第10話 空賊船
その方を見ると、サーカスの天幕から気球がこちらへ向かって飛んできた。気球からは長い一本の綱が垂れ下がっていた。その綱の真ん中あたりに、綱につかまっている人影が一つあった。その下にももう一つの人影が見えた。気球は陽気なジンタを鳴らしながら僕らの方へ飛んできた。気球は、綱につかまっている人物の姿が甲板からよく見えるところにまで近づくと、平行するように漂った。人影はピエロと踊り子だった。二人が僕らに手を振った。僕らは笑って手を振り返した。ピエロは手を振るのに夢中になって、うっかり両手を離してしまった。それで、すぐに自分の手が何もつかんでいないことに気づき、目を大きく開いて、あわてて両手を振り回した。そして、そのまま逆さになって落ちかけた。ドキッとする場面だった。けれども、ピエロの足が綱に絡まっていた。ピエロは宙づりのまま、泣きそうな顔をして、頭を抱えたり、大げさに両手を広げて助けを求めたりして、僕らを笑わせてくれた。
今度は、踊り子が両手を離し、逆さになった。綱には片方の足首が絡まっているだけだ。踊り子はその足首を軸にくるくると回転してみせた。ピエロの体もそれにつられてクルクル回る。それを見て、僕らは拍手をした。ピエロと踊り子は、僕らに両手の投げキッスを寄こした。
突然にショーが打ち切られる。ピエロと踊り子があたふたと身を起こし、おびえたように両手両足で綱にしがみついて、しきりに左右を振り向いて周囲を窺っている。気球は、あわただしい退場曲を空に響かせながら、僕らの船からふわふわと離れていった。
「どうしたんだろ? あわてて退場していった」と遠ざかる気球を眺めながらセブが言った。
僕は気球を惜しげに眺めた。まだショーは始まったばかりだったのに。
「あれは何だ?」と、パズルが気球と反対側の空を指さした。
見ると、凶暴そうな山猫の顔が描かれた旗をひるがえらせた一隻の空賊船が飛んできた。
「空賊だッ」と僕は叫んだ。
そのとき、山猫の空賊船の砲門がピカリと光った。次の瞬間、黒い煙の玉が僕らのいる舷側近くでポッと弾け、ドンッという耳をつんざくような大きな音がした。衝撃で船体が揺れる。僕は甲板に叩きつけられた。キーンという耳鳴りに混じって遠くから空賊たちの歓声が聞こえてきた。
「撃ってきた」とセブが船縁で頭を伏せたまま言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます