第19話 フレディーを待ち侘びて

 陽の光が照らす一室。

 一つのベットが置いてあるこの個室に、戦場で負傷した青年が一人横になっていた。


 足を踏み入れる。私の高鳴った鼓動はもう、恐怖なんてものは無かった。


「……フレディーッ!」


 包帯で巻かれた青年に駆け寄って、私はベットに飛び込む。毛布越しではあるが、暖かな実体を感じる。


 生霊となんて変わらない、爽やかな笑顔で言う。


「エリン……へへっようやく会えましたね」

「フレディーの肉声ッ!!! あへっもっもっと聞かせてッ!!! あ、フレディーの体温ッうはっ匂いもするぞ!!! ス~~ッ……………ハァ~~~ッやば、脳にくるぅ……ッ!!!」


 毛布を剥がして白い衣服を纏うフレディーを五感で堪能する。フレディーの匂いッ声ッ匂いッ温もりッ匂いッあ……心臓の鼓動が聞こえる!

 美青年の心臓はエッチな音がするんだなあ。歴史的大発見に違いない!


「相変わらずですねエリン。もっとよく顔を見せてください」


 スハスハスハスハスハスハクンカクンカクンカクンカクンカスゥ~~……………ッッ!!!


「あの、え……会って早々痙攣?」

「ハァ~~……フレディーの匂いがフレディー過ぎるのが悪んだぞ」


 フレディーの匂いをビンに詰めて保存しなければ……もう匂い無しじゃ生きていけない。あ、ビンじゃなくて濡れタオルで拭いて嗅げばいいんだ、後で十枚くらい買おう。


 ……フレディーの顔がまじかに……お、ほっぺがぷにっぷにだあ。赤ん坊からほっぺだけ退化してないんじゃないか?


「ひゃう」


 ほっぺをつねられたフレディーは困った顔で私を呼ぶ。


「ふはっなんだその声、ふふ……フレディー……会えて嬉しいよフレディーッ」


 興奮しすぎて機能していなかった涙腺が、今更役割を思い出したみたいだ。本当に目の前にフレディーがいるんだな、夢みたいだ。あ、私は閃いてしまいましたよ。


「私のほっぺもつねって欲しいんだ」


 私はつたる涙を拭いながらお願いする。


 夢の確かめ合いイベントもしっかりこなしておこう。涙目になって、へへっやっぱり夢じゃない……がセットだ。


「僕じゃほっぺつねられませんよ」


 あ、フレディーは手が……。


 覆いかぶさっていた身体を起こして、フレディーの腕があった場所を見る。


 左腕は肘から先端が無く、右腕は肩から先が無いので一目瞭然だ。

 言ってた通り無いんだな。


「治ってる左腕は触ってもいい?」

「……恥ずかしいですけど、いいですよ」


 腕の先をなぞるように撫でる。私が手で撫でる度に、少し身体をビクつかせるフレディーは可愛いな。……丸くなった腕の先端を口に入れてみたいな。


「えええ!? 何しているんですかエリン!」

「何って見れば分かるだろ」


 夫の腕を舐めて何が悪いんだ?

 腕の断面を舐めれる人間なんて数えるくらいしか居ないはずだし、舐め得だ。うは~美青年の腕は美味しいなぁ!


 赤面フレディーは手で顔を覆い隠せないので、目を瞑ったり首を横にブンブン振って羞恥心に耐えている。


 このまましゃぶり倒したいな……あ、ほっぺをつねってもらうことを忘れていたな。本題に戻らなくては。


「ほっぺをつねって」

「それは僕じゃ……」

「口で」

「……口!?」


 私のほっぺをフレディーがカプってして、そのまま引っ張るんだ。なんなら私のほっぺを食べちゃってもいいぞ。


 私はほっぺを食べやすいように、フレディーに顔を寄せる。うはあ、フレディーのお口が近い!


 ……口が近い……?


 あれ、これってキスが出来るんじゃないか?


 …………………!!?

 キスが、出来るだって!!!!!!!?

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