第30話 八谷と合流
「八谷さん。何してんすか。」
「ビックリした?」
まったくこの人は。
「飯食いに行くんですけど、一緒にいきますか。」
藤井が聞くと八谷は
「俺の乗ってきた車で行こうよ。」
と言うので乗り換えた。
その薄茶色のワンボックスカーの下半分には、大きく
【シロアリ駆除】と書いてあり、後部座席の足元には何やらたくさん荷物が詰め込まれ、大地達の白い軽自動車に積んであった荷物もこっちに積み込まれていた。
なぜそれに気が付いたかというと、あのバールのような物が入っていたからだ。
不安を共有しているはずの藤井の方を見ると、うれし気な顔でスマホを取り出し、
八谷に取り上げられていた。
「じゃ、2人とも後ろに座って。はいこれ被って。」
八谷はそう言うと、さっき自分が被っていた黒い布を渡してきた。
「これ、必要あります?」
「俺たちが邪魔になったとかじゃないですよね?」
「まあいいから早く被れ。」
一緒にいるところを見られないようにするためと分かってはいても、消される感は拭えなかった。
車は高速道路に入ったようだが、すぐに下の道に降り、そこから2,30分走った辺りで八谷は車を停め、後部座席を振り返った。
「出ていいよ。」
そこは田舎の食堂だった。
暖簾のかかった引き戸を開けると四角いテーブルと四角い椅子が10セットくらい並んでいて、小柄でふっくらしたおばあちゃんがテーブルを拭きながら振り向いて、
「いらっしゃいませー。」
「おばちゃん、2階いい?」
「はいどうぞー。」
2階の座敷に入るとそこには、大地と優の父親が座っていた。
「大君久しぶり。」
なぜだか笑顔の父につられて
「父さんっ。元気?」
大地も笑って声を掛けてしまった。
「大君まで奥川って名乗ってるから、パパちょっと傷ついたよ。」
「便宜上、奥川で揃えたんだよ。」
「村田さん、わざわざお越しいただきありがとうございます。お願いしてあったものは持ってきていただけましたか。」
八谷が恐ろしく丁寧に話しかけた。
「どうぞ。」
大地の父親は八谷にスマホを2台差し出した。
「ありがとうがざいます。」
八谷はスマホを受け取ると1つを大地に渡し、
「大君、こっち使ってね。そんで、大君のスマホはちょっと預からせてくれる?」
「なんのためですか」
「大君、いろんな所で適当なWi-Fi使わない方がいいよ。もしかすると中身見られてるかもしれないから、今後は気を付けてね。」
大地はしぶしぶ自分のスマホを八谷に渡した。
「後で返してもらえますよね。」
「はいはい、だいじょぶよ。」
大地には適当に返事をし、大地の父親には丁寧に
「こっちは優君に渡しておきますから。」
と言った。
「約束通り、優とも話させて欲しいのですが。」
父は笑顔を崩さず八谷に言い、八谷も愛想良く
「今かけますね。」
と答え、自分のスマホを取りだした。
「あ、木村君お疲れ様。優君と代わってくれる。」
八谷は木村に電話したらしく、みんなに聞こえるように操作してから、スマホをテーブルの上に置いた。
「もしもし。」
優の声だった。
「優君、パパだけど。元気かい?」
「え、親父?八谷さんと一緒なの?」
「俺も一緒だよ。」
「大君?なんでだよ。なんで大君と親父と八谷さんが一緒なんだよ。おかしいだろ。」
「ごめ~ん。」
「俺もそっちに行きたい。」
そうなるよなあ。だってこっちは楽しいもん。
「はい、ちょっとごめんねえ。優君、八谷ですけども。お父さんから優君のスマホを受け取ったから、木村宛に送るね。隠し持っててくれるといいな。木村以外には見つかんないように。」
「なんでですか。」
「なんででも。」
「はーい。」
「もう切るよ。お父さんもいいですか?」
「はい。優君またね。」
八谷は電話を切ると、父に向き直った。
「お約束通り、息子さん達と連絡がつくようにさせていただきました。こちらとしては誠意を見せたつもりです。」
「ありがとうございます。」
「奥様のご実家について、お話頂けますか。」
「そう詳しくはないのですが。」
「え、父さん何か知ってるの?」
「ちょっとだけね。」
大地は自分が知らない両親の一面を見た気がした。
母親について自分が知らない話は、当然父親も知らないと思っていたのだ。
父親は大地の顔をチラッと見てから話し始めた。
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