第26話

帰宅途中、誠一は城之内との奇妙な遭遇について考えていた。偶然なのか、それとも計画的な接触だったのか。


ポケットに手を入れると、何かに触れた。家族の写真だ。取り出して見つめていると、突然、強烈な記憶の断片が閃光のように蘇った。


*海の匂い。波の音。遥香の笑い声。「パパ、見て!」浩二の小さな手が彼の指を握る感触。美香の髪が風になびく様子。*


誠一は立ち止まり、息を整えた。これは彼の記憶だ。売却したはずの記憶ではない。どうして今、こんなにも鮮明に?


写真を見つめ続けると、さらに記憶の断片が浮かんできた。不思議なことに、それは喜びと痛みが混ざり合った感覚をもたらした。


電車に乗りながら、彼はメッセージを送った。


『桜井さん、記憶の断片が蘇りました。家族写真を見て。どうして可能なのでしょうか?』


数分後、返信が届いた。


『興味深いです。記憶は完全に削除されていないのかもしれません。エピソード記憶は消えても、感情記憶は残っている可能性があります。写真が感情的トリガーとなったのでしょう。これは良い兆候です!』


誠一は希望を感じた。彼の記憶は完全に失われたわけではない。心のどこかに、家族との絆が残っているのだ。

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