第1話
あれから何日が経ったのだろうか。冷涼なこの地方でもようやく桜が満開を迎え、新しい季節を祝福するかのように咲き誇っている。中学校の卒業式から少し経った今、私たちはそれぞれ新しい場所での一歩を踏み出していた。
高校の制服は、中学で着ていたセーラー服とは全く違うブレザーだ。初めて袖を通した日の朝は、慣れないネクタイに四苦八苦してしまった。結び方を間違えてはやり直し、焦りながら鏡を覗き込む私の背中に母が小さく笑いながら手を貸してくれたことを思い出す。
「陽乃ちゃんのブレザー姿、きっとすごく似合うんだろうな……」
そんなことを思いながら学校に向かったその日、実際に陽乃ちゃんの姿を目にした瞬間、思わず息を呑んでしまった。陽乃ちゃんのブレザー姿は、それはもう驚くほど似合っていた。まるでこの制服が彼女のために作られたみたいで、思わず目を奪われてしまった。けれど、それに気づいた陽乃ちゃんが近づいてきた時、私は慌てて視線を逸らした。
「真白、どうかした? なんかじっと見てたけど、変なところないよね?」
陽乃ちゃんが制服の袖を軽く引っ張りながら、冗談めかしてそう言う。その動作がまた自然で、彼女の余裕を感じさせる。私はなんとか平静を装おうとしながら、ぎこちなく首を横に振った。
「い、いや、全然。陽乃ちゃん、すごく似合ってるなって思っただけ……」
「あ、そっか。ありがとう。でも、真白も可愛いよ。ブレザー姿、すごく似合ってる」
そんな風に軽々と褒めてくる陽乃ちゃんの言葉に、心臓が跳ねる。自分が恥ずかしくなって、また俯いてしまった。
「そ、そうかな……ありがと」
「ねえ、緊張してない? ほら、今日は入学式だし、新しい環境だから大変だよね」
「緊張……ちょっとだけ。陽乃ちゃんは?」
「私? んー、少しはあるよ。新入生代表の挨拶もあるし、失敗できないからね。でも、なんとかなるよ」
そう言って陽乃ちゃんは、柔らかな笑みを浮かべた。その笑顔は不安どころか、どこか楽しんでいるようにも見える。私だったらそんな場面、きっと胃が痛くなって逃げ出したくなるだろう。それなのに陽乃ちゃんは、何事も楽しむように前を向いている。その姿に私はまた心の中でため息をついた。
「陽乃ちゃん、本当にすごいよね。そういうの、全然怖くないの?」
「怖いよ。でもね、怖がってるだけじゃ何も始まらないでしょ? だから、思い切ってやってみるんだよ。それに、真白だってやればできるんじゃない?」
学校に向かって歩きながら、陽乃ちゃんが私に言うけど、私はすぐにかぶりを振った。
「私が? いや、そんなの絶対無理……」
「ふふ、そっか。でも、これからの高校生活で、きっと真白も変わるよ。私、見てるからね」
陽乃ちゃんがそう言うと、本当に何かが変わるかもしれないって思えてくる。いつも、背中を押してくれる。
高校の敷地内に入ると、大きなクラス分けの掲示が貼り出されていて、人込みが苦手な私の代わりに陽乃ちゃんが見てきてくれる。
「やったね、同じクラスだよ」
「よかったぁ……」
受験に合格した時と同じくらいの安堵が去来した。クラスの人数は四十人、女子が少しだけ多い。陽乃ちゃんは新入生代表だし文句なしで学級委員に選ばれた。
そして、体育館で新入生代表として挨拶する陽乃ちゃんの姿が、さらに強く私の記憶に刻み込まれることになるのだった。
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