第16話 ありがとう、レイラ


 そのあとはわたしとレイラ、霞、美香の四人で池袋に行って推し活をしようという話になった。

 霞も美香もそれぞれの推しのグッズを持っていくと言っていた。


 わたしはアイドルとかわからないし、漫画を読んだりアニメを観て推しができたということはない。

 乙女ゲームもやっているけれど、この人と付き合いたい! とまではいかないのだ。


 何天堂に出てくるキャラクターのキーホルダーを持っているから、それを持っていこうと決めた。


「サクラ、キミは推しはいるか?」


 今日はバイトがないからレイラと一緒に帰る。

 霞と美香はバイトがあるためわたしたちと一緒には帰らなかった。

 推しのために働いているらしい。


「うーん、推しっていう推しはいないから、ゲームのキャラクターを持っていこうかなって」

「ゲーム……」


 レイラが目を逸らし、もじもじしている。


「一緒にやる?」

「うん!」


 わたしが提案すると、レイラはぱあっと顔を輝かせてうきうきの表情を見せてきた。

 そっか、わたしがゲームをしているときよく覗いてくるなあと思っていたけど……本当は一緒にやりたかったんだ。


 幸いトゥイッチは二台ある。

 ちょうどソフトを二個持っているから、イカのゲームでもしようかな。

 きっとレイラは勝負事が好きだと思うし、白熱するだろう。


 お風呂上り、わたしの部屋でトゥイッチの電源をつけ、イカゲームのソフトを入れた。

 ポムは交代でお風呂に行っている。

 ぽかぽかのレイラの姿を見て、そういえばと思い出す。


「今度推し活の日に下着とパジャマを買いに行こっか。いつまでもわたしのじゃ悪いし」

「あ、うん。そうだな」


 レイラは起動されたイカゲームをじっと見ていて、話半分くらいしか聞いていなさそうだ。

 わたしはルールを説明し、二人で地面を塗りまくった。


◇◇◇


「はああぁ、疲れたぁ」

「ゲームって娯楽の一つだと思っていたが、疲れるものなんだな……」


 ふたりでコントローラーから手を放し、うんと背伸びをする。

 こんなに白熱したのは久しぶりだ。

 誰かと一緒にゲームをすることがなかったから、楽しくて仕方なかった。

 いつか、美香と霞とポムのみんなでゲームができたら。


「……レイラって、強いね」

「なんだ? キミも強いじゃないか」

「ゲームの話じゃなくて……」


 何故かそのあとのことを言うのが照れくさかった。

 でもどうしても伝えたい。

 わたしはレイラと目を合わせた。


「すぐ、人と打ち解けられるのがすごいなって」

「……それならキミもじゃないか」

「ううん。レイラに背中を押されるまで、レイラがわたしのことをかわいいって言ってくれるまで、あのふたりに声かけられなかったよ。わたしはレイラがいなければあのふたりには話しかけてない。ずっと、ひとりだった。だから……嬉しくて」


 こんなにこころを許せる友だちができたのは初めてだった。

 初めてあんなに喋れた。

 初めて自分の趣味を話すことができた。

 たくさん笑えた。

 それはひとりだったらできなかったことだ。

 それは全部、レイラのおかげだ。


「レイラ、わたしをひとりぼっちにしないでくれて、ありがとう」


 こころから感謝を伝えて微笑んだら、レイラはふいっとわたしから目を逸らした。

 下ろしたさらさらの金髪を片手で弄り、唇を尖らせる。

 頬は少しだけ赤くなっている気がした。


「そ、そういうことを言うのはずるいぞ、サクラ」

「え、なんで?」

「……キミはうちの国に行ったらさぞかしモテモテだろうな」

「はあ……?」


 わけのわからないことを言い出し、「ほら、もう寝るぞ」とレイラは立ち上がる。

 時計を見たらもう零時半を過ぎていた。

 しまった、ゲームに熱中しすぎた。

 明日も学校があるのに。

 いつの間にかポムは狼の姿で眠っていた。


 わたしとレイラは一緒のベッドに入って、リモコンで電気を消す。

 そのとき、レイラの髪からふわりとフローラルな香りがした。

 あ、この匂い、わたしが使ってるシャンプーの香りだ。

 良い匂いだなあと思いながら、わたしは瞼を閉じた。

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