第70話 諸国遍歴編~冒険者ギルドの酒場にて

ギルド長への報告と古城跡におけるアンデットの話を聞いた後、俺達はギルド内の酒場で夕食を食べていた。ゴンザレスさん達はもう少しギルド長と話があるみたいで、終わったら合流するから待っていてくれという事だった。



「酒を飲むのはもうずいぶん久しぶりのような気がする。コンテナだとつい安心して一杯ひっかけたくなるが、最初に決めたルールには従わんといかんからな。さすがに野営中に酒を飲んだらいざと言う時対処が遅れる。つい気が緩みそうになるから今後もルールはきちんと守るとしよう」とドグマ。


「そうですわよ。私だってダーリンといちゃいちゃしたいのを我慢してるのですから、皆さんにもルールを守っていただかないと・・・」とナタリン。


「そうだったな、お前さんの場合野営中のイチャイチャとお触り禁止だったか。となると今夜は野営ではないからイチャイチャし放題、触り放題ってところか?」とあおるドグマ。


「そういう事になりわすわね。どれだけこの日を待ちわびた事か・・。成人するまでは節度を守って・・・。そう言い聞かせてずっと我慢して参りましたのに、成人する直前に出発、しかもこんな非情なルールまで作るなんてひどい話だと思いません?こんな仕打ち、いえこんなお仕置きまでされたら・・どうにかなってしまいそうですわ」と意味なくもだえるナタリン。

※この世界の成人は15歳


「ナタリンさんにしたらオアズケもご褒美だってラング君が言ってましたけど、どういう意味なんですか?」と無垢なジョンジョン。

「ナタリンはねM体質だからちょっと普通と感覚が違うのさ。ジョンジョンには参考にならないからあまり気にしないでね」と俺


「ジョン様アタイはじゃ満足しやがりませんです。好いたお殿様には行動で示してほしいでやがります」と敬語練習中のブレイネ。お殿様じゃなく殿の事だろう。

「そうなんですか?お預けはみんながみんな好きなわけじゃなんですね。行動で示すってどうすればいいんだろう?」無垢なジョンジョンが素朴な疑問を口にする。

「ジョン様そのたくましいお腕でぎゅ~っと抱きしめやがりまして、ぶちゅーっと口を吸ってほし・・いや、口をお吸いあそばせばいいでやがりますぜ」

ブレイネさん敬語はもう諦めたらどうだろうか?あと願望ダダ漏れね・・。ジョンジョンは奥手だから焦らずにお願いしますよ。



何故か一人だけ乱入したブレイネさんも交えて楽しく会食していると、急に辺りが騒がしくなった。今まで閑散としていた冒険者ギルド内の酒場にぞろぞろと人が入り込んできたのだ。

例のアンデット対応に駆り出されていた冒険者達が戻ってきたのだろうか。

みるみるうちに席が埋まり、これまでと打って変わって賑やかこの上ない雰囲気となった。


恐らく連日働き詰めだったのだろう、仕事終わりの一杯でしたたかに酔った冒険者達が騒がしい。荒っぽい連中が酒に酔うと中にはからみ酒となる者も出てくるわけで・・・


「よっ!そこの綺麗な姉ちゃん、そんなしみったれた席にいないで俺達のテーブルに来いよ!俺達と楽しい事しようぜ!」

そう言って俺達の席に近づいたかと思えば、ナタリンの肩を掴んだ。


「せっかくのお誘いですがお断り致しますわ。それと気安く触れるのはご遠慮下さらない?」ナタリンは手を振りほどくように肩をずらしながら答えた。


「随分お高くとまってるじゃねーか。町のために体を張っている俺達を労おうって気持ちもねーのかよ!魔物との戦いで高ぶった俺達をそのうまそうな体で慰めてくれねーかな」男は凝りもせず再びナタリンの肩を掴んだ。


「おい、その汚ねぇ手をどかしやがれ。いきなり他所よその席にちょっかい出すたぁ良い度胸じゃねーか。しかも見ず知らずの女性に触るたぁとんだクズ野郎だな!」

とっさに立ち上がったブレイネさんはその男の手を払いのけた。興奮して敬語を忘れているのはご愛敬という事で。


「おい、てめぇみてぇな男女と話してるんじゃねぇ。てめぇなんか眼中にねぇってんだ。大人しく引っ込んでろ!」

その男がブレイネさんに啖呵たんかを切った瞬間ジョンジョンが立上りその男の襟首を掴み上げた。


「ナターシャさん、ブレイネさん大丈夫ですか?あなたもいきなり失礼な人ですね。女の人に乱暴な態度は止めてください!」

そう言ってジョンジョンは男をぶら下げたまま二人を気遣う。あの気の弱いジョンジョンがこんなに立派になって・・・。よっジョン様、王子様!


「てめぇ何しやがんだ、離せ、離しやがれ」

「はい、わかりました」

バタバタ暴れる男からジョンジョンが手を離すと、ドスンと音を立てて床に転がったのだ。

そうして真っ赤な顔をして立上り、あろう事か腰から短剣を取り出したのだ。

さすがにそれを目にした俺達も頭にきた。


ドグマ氏が席を立ち身構えると、俺はすばやくの男の間合いに入り、手を捻るようにして床にねじ伏せた。

コツンと音を立てて床に転がった短剣を手で振り払うと、ドグマがその男をがっしりと抑え込んだ。


「酔った勢いでちょっかいをかけてきた挙句、刃物まで出しちゃぁ洒落にならんすよ。そもそもブレイネさんが言うように見知らぬ女性にむやみに触れるなんてどんな野蛮人だっての。はい、お仲間さん達も動かないでね。これ以上騒ぎを大きくするともう後戻りできなくなりますよ?」

啖呵たんかを切るうちにどんどん頭に血が上ってきた。


そうしてドグマ氏に抑え込まれた男の助太刀とばかりその男の仲間達が走り寄ってきた。あれ?人数多くない?

よく見ると酒場で飲んでいた冒険者達のほとんどが敵方に与したみたいだ。


「お前ら俺達の地元で好き勝手やってくれたな。五体満足で帰れると思うなよ。」

その言葉をきっかけに大乱闘に発展してしまったのだ。


多勢に無勢・・・。本当ならひどく不利な状況なのであろう。普通ならば。


だが、この数年で俺のスキル【言霊】はとっくにチートスキルに仕上がっていた。

効果≪奮≫は≪鼓舞≫を経て≪激励≫に至り能力値100倍。

効果≪導≫は≪指導≫を経て≪指揮≫に至り俺が率いる一団は能力値100倍。

100×100=10,000

仲間の能力は10,000倍となるのだ。

こんなの負けるわけがないのである。


俺自身だってチート従者のおかげでヤバいくらい強くなってるしね。

とは言え、俺自身は10,000倍の補正効果は享受できないから、指揮する戦闘では結果的には俺が未だに一番弱い事になるんだけどね・・・。


ナタリンに【状態不変】を発動してもらったので器物を損壊させる恐れもない。

という事でギッタンギッタンにしてやった。


「まだやる?奥にいる人達もさっきまでの威勢はどうしちゃったのかなぁ。まだ、俺達全然本気出してないんだけど~。俺の仲間に暴言履いて、俺の婚約者に手を出そうとした奴に肩入れした時点でお前達も同罪だよ?」

そう言って希に巨大化及び関係者全員の捕縛を命じると糸網で一網打尽にしてくれた。


やっと現れたゴンザレスさんがびっくりしてるぞ!

ギルド長は・・・頭を抱えてらぁ。


フン、知るもんか。売られた喧嘩を買ったまでだ。

酒場内だってご覧の通り物一つ壊れてないからね。


さぁ、どう落とし前をつけさせようか。



☆ ☆ ☆



ふと見るとブレイネさんがどさくさに紛れてジョンジョンに抱きついていた。

抱きしめて欲しいとか言ってたはずだが・・どうみてもブレイネさんがそのたくましい腕でジョンジョンを抱きしめちゃってるよね?


お願いだからジョンジョンが行動で示すまで待ってあげよ~よ。

だめ、だめ、お口吸っちゃだめ~~。

大乱闘が終わり静まり返った酒場内に

ジョンジョンの魂まで吸引しそうな程の音が響き渡った・・・。

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