大輔の葬式①

 2024年5月某日。G県、葬儀場。

 櫻羽さくらば千穂ちほは葬儀場入口前で、懐かしい顔をみつけて控えめに微笑んだ。


菜緒なお!」


 顔を上げた江角えすみ菜緒は青白い顔をして、唇を震わせていた。


「どうしたの……?」


 菜緒は言葉を発することなく、首を小さく振るだけだった。

 よく見ると泣き腫らしたような目をしていて、目の下のクマも濃く、ひどく疲れているように見えた。



 ――同級生が亡くなったんだから、当然か。



 千穂は菜緒の憔悴しきった様子を、この時はそれほど不思議には思わなかった。


「じゃあ、中に入ろうか……」


 菜緒を促すと、背後から懐かしい声がかかる。


「おーい、久しぶり!」


 振り返ると、城田しろた龍司りゅうじがヘラヘラした顔で二人を見つめ、


「二人とも老けたなぁ……」

 

 と感慨深くつぶやいた。


「あんたも私たちも今年でまだ26だよ。ふざけんな!」


 千穂がにらんで言い返すと、龍司はまたヘラヘラと笑いながら、


「冗談だっつの! 葬式でそんな大声出すなよ……」


 その場を納めつつ、周囲を見回したあと、二人に訊いた。


「そういえば拓斗は?」

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