にはスペシャルゲストを用意してあげる……」
そう言うと、黄泉様はそっと姿を消した。
「うーん……」
陽菜は陰陽省で目を覚ました。傍には傷ひとつついていないヨッシーのぬいぐるみが置いてあり、すでに朝日が昇っていた。
芭那は、陽菜が目を覚ますまで必死に治癒の術をかけていた。
黄泉様を殺す作戦に失敗した陰陽師たちはすでに陰陽省に帰っていた。今この場にいるのは陽菜、希万里、芭那、舞、歌恋の5人。
「陽菜……」
「希万里、さん……」
流れる気まずい空気。
「ごめん!ごめん陽菜!こうするしか無かったんだ!」
「希万里さん……」
「何言ってるんだ!他にも方法はあったんじゃないのか?」
芭那が希万里に詰め寄る。希万里は芭那に威圧された。
「歌恋ちゃんも、本当にごめん……本当に、わたしの考えではこうするしか無かったんだ……」
希万里は泣いていた。
陽菜はそんな希万里にゆっくりと歩み寄る。
「おいやめろ!何されるかわからないぞ!」
芭那が警告するが、陽菜はあまりにも悲しそうな表情の希万里を無視できなかった。
「希万里さん……教えてください。どんな理由があってわたしを刺したんですか?希万里さんは」
「待ってよ陽菜ちゃん!そんな自分を殺そうとした人の事信用しちゃだめだって!」
「歌恋……ごめん。わたしは希万里さんを……信用しないなんてできない。」
「さすがに陽菜ちゃんの言うことでも納得できない!」
「……ごめん、歌恋。希万里さんが、さっきからずっと悲しい顔をしてるの。ほんとうはわたしを殺したくなかったみたいに……だから、理由も聞かずに希万里さんを責めるなんてできない。責めるのは聞いてからでいいから。」
そう言い、陽菜は希万里の方を向いた。
「希万里さん……わたし、希万里さんに聞きたいことがあったんです。正直に答えてください。希万里さんは、実は茉希ちゃんなんじゃないんですか?」
陽菜は、禁足域で見聞きしたことと、そこで見た絵が星乃家に飾られている絵と同じものだということを話した。
「まさか陽菜ちゃんが禁足域に巻き込まれていて、そこで見た過去の記憶がそれだったとは驚いたよ………………はぁ。そうだ、わたしは星乃茉希だ。わたしは10歳の頃くらいか、過去に飛んだんだ。今では自分の年齢すら覚えていないよ。」
これは希万里──星乃茉希の過去の物語。
「こないで。」
茉希は、近づいてくる日陽にそう言い放った。
家の中にいる2人。2人はとても幼く、この頃は3〜4歳程度。
この頃の茉希は陽菜とは対照的に、誰に対しても心を開いていなかった。茉希にとって、ずっと仲良くしてこようとする日陽が鬱陶しかった。1人でいるのが好きなのに、とそう思っていた。
「まき……」
日陽は寂しそうに部屋の外に出た。
しかし日陽は、こんな態度の茉希とも話そうとするのをやめなかった。茉希が1人でテレビを見ようと思っても、日陽は茉希についてきた。
「ねーねー!これなにいろがすき?」
日陽と茉希は同年代と比較して知能が高く言葉が少し饒舌だった。
「わたしはねー、緑のやつが入ってるビルドが好きだよ!まあヨッシーといい緑ばっかしかな?」
星乃宅に訪ねにきていた陽菜が、テレビを見ながらそう答えた。陽菜は仮面ライダーが好きで、日陽もいつの間にか仮面ライダーを気に入っていた。
「ねえねえ茉希ちゃん!これ!これ抱っこして!」
陽菜が、茉希にヨッシーのぬいぐるみを差し出した。
「すっごいもふもふだからきっと茉希ちゃんも気にいると思うなぁ〜。もきゅ!もーきゅ!」
陽菜が茉希の頬にぬいぐるみをすりすりさせるが、茉希は鬱陶しそうに手でぬいぐるみを払いのけてテレビがある部屋を出ていってしまった。
「はぁ……だめか。」
陽菜は甘えん坊の寂しんぼで、子供にも懐くことができた。そのため、茉希が懐いてくれなくて陽菜は寂しさを感じていた。
それと同時に、なんでそこまでわたしと仲良くしたいの?と茉希に疑問符が浮かんでいた。
「ひなおねえさん。ちゃいのちゃいのとでけ〜っ。」
日陽が小さな手でやさしく陽菜に触れた。
「日陽ちゃ……」
その後、星乃家に養子が来た。名前は
茉希は、紅炎と結菜に対しても心を開かなかった。
茉希は陽菜や日陽と一緒にテレビを見ることも無く、1人で絵を描いたりして遊ぶことがほとんどだった。
「はぁっ、はぁ……」
ある日、茉希は体調不良だったため、家で寝ていた。拒否する元気が無かったため、日陽や陽菜がそばにいた。
(いたい……あたまが……っ!ああ!あうっ!)
不意に、茉希の頭に流れ込んでくる光景。
(え……)
紅炎と結菜が化け物に貪り食われている光景。
(な、なに……いまの………………)
茉希は、たった今見た光景に驚いた。
「かれん……ゆうな………………はぁ、はぁっ。」
息が荒くなる茉希。
それから数日して体調は回復した。
(なんだったんだろう?)
茉希は、不思議な夢について気になっていた。
そして、根拠は無いが直感で何かあると感じていた茉希は、どのくらいの期間か覚えてはいなかったが、家の中を探索した。
「あった……!」
茉希は隙を見て家の中を探索し、未来予知に関する記述を見つけた。茉希はとても幼いながらもその過程で漢字を勉強し、読んでなんとなく意味を理解することができた。
「これが本当だとすると……わたしが見たのは未来予知?」
茉希は未来予知で見た光景に危機を感じ、それをなんとかする方法を調べ始めた。
しかし、そもそも未来予知がわりと半信半疑だったため、なんとかする方法を調べるのは難航した。
そこで、茉希ははっとした。
(わたし……なんで2人をたすけようとしてるの?ほんとうの家族でもないのに……ちがう。わたしはじぶんもあぶないかもしれないから調べてるんだ。どうすればいい……そうか。それならわたしはみんなにかかわらなければいいんだ。それならわたしはたすかる。)
未来予知の光景は家では無かったから、ずっと家の中で静かにしていればいい。しかし、そうすると紅炎と結菜が死ぬという仮説が茉希の心をもやもやさせていた。
しかし、その時は来た。
「パパとママはこれから何日も家にいないから、陽菜ちゃんと陽葵ちゃんとお泊まりにいってね。」
(これだ……!あの未来予知をあとで見返そうと思ったら、お泊まり会みたいなのがみえたから!)
茉希は、何度かそれを試すとそれが未来予知だと確信した。しかし、いつでもできるというわけでは無かった。
「みんな仲良くしてね!」
「「「はーい!」」」
日陽、紅炎、結菜は元気よく返事をした。
「茉希もな。仲良くしてくるんだぞ。」
父、悠真が茉希と向かい合う。
「……いやだ。」
茉希は、ぶっきらぼうにそう答えた。
「……茉希。それに日陽も。渡そうと思ってた物があるの。ほらこれ、みんなで撮った写真。」
その裏には、こう書いてあった。
『日陽と茉希へ。紅炎ちゃん、結菜ちゃんとは仲良くできた?ママは、血が繋がってなくても紅炎ちゃんと結菜ちゃんはかけがえのない家族だと思ってる。突然のことで驚くかもしれないね。でも、家族として迎え入れたからには、母親として、みんなに仲良くして欲しいって思うの。だから、紅炎ちゃんと結菜ちゃんと仲良くしてあげてね。大好きだよ、ママのかわいい子供たち。ママより』
「ママ……ママだいすき!」
日陽は和華に笑顔で抱きついた。そのメッセージを、この時点でなんとなく理解していた。
「やっぱり、将来はとても賢くていい子に育つのね。わたしたちは普通だったけど、日陽と茉希なら賢いから、きっとわたしが思いもつかないようなことを思いついて、すごいことを成し遂げてくれる。ま、いなくなるわけじゃないから。旅行だと思って楽しんでおいで。帰ったら2人の誕生日お祝いするからね。」
「ねえママ。なんでまきにもすきって言うの?」
「それはね、茉希もママの大事な家族だからだよ。」
茉希の問いに和華は笑顔で返した。
そして日陽、茉希、紅炎、結菜は最年長の陽葵の引率のもと、森の中にある家でお泊まり会を行うことになった。
「あ、和華さん。陽菜はいません。母と上手くいってなかったので、高校からは大阪で一人暮らしを始めました。わたしはもう少し多く稼いで節約して陽菜に仕送りをするつもりですから、恵子には言わないでくださいね。」
女の声が聞こえた。顔を出したのは希万里だった。
「ごめんね、陽菜が来れなくなって。」
陽葵は悲しそうにしている。
それから、陽葵たちはお泊まり会をして過ごした。カレー作りやアスレチックなど、キャンプ要素を感じられる瞬間が多々あった。
もちろん茉希も参加させられた。みんなしつこいと思われるほど茉希と仲良くしようとした。
いつものごとく適当にあしらおうとしていたが、
(よく考えてみると……いや、よく考えなくてもみんなわたしを大事にしようとしてるんだ。そんなみんなをわたしは……)
遊んでいる時、ずっと茉希はもやもやを感じていた。
そして、茉希は──
「あ!いま笑った!」
日陽が茉希の顔を覗いてそう言った。
「え……わたしが?」
「うん!いっぱい動いて遊んで、そのあとに茉希、にこってしてたよ!」
「そ、そんなことない。」
茉希は否定しようとした。
「日陽ちゃんの言ってることは本当だよ。最っ高じゃん、その笑顔。こんどはもっと最っ高な笑顔を見せてもらわないとね!」
「そー!」
「たのしー!」
紅炎と結菜も楽しそうにしている。
そう言ったのは陽葵だった。
「わたしが、笑顔……」
このとき茉希が思ったことは……
「楽しい?」
「………………うん。」
陽葵の問いに、茉希はゆっくりとうなずいた。
(たのしい……こんなにたのしかったんだ。でも、紅炎と結菜は死んじゃう……)
茉希は、悩んでいた。しかし、茉希の固まっていた心を溶かした『楽しい』という感情を今は楽しんでいた。
その日の夜。食事も終わり就寝の時間。
(未来予知があるならもしかして……時を渡る方法とか何かあるんじゃ?そうすればみんな助けられる……!)
日陽、紅炎、結菜はかわいい寝息の音を立てながらすやすやと寝ている。
茉希はなかなか寝付けなかった。そんな茉希を見かねて、陽葵が茉希を撫でた。
「だいじょうぶ、こわくない。」
陽葵は茉希の考えを読んでいるわけでは無かったが、不思議とその言葉は茉希を落ち着かせた。
(みんな、仲良くなったのに、ごめん……)
この頃から茉希は、とてもちいさな体に大きな使命を背負っていた。
茉希は、陽葵が寝静まったあとでこっそりと木造の家を抜け出した。
「それからわたしは数年間、村の端のあまり目立たなくて関わりのなかった家に住まわせてもらってた。姿を見られて歴史にヒビが入らないように気を遣いながら……そのうち紅炎、結菜、茉希が死んだって話を聞いた。それで、2024年だったかな……やっと時を渡る方法を見つけて、過去に飛ぶことができた。そこからは……陽菜が禁足域で見てきたものとほぼ同じだろう。」
「希万里さん。そんなことが……」
陽菜は希万里の話を聞き、悲しそうな顔になった。
「希万里さん。それなぜ茉希ちゃんは死んだとされている?」
「未来予知の光景では、紅炎と結菜が
「あの時に見た、茉希ちゃんを連れ去った人だ……」
陽菜が思い出したのは、禁足域から脱出する直前のこと。
「わたしは成長した姿で来たる時を待った。そして、怨霊に襲われそうになっているところを助けようとして、日陽を救うことができた。その時に腕を大怪我して命からがら逃げてきたんだ。左腕が殆ど動かなくなっているのはその後遺症。日陽を助けたのに、こんどはいなくなってしまったらしい。」
希万里は、既に日陽が失踪したことは聞かされている。
「だけど、わたしの判断が間違ってたってことに後で気づいたんだ。」
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