第16話 恐怖と不安

 そんな二人の様子を見ながら風の精霊は

 ソライに話しかけた。


「ソライ、男が泣くのは仕方ない。繊細せんさいだからね。」


 ソライの気持ちを受け止め、続ける。


「でも半精霊の君はケガをしたり、弓を受けたりする必要はないんだよ。

 普通の人間とは体の構造が違うし、存在する波動が高いから、

 本来弓は君を空気の様に通過するだけなんだよ。」


「でも・・・」

 とソライは口ごもる。


「確かに天にいる時と地上では君の体の構造は変化するよ。

 現に地上にいる君は髪も肌も変化し見た目も変わっている。

 地上にいる時は体内に血も流れている。」


 ソライ本人さえ自覚のない自然な体の変化を風の精霊は具体的に説明した。


 天界で過ごすソライは光を放ち、透き通る様な肌と水色の髪を持ち

 人間というより、天界の住人だと感じられる容貌をしている。


 しかし地上へ降りるに従って何もかもが実体化し、

 濃い色へと徐々に変化していく。



「ただ今回、君がケガや弓を受けてしまったのは恐怖と不安が原因なんだ。

 思い当たることはない?」


 風の精霊は質問を通してソライの理解を助ける。


 ソライは先程の不安が胸のあたりに今も残っている事に気が付いた。


 逃げる時の状況を思い浮かべ、

「確かに皆を守るのに自分がケガしちゃっいけない、

 誰かにケガをさせたらっ緊張していたと思う。」


 風の精霊はその答えにうなづいた。


「恐怖と不安は僕ら精霊の守りを解除し、

 起こってほしくない現実を引き寄せる。」


 首をかしげるソライに更にわかりやすく付け加えた。


「弓矢にあたったら嫌だ!って思っただろう。

 だから弓矢が当たった。

 ケガをしたらどうしようって思った。

 だからケガをした。

 いたって単純な法則だよ。」


 風の精霊はソライに今起こった現実を話して聞かせた。


 続けて子供達に顔を向け、優しく微笑みながら語り掛ける。


「恐怖と不安が原因で問題が発生するっていうのは人間も同じだけどね。」

 それだけ言うと口を閉ざした。



 今まで天界で平和に過ごしてきたソライは

 ニイルがさらわれてから今まで

 味わったことのない恐怖と不安を何回も感じていた事を思い起こす。


 それは本来の半精霊のパワーを放棄ほうきした心理状態だったと

 始めて気がついたのだった。



 すると子供達の一人、ライアンは風の精霊に問いかけた。


「精霊様、僕らも同じなの?でも僕は恐怖も不安もあんまりないから

 大丈夫だと思うよ。」


 風の精霊がその問いに答えるより先に大地が揺れ、

 轟音ごうおんがとどろいた。



 ニイルの立っている大地が突然、隆起りゅうきし形を変えていった。


 ニイルは何だか気持ちがよくなり寝そべると

 大地はそのまま抱き抱える様に形を変えた。


 柔らかい草とふわふわの大地に抱かれて、ニイルはまどろみ始めた。


 同時に子供達全員、柔らかな草に覆われた大地にゆっくりと倒れこむ。


 みるみる大地は子供達の体に合わせたハンモック状の形へと変貌へんぼうしていった。


 二人の精霊以外眠りにつく。


 世界が崩れ落ち、周りを七色の陽炎かげろうらめいた。


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