ジョニデと俺
花鳥あすか
第1話
楽園のヴァネッサ。
「僕と結婚することで、君の美しい名前が消えてしまうのが辛いんだ」
ヴァネッサ・パラディとの結婚前、ジョニー・デップはそう言って嘆いたらしい。
今、俺にはジョニデの気持ちがよく分かる。
なぜなら、俺の彼女の名前はココ・ウノーテン・サイ。
孤高の天才。
ちな香港系オランダ人。
そして俺の名前は満琥太郎。
まんこ太郎。
最悪だ。
まんこ太郎が最悪なのではない。いじられすぎてもはやそれが日常になってるから、そこはスルーしてくれ。
最悪なのは、ココが俺の名字になりたがっていることだ。ココが俺の名字になったら、彼女の名前はこうなる。
ココ・ウノーテン・マン。
孤高の天満。
天満の読みは正しくは「てんま」だけど、それもスルーしてとにかく聞いてくれ。
天満は大阪の都市の名前だ。
つまりココが俺の名字になると、孤高の天才は消えていなくなり、代わりに孤高の大阪市北区天満が爆誕してしまうのだ。孤高の大阪市北区天満ってなんだよ。別にいいけども。いや意味わかんねえよ。
俺だってココの名字になりたいと言った。愛する人の名前になる。それが俺の夢見た結婚だったからだ。決して「まんこ太郎」を脱却したいとか、そんな邪な思いからじゃない。
でも、ココも頑として譲らなかった。気丈な子だったが、「私だって愛する人の名前になりたいのよ」と感情的に泣くこともあった。
俺はほとほと困り果てた。俺の結婚への思い、愛するココの願い、まんこ太……、いや、その二つが真っ向からぶつかり合って、いつまでも結婚に進めない。
それこそ一時は別れ話も出た。でも、俺らは本当に愛し合っていたし、名前のために喧嘩別れするなんて、それこそ本末転倒じゃないかと持ち直した。
結局、俺たちは相手の願いを叶えない代わりに、自分の願いも叶えなかった。つまり、夫婦別姓を選んだ。辛い決断だったが、こうして、俺たちは晴れて結婚に進むことができた。
結婚式で、牧師は笑いを噛み殺していた。時々噛み殺しきれず、唾や鼻水を飛ばしたり、誰もいないはずの後ろを振り返って肩を震わせたりと、見ていて辛そうだった。それでも牧師はやり遂げた。流石は百戦錬磨、最後はもう飽きたと言わんばかりに至って生真面目な顔で、荘厳に言った。
「では、まんこ太郎、孤高の天才に近いのキスを!」
ジョニデと俺 花鳥あすか @unebelluna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます