大学で一番モテる男の親友に恋をした

諸星るい

第1章

第1話

今年の春から大学に入学した私は、友人である美咲みさきの好きな人を見るため、学園祭の野外ステージの最前列にいた。

由依ゆい、本当についてきてくれてありがとう!瀬名せな先輩を最前列で拝めるなんて、ああ、神様、仏様、ナムナム…」

美咲は先程からこの調子で、既にアドレナリンが溢れかえっている状態だった。午後一時からの開演までまだ少し時間がある。私は美咲に連れられて一時間前から席取りをしていたが、その三十分後には前の方の席は全て埋まっていた。聞くところによると、瀬名先輩というのは学内でも有名なイケメンで、SNSでも度々話題になるような人気ぶりらしい。美咲が興奮気味で瀬名先輩の写真を見せてくれたことがあったけど、正直あまりタイプの顔付きでは無かったので、知らなかったのも納得だった。そんなことを言うと、背後から突然刺されかねないので口には出していない。

「ナムナムって…先輩は死んでないでしょう」

「先輩に手を合わせたわけじゃないよ!神様と仏様に感謝の意を…」

美咲が全て言い終わる前に、会場全体から黄色い叫び声が上がった。殺人現場に遭遇したわけでは無い、瀬名先輩に対して客席からのラブコールだ。

「やばいやばいやばい!」

美咲がキラキラと輝いた目をステージに向けている。やばいと連呼するその声は、興奮のあまり震えていた。ステージ上へ視線を動かすと、瀬名先輩がエレキギターを抱えていた。後ろの方でドラムとベース、キーボードの担当者がそれぞれ機材の準備をしている。瀬名先輩は準備をしながら、器用に客席へ語りかけている。

「こんなに人が集まると思わなかったから嬉しいよ!みんな見に来てくれてありがとう!」

瀬名先輩が言葉を発す度に黄色い声が上がる。彼に対するアイドルのような扱いに、私だけが苦笑いを浮かべている。

「よし、こちらの準備はオッケーだよ!みんなも盛り上がる準備は出来てるかな?」

客席を煽ることも出来るのか。客席からは「キャー」という叫び声だけが響いたが、瀬名先輩はこの状況に随分と慣れているようだった。

「では、聞いてください…」

そう言って始まった演奏は、素人の拙いものであったが、知名度の高い王道の選曲に会場は盛り上がった。

歌っている人だからという理由で、何となく瀬名先輩を目で追っていると、瀬名先輩がベースを弾いている男性に視線を送った。瀬名先輩とベースの男性は普段から仲がいいのだろうか。二人にしか出せない空気感がそこにはあって、お互いを見て楽しそうに笑顔を浮かべている。この時、私の意識は瀬名先輩からベースの彼へと変わる。目を大きく見開き、彼を見つめる。

「か、かっこいい…」

思わず声に出してしまうほどの衝撃だった。

「ほら!瀬名先輩は写真より生で見た方がイケメンだって言ったじゃん!」

「違う!瀬名先輩じゃなくて!」

瀬名先輩の歌声とバンド演奏で声が掻き消される中、懸命に声を張り上げていた。

「え、じゃあ誰?」

「あのベース弾いてる人!」

最前列で声を張り上げた所為だろうか、ベースの彼と目が合った。その瞬間にストンと、私の中で何かが落ちたような気がした。

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