第11話 女の子同士で子どもってどうやってできるの?
わたしの家はダイニングテーブルが置いてあるリビングルームと、両親の部屋、わたしの部屋しかない。
両親の部屋をレイラの部屋にしようとも思ったけど、日本にいたころ担当した仕事の資料や書類などが散らばっているから、うかつにレイラを入れていい場所ではない。
結局わたしのベッドでレイラとふたりで寝ることになり、ポムはラグの上で丸まって寝ることになった。
本来ならポムは睡眠はとらなくていいらしいけど、人間への変化で魔力を使ってしまったため休んで回復するという。
「ねえ、レイラ」
「ん?」
もう寝るためベッドのシーツにわたしは入りこむ。
わたしはずっとレイラたちの世界で気になっていることがあった。
「この婚約指輪って、魔王の血が途絶えないために子どもを作るまで外せないんだよね?」
「そうだ」
「女同士で子どもって、どうやってつくるの?」
「な……っ」
瞬間、ボフンッと音が出そうなほどレイラの顔が真っ赤になった。
レイラはわたしの隣で顔を両手で覆う。
「な、な、なにを言うんだいきなり!」
「魔王さまは初心で無垢で女同士でキスすらもしたことがない処女なんですよ? サクラ姉さま、どうかもっとオブラートに包んで――」
「お前がオブラートに包め!」
レイラがベッドからガバッと起き上がり、ラグの上で丸まっているポムにぬいぐるみを投げつけた。
ちょっとぉ! それわたしの大好きな何天堂のピンクで丸くていつも「ハァイ!」って言ってるキャラクターのぬいぐるみなんだけど!
ポムは投げつけられたぬいぐるみを肉球でちょいちょいと動かして自分の隣に置いた。
それはそれで良い絵面だなあ……。
「こ、子どもは、神殿に行き女神エーレーテュイアに祈りとお互いの血を捧げることで、できるんだ」
そんなコウノトリみたいな……。
「だが、なにか重い罪などを犯している場合は、懺悔室に行って身もこころも清めてからでないと女神に声は届かない。子どもは祈りを捧げてから数日後、数か月後、数年後にできる。いつできるかは女神さまの気まぐれなんだ。ちなみに魔族が子を作るときは、人間に見つからないよう深夜に神殿に行く」
「な、なるほど……」
すんごいぶっとんでるけど、多分向こうの世界に行ってわたしとレイラがお互いの血を捧げればできるんだろうな……。
あれ? でもそれだけ?
レイラは両手で顔を覆い、指の間から少しだけ瞳を覗かせて説明してくれている。
そんなに恥ずかしがる必要あるかな?
わたしのこころを読み取ったかのように、今度はポムが発言した。
「祈りは神が見ていることを前提に、愛し合っている証拠を見せなければなりません」
「証拠?」
「キスや愛撫を一時間しなければならないのです」
レイラが「きゅっ!」と変な声を発して両手の隙間を閉じ俯いた。
一時間って、長いのだろうか、短いのだろうか。
キスはおろか愛撫なんてしたことがないわたしにはよくわからない。
でも……神さまに見られながらそういうことをするのは、さすがに恥ずかしいな。
「でもまあもちろん、子どもを作るわけではありませんが、女同士で夜の営みはありますよ」
「え、そうなんですか?」
「なんなら今日シてもいいのですよ? わたしは外に出ていますから」
「ポム!!!!」
俯いていたレイラが上を向き、ポムに再びぬいぐるみを投げつける。
でんきタイプのかわいいモンスターがポムにあたり、「まあ、かわいいですね。魔族みたい」と肉球でピンクのぬいぐるみの反対側に置いた。
魔族ってこんなにかわいいのもいるんだ……。
「レイラと子どもを作るには、この世界じゃ産めないから、つまりわたしが異世界に行かなければならないってことだよね?」
「そうなるな」
「それって……日本には帰れるの?」
日本に帰れなくなるなら、異世界には行きたくなかった。
家族や親戚、大好きなゲームに会えなくなってしまうのは辛い。
不安気味に聞いたら、レイラは頷いた。
「大神官と宮廷魔術師の魔術を使えば帰れる。しかし、己の住所を事細かく説明しなければ別の場所に召喚されてしまうこともある。まあ、そんなことをしなくても魔王の魔力の三分の二を使えば闇属性最上級魔法、
「そう、なんだ」
じゃあレイラとポムって、わたしが描いた魔法陣に引き寄せられたっていうのもあるけど、その大神官と宮廷魔術師の魔術を使ったか、自分の魔力の三分の二を使ってこの世界に来たってことになる。
……どうして? なんのために?
「レイラとポムはどうして日本……この世界にきたの?」
「……」
「……」
純粋な疑問をぶつけたら、ふたりとも黙ってしまった。
いつも饒舌なポムは、一言も発さない。
レイラもシーツに潜りこみ、わたしの反対側を向いた。
カーテンの隙間から零れる月明りが、レイラの美しい金髪を照らしている。
「今日は夜も更けている。もう寝よう。サクラ、電気を消してくれないか?」
「あ、うん……」
もしかしたらわたしはふたりの地雷に触れてしまったのかもしれない。
その日は電気をリモコンで消して、修学旅行のときみたいになにを話すわけでもなく、ぐっすりと眠った。
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