ミズチの『アイ』◇⑩◇
『寒いの。お布団まぜて』
月明かりが眩しい寒い夜、布団の外からミズチの声に驚く。横を向くと白ヘビがいた。あの、綺麗な黒い濡れた瞳。
『ミズチ?どうして白ヘビちゃんになっちゃったの?』
ミズチは少し、しゅんとして言った。
『美雨、人型のオレ、嫌なんでしょ?初めてプリンをくれた日から、美雨、オレを見ない。ご飯の時も、湯浴みの時も、ただ《仕事だから》話すだけだもん。だから、力をたくさん捨てて白ヘビになったの。白ヘビのオレなら、白ヘビならっ!美雨、オレのこと嫌わない!……だってあの時助けてくれた!泥だらけのオレにマフラー巻いてくれた!やさしい顔でオレにコロッケくれた!』
ミズチは瞳を潤ませて言った。千切れるような切ない声だった。
昔、私がミズチを白ヘビ扱いしたらプイッと横を向いて不機嫌になったのに。
この神様は私みたいな人間の娘に《ことわり》を曲げてまで、縋る。こぼれそうな瞳で私を見つめるミズチがいたいけで、あまりにも、つらい。
『美雨の傍にいたいの。もう美雨にオレのこと、好きになってとは言わないよ。だからお願い、オレを嫌わないで』
嫌わないで。美雨………お願い。
潤んだ瞳からミズチはホトホトと、ミズチは涙を溢した。私は布団からミズチに手を伸ばした。
『暖めてあげるから、こっちへ来て』
するするミズチが私の腕に絡まる。冷たい。力を放出し過ぎて冷えきっている。
『美雨、むむむ、胸があ、あたるよ?』
『構わないよ。まあ、少しはやわらかくて暖かいでしょ。私はミズチが好きだから良いの』
『………美雨、好き。ずっと、好きだよ。オレのアイは美雨だった。いつか、オレは美雨を置いていく。美雨を傷つけて、天へ帰る。永遠にオレを想って、なんて言わない。ゴウマンだもの。ただ、カケラくらいでいい。オレのことを憶えていて──プリンとちゅるちゅるの、らあめんの好きな、美雨のおかげでアイを知った白ヘビがいたって……』
◇◇つづく◇◇
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