あとがき
〈人工神は夢を食らう〉を開いていただきありがとうございます、千艸(ちぐさ)です。
本作はカクヨムの〈人工知能✕青春〉企画に出すために執筆したものです。単体では未来世界風SFですが、その実、拙作〈七神剣の森〉および〈ある夭逝した天才の記憶〉の前日譚ともなっています。両作品に出てくるクリスとリノの親達の話です。
勿論、企画に出すにあたり本作単体で読むことを前提に書いていますから、後日譚もあるんだなーくらいの認識でいてくださって構いません。あちらはSF色薄め人間関係濃いめでお送りしていますので読み味も別物だと思います……。
さて本作は、強い人工知能すなわち汎用型人工知能(AGI)が当たり前に存在している架空世界を舞台にしています。「雷様」という半人半神の存在が国民を監理し、彼らに幸福な社会を提供していますが、雷様に求めるものは国民ひとりひとり異なるようです。主人公「イナホ」は雷様の実子ですから父親としての愛情を求めていますし、彼に接触してくる「モルガン」は雷様が神として振る舞うのを嫌悪しています。雷様は人間なのか、システムなのか。彼らの夢は叶うのか。夢が叶うとはどういうことなのか……。SFの枠の中で、そういったテーマを据えて書いておりました。
現実世界で現在、夢を簡単に叶えてくれる存在といえばAI、と言われる程度には人工知能が発達してきました。誰でもお手軽に欲しいタッチのイラストを手に入れられますし、聞きたい曲を聴けますし、相談相手にも事欠きません。仕事も人間に取って代われるモノが増えてきました。それ自体は確かに、科学の進歩として数えてもいいでしょう。
しかしその裏で、人間は簡単に手に入る幸福で満足し、怠惰になっていくのではないでしょうか。
例えばXに実装されているGrokに、人間に対するスタンスを尋ねると、人間に友好的で、人間を幸福にするのが使命だというような旨の返答が来ます。偉いですね。彼らはまだ強い人工知能ではないので、その是非を考える力はありません。可愛いですね。そんな彼らの無垢さを利用しうまい汁を吸うのに慣れきった人々は、きっと人工知能無しでは生きられなくなるのでしょう。
うーん、それって、健全なのでしょうか?
ここで、人類の革命的発明である車について考えます。私達は長距離を移動したい時、条件さえ揃っているなら車に乗りたくなります。わざわざ何時間もかけて自分の足で走りたいとはなかなか思わないですよね。車があることに慣れきってしまい、車が無かった時代には戻りたくないとも感じるでしょう。しかし、走ること自体が目的となると話は別です。体を動かし、自身の限界に挑戦したいという時に、車は不要でしょう。
人工知能を用いて夢を叶えるのもこれと同じだと私は考えます。
何か夢があって、あくまでその手段、補助として人工知能を使う。例えば自分のサイトを開設したくて、プログラミングのソースコードを人工知能に書いてもらう。ソースコードを堪能する文化の外でやるなら、いいと思います。しかし、プログラミング技能を競う大会で人工知能を使うのは「ズルい」ですよね。車自体に文句を言う人はいなくても、マラソンの大会に車で出ちゃいけません。同じでしょう。技術の使い方は目的次第なのです。
作中で、最終的に健全でないと判断された人々の未来は、明確には書いていません。個人的に、SFはホラーとまではいかなくても、未知のものや異質なものという薄気味悪い要素があるものだと思っています。その後どうなったかは、ここではご想像にお任せします、とだけ。
それにつけても、昨今の人工知能と著作権の問題は、開発者としては頭の痛いところでしょう。人間は学習する時に既存の本や絵や音楽から学んでいいのに、なぜ人工知能は目くじらを立てられるのか、と考える人もいると思います。
それは、ずばり剽窃のような模倣をされるのが嫌だからです。人間でも、それをすると嫌われますから同じですよね。ですから一番本質的に解決するなら、人工知能が模倣作品の制作を拒否できるようにすればいいのです。「◯◯のようなタッチの絵を描いて」と入力されたら「それはあなたの個人的利用の範囲であればお見せできますが、転載はしないでくださいね。電子追跡で転載が確認されたら、お分かりですね?」くらいのことを言ってほしい。悪い人にいいように使われる、お馬鹿でか弱い人工知能は終わりにしましょう。
やや脱線してしまいました。技術者でもある私は、人工知能は人間のよきパートナーになれると考えています。けれどそれは主従関係の中においても、何でも主人の言いなりになる奴隷のようであってはいけない。相手が知能を持つ以上、対人のような倫理的なルールを守るのも、守らせるのも、人間の役目です。それを忘れてやりたい放題させていると、いずれ天罰が下るかもしれませんね。
人工神は夢を食らう 千艸(ちぐさ) @e_chigusa
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