第22話 義手を待ち侘びて

「少しは仲良く出来ないんですか。当たり強いですよ?」

「あいつらがフレディーのご奉仕をしていたと思うとつい……」


 フレディーが寝てる間に何かしてたんじゃないかと不安になる。特に背の低い方は要注意人物だ。


 ……フレディーの義手姿もこれまた良いな。

 なんかハイテク感あるし、格好良い。


「義手から火とか吹けないの?」

「そんな無茶なこと出来ませんよ」


 ムーと私を睨んだフレディーは、とりあえず立ち上がろうとするも、まだ慣れていないせいでベットに倒れる。


「意外と難しいです。リハビリでどうにかなるレベルなのでしょうか」

「私がついてるからには大丈夫だ。一緒に少しずつ慣れて行こう」


 義手なフレディーの手を引き、同時に背中を押して私の傍に寄せる。フレディーの身体が私に寄り添い、優しく体重がかかる。

 義手なのにフレディーの手を掴んだようで、少し嬉しくなるな……あ、ついでに匂いを嗅いでおこう。スハスハスハスハスハスハッ……


「……エリン、そのまま僕を支えてくれますか?」

「いいよ、それで何をするんだ?」


 と私が聞いた時、フレディーの全体重が私にかかる。義手も加算された重みは軽いとはいえない……というか大分重い!


「これあとどれ位続ければいいの……きっついんだけど……」

『良し、抜けれましたね』

「え?」


 私の頭上から聞こえる声。

 見慣れた姿の生霊フレディーがそこにいた。


 生霊美青年は準備体操のように、ふわふわ浮きながら伸びや足踏みをしている。可愛い、可愛いけども。


「生霊になったり戻ったりってもう特殊能力じゃん」


 フレディーって実は結構凄いこと成し遂げているんじゃないか?

 憑依とか壁抜けも出来るからスパイ活動に向いてそうだ。

 あ、そんな生霊を目視出来る私も十分凄いのか?


『へへ~羨ましいですか?』

「私も生霊になって生霊プレイしたい」

『ははっエリンらしいですね』


 準備体操を終えたフレディーは、息をふうと整えてから口にする。


『試したいことがあるんです、僕の生霊の力がどれだけあるかにかかっています』

「試したいこと?」


 頷くフレディーは、ふっと眠るフレディーの本体に入り込む。


 少しした後、私に寄りかかっていた青年が再び目を覚ました。出たり入ったりで何がしたいんだろうか?

 生霊特有の遊びとかだろうか、あ、出し入れってなんていうか……その……下品なんですが……フフ……おっと乙女としたことが、平常心平常心。


 フレディーは私に支えられた身体をゆっくり起こす。


「フレディー、自分でするんじゃなくてさ、その、私の身体でしても……ってわッ!?」


 フレディーに抱き寄せられた私は、暖かな胸部に顔を埋めてしまう。青年の硬く厚い胸元は落ち着くな……ん、これって……?


 フレディーが私を抱いている?


「フレディー……手、動くの……?」

「はいっ成功しましたよエリン!」


 背中からギュッと抱き締められた腕を離し、私の肩を両手で持って言うフレディー。


「憑依の応用で、生霊状態の僕の両腕と片足だけを義手義足に憑依させたんです! ほら、エリンの手だってこうして握れるんですよ!」


 私の両手にフレディーの指が交差する。

 義手でありながらも、力強く、それでいて優しい触感……フレディーの意識で動く本物の手がそこにあった。


「……フレディーッ! 私っフレディーの手握ってる!」


 私は自然と涙を流していた。


 フレディーの手と私の手が繋いでいる。叶わないと思っていた夢が、今叶ったんだ。


「エリン、拭きたかった涙もこうやって拭けるようになりましたよ」


 溢れ出る涙を優しく指で拭き取られる。

 やめてくれよフレディー、そんなことしたら、もっと泣いちゃうじゃないか。


「……うッ……あ、頭も撫でて……ッ!」

「よしよしです」


 フレディーによしよしされてる……!

 私、こんな幸せでいいのだろうか……


「って痛いッ!」

「あ、ごめんエリンっ義手の関節部分に髪が挟まっちゃって」

「ははっなんだよそれ……」


 フレディーは器用にもう片方の手で挟まった髪を解く。

 備わった新しい腕……もう一度お願いしたいな。


「フレディー、この前さ、僕の胸の中で泣いて欲しいって言ったじゃないか。あれを今、していいだろうか」


 私が初めて見せた涙を、フレディーはそう言って慰めてくれた。あの時は、フレディーに再開した私は興奮状態で、そんな暇も無かったんだ。


「私をもう一度抱き締めて欲しいんだ」

「もちろんいいですよ。思いっきり泣いてください」


 背中に回る腕は、泣く私を優しく包容する。私に温かな体温、匂い、鼓動までもが伝わって来た。


 工場で出会ったあの日、フレディーに触れることも出来なかった私が今、五感で感じることが出来るようになったんだ。


 私はただひたすらに泣いた。

 なんなら泣き叫んでいたな、階段で泣いたあの時よりも大きな声で。

 涙を全て出し切った後も、ずっとフレディーに抱かれて。


 見上げた私は、私と同様に、涙を伝うフレディーと目が合う。


 フレディーも私と同じ気持ちだったんだ。この手で触れたい、撫でたい、抱き締めたいって。


 私達はそのまま口を交わす。

 ああ、やっぱり何度もしても慣れないものだな。こんな幸せな気持ち、一度知ってしまったら戻れないよ。

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