第35話 救出されはしたけれど

「天のお告げでやってまいりました。我らが子羊をお助け下さい。」


拡声器を使ったその声は、大地達が監禁されている部屋にも聞こえて来た。

この素っ頓狂な物言いは、愛と献身の家の信者達に違いなかった。

外のざわざわした様子からすると、数十人で押しかけて来たらしい。


「おい、何とかしろ。」

「俺たち、教団の人に『呪いの解き方を調べて必ず助けます。』って約束しちゃってるんですよ。だから俺たちをここから出せば皆さんすぐに帰ると思います。」


 説得するのにもっと手こずるかと思ったのに、藤井の軽いぺらぺらな喋りで

あっけないほど簡単に開放されてしまった。

外に出されると、藤井はまたぺらぺらと軽く大声をだした。

「みなさーん。ありがとうございましたー。謎の病気の解決法は、僕たちが必ず見つけ出しまーす。」

大地と藤井が2人で深々と頭を下げている間に、教団の信者たちは静かに山へと消えていった。

そしてその場には、山に隠した2つのリュックサックが残されていた。


ブルルルブルルルブルルルブルルル

リュックの中からスマホの振動音が。

「誰だろ。」

「大君早くとって。」

なぜ俺の方だと分かる?

大地には謎だったが確かに大地のスマホだった。

「もしもし?」

「よう、お疲れ。」

「八谷さん!藤さん、八谷さんだ。」

藤井はいつの間にか自分のスマホをリュックサックから取り出し、動画を撮り始めていた。

「え、何、八谷さんと藤井さんの間では、こういう時には俺に電話を掛けるって打合せでもしてあったんですか?」

「何の話だ?ああ、どうせどっちに掛けても藤井は動画撮るから話すのは大ちゃんだとは思ったよ。」

「なるほど。」

だが、藤井もさすがにほっとしたのか動画を撮りながら八谷に甘ったれたことを言った。

「八谷さーん。えらい目に遭いましたよう。」

つられて大地も

「殺されるかと思いましたよう。」

という言葉が口をついて出たが、これは嘘だ。そうは思わなかった。

「おーよしよし。無事でよかった。」

「もっと早く助けて下さいよう。俺、なんか変な動画を配信させられちゃったじゃないですかあ。」

藤井の言葉は本心だろう。

「ごめんよう。ちょっとやることあって。とりあえずさ、目の前の獣道みたいな

細い道歩いて来てくれる?その先に車あるから。それでさ、その車に乗ってお前らが泊ってるビジネスホテルまで帰って来てよ。聞いて欲しい音声がとれたんだわ。楽しくなってきたぞ。」

「なんの音声ですか。」

「まあ、安全な所に着いてからのお楽しみだ。早くそこから離れろ。」

そうだった。

大地はどんどん深みにはまっていくような嫌な予感に襲われ始めた。

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